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車のメカニックだったテッド・イングリング、現在は世界最大のジェットエンジンを開発中

米国ミシガン州の小さな町で育ったテッド・イングリングは、幼少期から自動車整備士になりたいと思っていました。残念ながら計画通りにはいかなかったですが、世界にとってはその方が良かったのかもしれません。

イングリングは車のブレーキパッドやガスケットを交換する代わりに、大陸間の移動を数時間で可能にするジェット旅客機用の効率的なエンジンの開発に30年にわたり、携わってきました。現在、彼はGEアビエーションがボーイングの次世代ワイドボディ機777X用に開発している世界最大の民間ジェットエンジンであるGE9Xエンジン・プログラムのゼネラル・マネージャーを務めています。エンジンは直径11フィート(約3.35メートル)以上で、ボーイング737の胴体部分の直径と同じくらいです。「私が取り組んできたテクノロジーは、あまりに素晴らしいものです」と彼は言います。「私には退屈する暇がありません」

私たちGEレポート編集部は、6月17日に始まったパリ航空ショーの開催前にイングリングに話を聞いてきました。その時の会話の編集がこちらです:

GEレポート: 世界最大のジェットエンジンはどのように造られているのですか?

イングリング:私はGE9Xエンジンの大きさについての議論を始めるときはいつも、その背景から話すことにしています。このエンジンは大きくて新しく、常識の限界を超えているように感じますが、第5世代エンジンアーキテクチャに根ざすものです。大もとになっているのは、ボーイング777用に開発し、1990年に運用が開始されたGE90エンジンです。世界で最もパワフルなジェットエンジンであり、現在運用中のGE90エンジン・ファミリーの中で最新鋭であるGE90-115Bに比べて、GE9Xは10%の燃費向上を実現しています。これらの燃料節減は、まさにこのエンジンの特徴と言えます。

GEレポート: その燃費向上を、どのように実現したのですか?

イングリング:エンジンのサイズは確かに性能を得るための一部ですが、私たちはいわゆるバイパス比を追求しています。これは、エンジンの中心部以外の外側流路をどの程度の空気が循環しているかに対し、エンジンの前部にある大きなファンを駆動するのにどの程度のエネルギーが必要かを示します。

GEレポート: 最新のジェットエンジンの仕組みを読者に説明していただけますか?

イングリング:現在運航されているほぼすべての旅客機に搭載されているジェットエンジンは、高バイパス比ターボファンと呼ばれています。これは、推力の大部分がエンジン前面のファンから来るからです。ゲートに駐機している飛行機には扇風機のような羽根が見えます。GE9Xのファンは直径11フィート (134.5インチ、3.35メートル) 以上です。また、コアから推力を得て、高速で高温の空気ジェットを生成しますが、コアの主な機能はファンを駆動することです。

GEレポート:このデザインは初期のジェットエンジンと比べてどうですか?

イングリング:最初のジェットエンジンはコアを使って推力を発生させていました。空気はエンジン内部を流れ、中央で燃料と混合し、着火して反対側に流出しました。当時のエンジンはうるさくて燃費がよくなかったのです。エンジン前面のコア周りのファンを大きくすることで、GE9Xのバイパス比は10:1以上になり、従来の機体速度を維持しつつ、高性能を発揮することができました。このエンジンは、コアを通すよりも、コア周辺とファンを通じて10倍以上の空気を送り込んでいます。

トップ画像:GE9Xエンジン・プログラムのゼネラル・マネージャーであるテッド・イングリングは、617日のパリ航空ショーで
GE9Xジェットエンジンを発表しました。画像提供:トーマス・ケルナー GE Reports誌)
上部画像:GEアビエーションがボーイングの次世代ワイドボディ機777X用に開発した世界最大の民間ジェット機用エンジン。
直径
11フィート (3.35m) 以上で、エンジンの直径はボーイング737

GEレポート:では、将来的には、より大きなファンを持つ巨大なエンジンが登場するでしょうか?

