
Wash and Go:GEの新たなジェットエンジン洗浄システムが航空会社のCO2削減と運航改善に貢献
ジェイ・ストウ
ジェットエンジンについて航空会社が最も重要視するのは「time on wing(エンジンが翼に付いている時間)」です。なぜなら、メンテナンスのために取り外すことなくエンジンを良い状態で保つことができれば、それだけ多くのフライトをこなし、乗客にサービスを提供することができるからです。
とくに、中東の航空会社は常に「time on wing」を引き延ばすために奮闘しています。砂漠が広がる中東では砂がエンジン内部のタービンブレードに固着したり、コンプレッサーに入り込んだりすることが多いため、燃料消費量が悪化し、CO2排出量の増加にもつながる恐れがあるからです。そこで、GEは新たな解決策を編み出しました。航空機エンジンの設計・開発、さらに長年の研究と検証をしてきたGEのエンジニア達は、エンジンにまとわりつく砂の影響をものともしない新しい手法を考え出しました。この技術は「GE 360フォームウォッシュ(GE’s 360 Foam Wash)」と名付けられ、民間航空機用ジェットエンジンを徹底的に洗浄してその性能を改善させ、かつ気候に悪影響を与えるCO2を何トンも削減できる可能性があります。
GEアビエーションのシニアテクノロジー・プログラムリーダーを務めるマイク・エリクセン(Mike Eriksen)は次のように語ります。「世界中でこの30年間、ジェットエンジンの洗浄と言えば水洗いしかしてきませんでした。文字通り、エンジンを回転させながら前方から水を噴射して洗い流すやり方です。しかし、それでは砂の固着などの課題に対処できませんでした。そこで、私たちはエンジンの洗浄方法を根本から変えたわけです。」
現在、360フォームウォッシュを使用した洗浄が承認されているのは、GE90、GEnx、CF34、CF6などのエンジンに加え、エアバス社の総2階建て超大型機A380のためにエンジン・アライアンス社(Engine Alliance)が開発したGP7200エンジンです。昨年11月に開催されたドバイ航空ショーでは、2017年以来、360フォームウォッシュプログラムを利用した各現場でのエンジン洗浄回数が1,000回に達したとGEアビエーションが発表しました。
これまでに360フォームウォッシュを使用するライセンス契約を締結したのは、航空会社7社とMRO(メンテナンス、修理、オーバーホール)事業者1社にのぼります。そのうちのひとつであるエティハド航空だけでも、水洗浄から360フォームウォッシュによる洗浄に切り替えた結果、GE90とGEnxエンジンを搭載する保有機材合計で2021年末までに7,000トン以上のCO2削減が見込まれています。
実際、昨年10月末から11月上旬にイギリスで行われたCOP26の開催に合わせ、エティハド航空がロンドンからアブダビまでの長距離フライトで運航したボーイング787は、既存の技術に加えて360フォームウォッシュも実施することで、CO2排出量を72%削減することに成功しました。ほかにも、このフライトではSAF(持続可能な航空燃料)の使用や、自機の飛行機雲の形成を抑制する飛行ルート修正・設定システムの活用、さらにはエコフレンドリーな食器類による機内食サービスが実施されました。くわえて、GEアビエーション製GEnxエンジンの搭載と、GEデジタルのフュエル・インサイト(Fuel Insight)というソフトウェアによる燃料データ分析も合わせて行われ、燃料節約のための調整を数分単位で行いながら飛行するというフライトを実現しました。このボーイング787は、昨年11月半ばに開催されたドバイ航空ショーでも展示されました。

エンジンの洗浄に対するソリューションの探求は2012年頃に始まりました。エリクセンは次のように振り返ります。「私たちは、お客様が所有するワイドボディ機に搭載されているGE製エンジンが「高温で過酷」な砂漠の環境の影響を受けていることに気づき始めました。」エミレーツ航空やエティハド航空、カタール航空が同じ問題、すなわちGE90とGEnxエンジンのコア部に非常に細かい粒子状のダストが「焼き付き」、燃料消費率の低下を引き起こしているとGEに相談に来たのです。定期的なメンテナンス時に従来の水洗浄を行っても、エンジンを十分にクリーンに保つことができず、一回ごとの洗浄効果も次第に薄れてくる問題が出てきたのです。さらに、砂漠の容赦ない熱と砂がエンジンへの負荷を増やすこともわかってきました。
ドバイにあるGEの中東テクノロジーセンター(Middle East Technology Center)でこの問題を検証後、GEアビエーションはニューヨーク州ニスカユナにあるGEリサーチセンター(GE’s Research Center、以下GRC)にデータを持ち込みました。ここでエリクセンは2つの大きな問題を突き付けられました。「エンジンに焼き付くダストの特性をどう捉えるか、そしてそれをどのように取り除くか。」
