
3Dの変貌:クルミ大の部品が、どのようにGEアビエーションのジェットエンジンの製造方法を変えたのか
ジェットエンジンの燃料ノズルは一見それとは分かりません。ずんぐりとした2つの脚に載った蛇口のような形状で、手のひらに乗るほど小さな、まるで取り付け忘れられた導管備品です。この目立たない部品が、GE史上もっとも画期的な技術のひとつであることに気づく人はほとんどいないのではないでしょうか。この技術によって世界で一番売れている商業用ジェットエンジンを生み出し、GEに新事業をもたらし、3Dプリンティングの可能性を世界に示したのです。
アディティブ製造とも呼ばれる3Dプリンティングは、主に研究室でしか使用されない未来の技術からたった数年で実用向けの製造方法へと進化しました。GEはすでに3Dプリンティングでジェットエンジン部品の量産を始めています。10月、米国アラバマ州のオーバーンにあるGEアビエーションの3Dプリンティング施設では、30,000個目となる燃料ノズル先端部が製造されました。
遡ること10年前。GEアビエーションとフランスのサフラン・エアクラフト・エンジンが50%ずつ出資した合弁会社、CFMインターナショナルは、既存エンジンよりも燃費が良く、排気ガスも削減する新たな商業用ジェットエンジンであるLEAPエンジンの開発に乗り出しました。このエンジンをつくるという野心的な計画が進むにつれ、当時GEアビエーションのエンジニアリング部門を率いていたモハメッド・エテシャミは、ジェット燃料と空気を効率よく混合するよう設計されている燃料ノズルの先端内部にある非常に複雑な流体通路にその成功が掛かっていることにすぐ気づきました。
プロジェクト成功のため、エテシャミは一流のエンジニアたちを招集しました。その中に、タービンブレードにおける功績がエテシャミの目に留まった、当時まだ28歳だったジョシュ・ムックというアマチュアパイロットもいました。ムックと同僚たちは試行錯誤を経て、ほどなくして14の精巧な流体通路を収容するクルミほどの大きさの部品を開発しました。
上品なデザインには仕上がりましたが、部品には大きな欠点がありました。先端部の内部構造が複雑過ぎるため、製造するのが不可能に近かったのです。「8回鋳造を試みましたがことごとく失敗しました」とエテシャミは回想します。
上記:20点の部品を溶接していた従来と比べ新しい部品の先端部(右側の穴が開いたリング部の内部)は25%の軽量化、5倍の耐久性、30%のコスト削減を実現。最上部:LEAPエンジンの横に立つジョシュ・ムック。画像提供:GEアビエーション
従来の手法では無理でしたが、3Dプリンティングでは可能性がありました。3Dプリンターはレーザーペンのようにコンピュータ製図に沿って溶解させた微細金属粉末を何層も重ね、形にします。3Dプリンターは、廃棄物を従来の製造方法の数分の一まで削減しつつ、燃料ノズルの様な複雑で高密度な部品を作ることができます。問題は、当時GEアビエーションがアディティブ製造を試作品以外で使用したことが無かったため、商業目的での経験はなく、ましてや旅客機に対する導入事例などもありませんでした。
少年の頃から機械いじりが好きだったムックにとって、これは正に夢の仕事でした。3Dプリンティングのパイオニアであるグレッグ・モリス(最終的にGEが彼の会社を買収)と密に協働し、ムックは既製品の3Dプリンターを再設計し、燃料ノズルの仕様を満たすものの開発に貢献しました。20点の部品を溶接していた従来と比べ新しい部品の先端部は25%の軽量化、5倍の耐久性、30%のコスト削減を実現しました。
しかし、まだ完成にはほど遠い状態でした。LEAPプログラムのスケジュールに間に合わせ、米国連邦航空局の認証を受けるために作業を急ピッチで進める必要がありました。また、LEAPエンジンの注文が増えるなか、GEアビエーションの3Dプリンティング業務を量産体制に移行する方法を模索しなければなりませんでした。「3Dプリンティングは、インクプリンターと同じ様な単純なものだと思われがちですが、実際はそうではありません」と、GEアディティブのAddWorksチームを統括するクリス・シュッペは言います。AddWorksチームとは、GEの顧客によるアディティブ製造の導入を支援する約200名の技術コンサルタントグループのことです。「燃料ノズルは、人間の髪の毛ほどの厚みの金属粉末層を3,000以上積層する必要があります」
3Dプリンターはレーザーペンのようにコンピュータ製図に沿って溶解させた微細金属粉末を何層も重ね、形にする。画像提供:Avio Aero
GEアビエーションはこれらの複雑な工程を考案するため、航空専門家から冶金技術者に至るまで、およそ100名の従業員で新たなチームを結成しました。製品の材料特性に対応できるよう、各マシンの適切な較正も含まれました。これは、メーカーが新しいマシンを生産ラインに加えるたびに繰り返し行わなければならない、骨の折れる手順でした。
そして2015年、オーバーンにある自社の3Dプリンティング施設で燃料ノズルを完成させました。いつでも使用できる40台の3Dプリンターと、オーバーン大学の豊富な人材を有する同施設から、2017年には合計8,000個の燃料ノズルが供給されました。現在、これまで製造された3Dプリント製の燃料ノズル先端部の総数は33,000個に上ります。
この軌跡は称えるべき大きな意義があります。この工場では、エアバスA320neoとボーイング737 MAXジェット機に搭載されるエンジン向けの燃料ノズルも供給しています。LEAPエンジンの受注総数は16,000台を超え、その評価額は2,360億ドル以上です。
LEAPエンジンだけでなく、GEアビエーションはアディティブ製造を使って、ボーイング社の新しいワイドボディジェット機「777X」用に開発した「GE9X」といったエンジン向けに、センサーやブレード、熱交換器等の部品を製造しています。また、当技術はGEの新しいターボプロップエンジン「Catalyst」で小型航空機分野にも進出しました。3Dプリンティングを使うことによって、技術者たちは855の部品をわずか12点に置き換えることに成功しました。
しかし、アディティブ製造の航空機産業への導入は始まりにすぎません。現在、自動車やエネルギー、医療、その他の産業が3Dプリンティングを取り入れています。GEは、このアディティブ事業部の装置や材料、サービスでの収益が2020年まで増え続けると見込んでいます。一つのクルミほどの小さな部品から、これだけ展開できるというのは驚くべきことです。