イングリング:それほど簡単ではありません。必ずしも大きいほうが良いというわけではないのです。重量が増えますし、航空機に取り付けることも考慮しなければなりません。また、飛行機をより大きなエンジンに対応した設計にする必要がありますし、離着陸に支障がないようにしなければなりません。

GEレポート:それでは、どのようにして適切なサイズを決めるのですか?

イングリング:それはGEアビエーション社内での反復的なプロセスであり、今回の場合はボーイング社とも連携しています。彼らは現在777Xという飛行機を開発していますが、これは既存のボーイング777-300ERより20%も燃費が良く、同じ距離でより多くの乗客を運ぶことができます。私たちは協力して、エンジン、翼、飛行機の最適な組み合わせを開発していかなければなりません。

燃料節減を可能にする約半分の要因は機体の設計によるものです。例えば、ボーイングは、揚力と抗力を劇的に向上させる折りたたみ可能なウィングチップ(翼端)を備えた大型かつ完全に複合素材からできている翼を設計しました。残りの要因はエンジンです。

GEレポート:どのような技術を使ってそこにたどり着いたのですか?

イングリング:ファンが良い例です。GE90以降の弊社の大型エンジンには、すべて炭素複合材を使用したファンブレード(ファンを構成する羽根の部分)を採用しています。この複合材は丈夫で、しかもチタンよりもはるかに軽いのです。私たちはその開発に何年も費やしましたが、努力は報われました。その材料のおかげで、私たちはエンジンの重量を何百ポンドも減らすことができたのです。

しかし、GE9Xのブレードは1990年の最初のものとは大きく異なります。例えば、新しい計算ツールを使用することで、ブレードを洗練させ、その堅牢性と形状を最適化してパフォーマンスを向上させることができました。当初のGE90ブレードを見ると、かなりまっすぐで、根元と先端が軽く波打っています。現在のブレードには弧と傾斜が組み込まれ、まったく異なる外観になっています。また、刃の先端部をチタンではなく鋼で補強する新工法を採用し、強度を高めています。その結果、GE90では22枚だったブレードをGE9Xでは16枚にまで減らすことができました。すでに第四世代のブレードになりますが、複合素材のブレードを生産しているのは当社だけです。

GEレポート:GE9Xには、3Dプリンターで製造された部品を使用していますか?

イングリング:はい、エンジン内部には7つの3Dプリント部品があります。温度センサーや、燃料と空気を混合するミキサーと呼ばれる燃焼システムの一部、燃料ノズルのための燃料回路のような比較的小さな部品の他、熱交換器や、空中の塵や破片がコアに入るのを防ぐ粒子分離器、さらには1フィートほどの長さのある低圧タービン(LPT)ブレードのような大きな部品も3Dプリンターで製造しています。

GEレポート:GE9Xは、3Dプリント部品を搭載した初のGEジェットエンジンですか?

イングリング:いいえ、GE90が3Dプリントされた温度センサーを使った最初のエンジンです。しかし、センサーは比較的単純な部品です。例えば熱交換器は、細い金属製のパイプを何十本も並べて作られる複雑な部品です。3Dプリンターを使ったアディティブ製造によって、熱工学エンジニアは、製造コストを気にすることなく最高の設計を行うことができるようになりました。

GE9Xのファンは直径11フィート (134.5インチ、3.35メートル以上だが、イングリングは、今までのエンジンに比べ、
10%の燃費向上が、「まさにこのエンジンの特徴」と言います。 画像提供:GE
アビエーション

GEレポート:部品を製造するためだけに3Dプリンターを使っているのですか?

イングリング:いいえ。設計段階でも役立ちます。たとえば、ジェットエンジンの燃焼システムを従来の方法で設計すると、18ヶ月かかることがあり、プロトタイプを鋳造するためにはお金をかけなければいけません。何か新しい発見があり、設計を改良し、テストし、ツールを構築するだけで何ヶ月もかかり、それを繰り返すことを想像してみてください。率直に言って、3Dプリンターを活用したアディティブ製造技術は非常に強力であり、特に開発の初期段階では、設計チームが概念をより速く、繰り返し研究することができるのです。

GEレポート:GE9Xは、GE90以外のテクノロジーを使用していますか?