GRCの地質学者がサンプルをさまざまな試験にかけた結果、このダストは「変成作用を受けて非常に硬くなったチリの層」であることがわかりました。引っ掻くとセメントの粉のようになるんです」とエリクセンは言います。時折エンジンの吸気口に入り込んでしまう砂利や石、砂粒を、GEのエンジンは通常なら吸い込んだのちに分離することが出来ます。「しかし、私たちが見つけた極めて細かいダストはエンジンのコア部全体を通過してしまうため、堆積して問題を引き起こしていたのです」とエリクセンは説明します。
そのときから本格的なブレーンストーミングが始まりました。それから数年、GRCの技術者たちは、固着したダストの層に含まれる結合剤を分解するのに非常に有効な、エリクセン氏の言葉を借りれば「まったく新しい洗浄剤」を開発したのです。ですが、洗浄剤ができたところで、それを「いかに慎重にエンジンに注入するか」というもう一つの課題が出てきたのです、と彼は言います。
そこで登場したのが「泡(foam)」です。エリクセンは次のように説明します。「泡だけでは単に体積の大きな充填剤にしかなりません。私たちが目指したのは『どうしたらこの洗浄剤をエンジン全体に行き渡らせることができるか』を導き出すことでした。ただ吹き付けるだけではダメなのです。というのも、化学反応によって洗浄作用が引き出されるので、ホコリが付着している面全体に新鮮な状態の洗浄剤がたえず触れている必要があるからです。」
研究室では、発泡システムのプロトタイプとエンジンのモックアップを3回作り直し、洗浄剤を安全かつ効果的にエンジンのコア部全体に行き渡らせる方法を検討しました。発泡システムの微調整が終わると、つぎはGEアビエーションのオーバーホール工場に持ち込んで、修理中のさまざまなエンジンで試しました。フォームウォッシュを行った後、テストセルでエンジンを動かし、その回復度、つまりエンジン運転時の温度を測定するのです。エリクセンはさらにつぎのように説明します。「排気温度(exhaust gas temperature、以下EGT)が一定の範囲内に収まればエンジンは効率よく回っていると判断できます。ダストが堆積すると、同じ推力を得るためにはエンジンがより強く回転しなければならず、その場合はEGTが上昇してしまうのです。」
通常の水洗浄を行うとEGTが低下するため、エンジンの効率は上がるのですが、フォームウォッシュはEGTの「著しい」低下をもたらします。「そのため、EGTの回復と燃料流量の回復が桁外れに良くなるのがわかり始めたのです」とエリクソンは説明します。
2017年までに、エリクソンらは実用化に向けた準備ができていました。エティハド航空は同年1月、ボーイング777に搭載されるGE90エンジンで360フォームウォッシュのオンウィング(on-wing)試験を開始し、4月にはカタール航空がボーイング787のGEnx-1Bエンジンで同じ試験を実施しました。その後4年間、GEアビエーションはエティハド航空、カタール航空、エミレーツ航空のパートナー航空会社と協働しながら、フォームウォッシュシステムの事業化を進め、エンジンに洗浄剤をポンプで送り込むホースと、流れ出る溶液を受け止める別の覆いを備えた特殊な自給式カートも開発しました。このカートにより、360フォームウォッシュは、メンテナンスハンガー内や屋外の駐機場でも、オンウィング、オフウィング(off-wing:機体からエンジンを外した状態)のさまざまな場面で活用されるようになりました。
そして現在、エミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空、そしてロイヤルヨルダン航空(Royal Jordanian Airlines)が360フォームウォッシュでGEnxおよびGE90エンジンを洗浄するための技術ライセンスを取得しています。エティハド航空のローハン・ダグラス(Rohan Douglas)エンジン管理担当シニアマネージャーによると、同社はGEnx-1BおよびGE90を搭載した航空機が、フォームウォッシュの利用でどれだけ燃料を節約できるか検証を開始し、「フォームウォッシュの使用による燃料消費量の改善を目の当たりにしています」と語っています。
GEアビエーションのオンウィングテクノロジー・サービスリーダーを務め、GEのお客様向けフォームウォッシュの展開を担当するヤセル・エルキラニ(Yasser Elkilani)は次のように語ります。「GE90およびGEnxエンジンの技術試験において、360フォームウォッシュソリューションは中東のお客様が持つ問題を解決しました。つまり、エンジン内の堆積物の減少、排気温度の低下、コンプレッサーの効率向上につながったのです。また、これらの改善によって燃料消費量が節減でき、CO2排出量も削減され、エンジンのオンウィング時間も長くなりました。」
GEはお客様である航空会社がCO2排出量をより削減する方法をそれぞれの事業に取りいれることができるよう、様々なサポートを続けています。ダグラスは次のように語ります。「私たちエティハド航空とGEは共に目標を達成できると信じています。私はGEの社員に『新しくて面白そうなアイディアがあれば、エティハド航空にいつでも言ってください』と伝えています。」