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カーボンゼロへの道: ニューヨーク州の発電所がGEと共同で「グリーン水素」の実証プロジェクトを開始

ウィル・パルマー

 ニューヨーク州ポキプシー市から東へ30マイル(約48㎞)にあるドーバー市のその一角は、工場跡地で20年間空き地でした。昨年、クリケット・ヴァレー・エナジー・センター社(Cricket Valley Energy Center)はこの場所に発電業界における脱炭素化のモデルケースとなる発電施設を作り上げました。

同社が2020年に商業運転を開始した発電容量1,100MWのクリケットヴァレー天然ガス火力発電プラントは、天然ガスを燃料とするGE 7F.05ガスタービンを3基設置し、100万世帯の消費電力を賄うことができます。天然ガスはほかの燃焼用燃料よりクリーンであることから、電力会社がベースロード電源としての割合を高めたり、寿命を迎えた石炭火力発電所をスムーズに廃止するのに役立ちます。そして今、天然ガスはさらにサステナブルなエネルギーとしてより存在感を高めつつあります。

7月15日にGEと締結した契約により、同発電プラントは2022年後半から、天然ガスと再生可能エネルギーで生成された水素である「グリーン水素」を5%(体積比)混合した燃料で稼働する実証プロジェクトを3基のタービンのうち1基において実施することになりました。本契約は、今後10年間で発電プラント全体を100%グリーン水素専焼施設に転換することを目指すプロセスの第一歩となり、よりクリーンなエネルギー転換への一環として水素を導入する気運をさらに高めることにもつながります。

「H2ロードマップ(H2 Roadmap)」と名付けられたこの取り組みは、ニューヨーク州が2019年に制定した「気候リーダーシップ・コミュニティ保護法(Climate Leadership and Community Protection Act、CLCPA)」で表明した、2040年までに電力部門のCO2排出をゼロにするという目標を支援することを目的としており、米国の州の中でも最も意欲的な目標となっています。H2ロードマップにより、クリーン燃料の普及によって進む燃料ミックスで水素がどの程度利用できるかを検証することで、水素セクターの研究開発が促進されるとみられています。

このプラントを運営管理するアドバンスド・パワー・アセット・マネジメント社(Advanced Power Asset Management)のチャック・デイビス社長(Chuck Davis)は、「信頼性が高く、需要に即応できる発電技術を擁するリーダー企業として、弊社はニューヨーク州における低炭素技術の開発を進めるために、水素に関するGEの幅広い知見を活用しました。今回の契約により、近年建設された天然ガス火力発電所を低炭素燃料やゼロカーボン燃料を燃焼する施設に転換するためのロードマップをより明確にすることができます」と述べています。

トップ画像:クリケットヴァレー天然ガス火力発電プラントは2022年後半から、天然ガスと再生可能エネルギーで生成された水素である「グリーン水素」を5%(体積比)混合した燃料で稼働させる実証プロジェクトを3基のタービンのうち1基において実施する予定です。上部画像: ロングリッジ社が運営する発電所は、当初から発電用燃料として水素を利用することを前提とした米国初の施設となります。画像提供:GEガスパワー

クリケットヴァレーの今回のプロジェクトは、ニューヨーク州における「グリーン水素」の7月2例目の案件となりました。7月8日、アンドリュー・クオモ州知事(Gov. Andrew Cuomo)は、ロングアイランドにあるニューヨーク州電力公社(NYPA)のブレントウッド(Brentwood)発電所で、それまでの天然ガスから「グリーン水素」と天然ガスの混合燃料に切り替えるパイロットプロジェクトを2021年中に実施することを発表しました。GEガスパワーは、このプロジェクトにおいても水素と天然ガスの混焼システムを開発し、プロジェクトの計画立案と進行を支援するなど、重要な役割を果たします。

ニューヨーク州以外でも、オハイオ州ハンニバルにあるロングリッジ・エナジー・ターミナル社(Long Ridge Energy Terminal)が運営する新たな発電プラントで、今年後半に水素とガスの混合燃料による発電が開始される予定です。発電容量485MWのこの発電所は、当初から発電用燃料として水素を燃焼させることを前提として建設された米国初の施設で、GE製の強力な新型ガスタービンを使用し、米国の40万世帯に十分な電力を供給する予定です。一方オーストラリアでは、エナジー・オーストラリア社(EnergyAustralia)が同国初のガスと水素の混焼発電所を建設中です。GE製の9F.05型ガスタービンを動力源とし約316MWの電力を迅速に発電できるため、間もなく稼働停止予定となっている近隣の石炭火力発電所を代替する役割も果たします。

もちろん、「グリーン水素」が採算の取れる代替燃料となるためにはいくつかの克服すべき点があります。まず価格の点では、S&Pグローバル社(S&P Global)によると現在より約50%コストを下げる必要があります。価格を抑えるひとつの例として、風力発電所が送配電網や蓄電設備に送出する容量を上回る電力を創出している時間に、グリーン水素の製造企業はその余剰分を使ってより多くの水素を作ることができます。

GEはこのエネルギー転換の重要な局面を支援できる立場にあります。これまでに、75基以上のGE製ガスタービンによってすでに600万時間以上の水素または水素に類似した燃料での稼働実績を積み上げています。その多くは、プラントが稼働する際に水素が副産物(排ガス)として生成され、その水素を燃料としてタービンに戻し、プラントの稼働に再利用しています。

GEガスパワーのCEOを務めるスコット・ストラジック(Scott Strazik)は、今回のクリケットヴァレー天然ガス火力発電プラントとの契約について次のように述べています。「GEのガスタービンは、水素を含む低BTU(英国熱量単位)燃料オペレーションを数十年にわたって積み重ねており、CO2排出量削減に向けて我々の技術や設備が重要な役割を担うでしょう。クリケット・ヴァレー・エナジー・センター社が取り組むカーボンニュートラルの実現をGEが支援できることは光栄ですし、これからの10年で発電部門のCO2排出量削減を実現するためにも今回のようなコラボレーションが不可欠であることを示せて嬉しい限りです。」

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