イングリング:はい、セラミックマトリックス複合材と呼ばれる、軽くて耐熱性のある材料で作られた部品を使っています。この材料は、ファンブレードに使用する炭素複合材とは大きく異なります。重量は鋼鉄の3分の1ですが、ほとんどの超合金が柔らかくなってしまうような温度にも耐えることができます。私たちの研究所、GEグローバル・リサーチでこの技術を開発するのに30年かかりました。私たちは、GEアビエーションと仏サフラン・エアクラフト・エンジンズ社が折半出資しているジョイント・ベンチャーのCFMインターナショナル社製ジェットエンジンLEAPでこの技術を最初に使用しました。LEAPはCFM史上最も売れているエンジンで、受注額は2,200億ドルを超えます。このプログラムのおかげで、素材から部品を大量生産し、その特性を生かした新しい部品を設計する方法がわかりました。

GEレポート:なぜ素材が重要なのですか?

イングリング:エンジンをより効率的にするために、より大きなバイパス比を追求していることについてお話ししたのを覚えていますか? セラミックのおかげで、エンジンのコアを小さくすることができます。

GEレポート :ファンを大きくするのではなくて?

イングリング:はい。バイパス比をできるだけ大きくしたいと考えています。コアの物理的なサイズを小さくしても、ファンを駆動するのに必要なパワーの生成を可能にすることで、これを実現できます。コア内部の圧力比を高めることによって実現されており、より小さな体積からより多くのエネルギーを得ることができます。その結果、ファンを大きくすることによる抵抗や重量を受けることなく、より大きく自然なバイパスを得ることができます。基本的に、ファンを大きくする必要がないように、コアを小さくし、エンジン内部を少し小さくしています。

GEレポート:これは素晴らしいことですが、このコアの小型化には、何らかの大胆なエンジニアリングが必要なのでは?

イングリング:そうです、ここでセラミックマトリックス複合材が登場します。コア内の圧力を上げると、温度も上昇します。このセラミックは華氏2,400度(摂氏1,315度)まで対応できるので、温度を上げることができるのです。この温度上昇を更なるパフォーマンス向上に結び付けることができます。

GE9X20183月に初飛行を行いました。画像提供:GEアビエーション

GEレポート:圧力比はどれくらいですか?

イングリング:GE90エンジンのコンプレッサーのフロントとエンドの圧力比は約40:1で、基本的に大気圧の40倍です。次世代大型エンジンであるGEnxは、多くのボーイング787ドリームライナーやボーイング747ジャンボ機の最新型機に搭載されており、圧力比は50:1です。しかし、セラミックのおかげでGE9Xの内部で60:1まで上げることができました。これは非常に大きなことです。その結果、GE9XエンジンはGE90ファミリーのエンジンよりも大幅に大きいわけではありませんが、はるかに効率的です。

GEレポート:昔からジェットエンジンを作ることに興味があったのですか?

イングリング:ジェットエンジンは後年出会ったものです。私はミシガン州出身で、ラストベルトの自動車マニアです。高校卒業後、私は自動車整備士としてフルタイムで働き、それが私のキャリアになるだろうと思いました。しかし、週60時間勤務を一年間ほどした頃、大学に通う友人を見ていたら、これは私にとって長期的なキャリアではないかもしれないと気付きました。私が大学に行きたいと言った時、父はとても喜びました。

GEレポート:航空宇宙工学を勉強したのですか?

イングリング:いいえ、工学部は自動車産業で働くために良い方法だと思っていましたが、私が卒業したころ、自動車産業は大きく沈滞していました。仕事を探していた時は、面接を受けるまで、GEがジェットエンジンを作っているとは知りませんでした。ですが、すぐに航空業界に夢中になりました。私が取り組んできたテクノロジーは、あまりに素晴らしいものです。私には退屈する暇がありません。

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