
最強のカップル:再生可能エネルギーと天然ガスの組み合わせで脱炭素化をさらに加速
トーマス・ケルナー
11月初旬に英国が冷たく静かな空気に包まれたのは、もちろんこれが初めてのことではありません。しかし、電力業界に及ぼした影響という点では今秋の寒気はいつもと異なるものでした。
風力発電への依存度を高めつつある英国は、世界最大の洋上風力発電所の建設を進めています。同国の電力系統運用会社National Grid ESOはこの秋の天候により発電余力が逼迫していることを電力市場にTwitterで警告しました。英国では風力タービンの使用数が増加の途にあり、11月の時点で国内への電力供給の21%程度を占めていましたが「平均以下の気温、再生可能エネルギーの出力変動、発電機の停止等の要因すべてが電力供給の低減を誘発した」とオペレーターは後に報告書で説明しています。「そのため11月は、電力需給逼迫に関する通知(Electricity Margin Notice)を数回発する事態となりました。」
これを機に、英国は天然ガスを燃料とする発電所など他の電力源からの供給を増やす必要があるとメディアは報道しました。実のところ、今回の事態は未来の電力のあり方を浮き彫りにしたものだと言えます。国際エネルギー機関(IEA)は、2040年までに風力および太陽光発電の発電量が74%増になると予測しています。一方でIEAは、今後20年で電力需要がほぼ倍増することが想定されるため、風力および太陽光電力が総発電量に占める割合はわずか28%に留まるだろうとも見込んでいます。つまり、これらの再生可能エネルギーは、消費者が必要とするときに電力を確実に供給できるよう、需要に応じて稼働できる天然ガス発電所などの電源と連動させていく必要があるのです。
天然ガスには別のメリットもあります。石炭など炭素を多く含む電源を利用する企業に他の方法へ移行を促すことで気候変動への取り組みに貢献することができるのです。
「再生利用エネルギーは素晴らしいものですが、常に利用可能ではないという点が課題でもあります」と、GEガスパワーでマーケティングリーダーを務めるブライアン・グートネック(Brian Gutknecht)は述べています。「常に出力が変動するということだけではなく、時期によっては風が弱い状況が一週間続くことが頻繁に起きます。風力が足りなければ、数時間のみならず、数日間その不足分を埋め合わせることのできる電源が必要となります。そこで活用できるのが天然ガスです。それまでの出力を若干上げるか、状況に応じて新たにガス発電を追加することができます。」
グートネックはこの点をよく理解しています。彼のチームは、再生可能エネルギーとガスパワーの相互作用を調査し、それらの組み合わせでいかに「再生可能エネルギーの成長を加速」させ、「気候変動への影響をいかに早く抑えるか」について記述した新しいホワイトペーパーを発表したところです。彼は次のように話しています。「実際に、必要とされる規模で石炭火力発電を天然ガスに置き換えることにより、これまでも膨大な量のCO2削減に貢献してきました。現在のペースと進め方では、再生可能エネルギーは適時かつ十分にこの問題に対処することは難しいでしょう。」
さらに、天然ガスと再生可能エネルギーは、常に需要と供給が一致しなければならない送配電網にて相性の良い組み合わせだとされています。GEリニューアブルエナジーのグリッドソリューション事業部で最高技術責任者を務めるヴェラ・シルヴァ(Vera Silva)は、電力事業者はミリ秒単位で発電量と需要のバランスを図り、不測の事態にも電力供給に支障を与えることなく即対応することで、送配電網を「スイス時計のように」運用していると話します。「脱炭素化への移行を考えたとき、いかにしてこの野心的な目標を、送配電網の安定性を常に確保しつつ、頻繁な変動に対処できる手法に落とし込むことができるでしょうか?」
小規模なガス発電所は航空機エンジン転用型と称されるタービンを使用しています。基本的にはジェット機のエンジンをガス燃焼・発電用に改造したもので、小規模な発電所では10分以下、大規模なコンバインドサイクル発電所でも30分以下で稼働開始することが可能です。そのため、電力事業者は風が弱くなり始めた時点で余裕をもってタービン稼働の準備をすることができるようになりました。「ガスタービンは送配電網の需給バランスをとる緩衝材のようなものだと考えてください」とグートネックは話します。「電力需要も再生可能エネルギーの供給量も変動しますが、その間でガスタービンが常に増減のバランスをとり、出力を数百メガワット単位で迅速に増減させることが可能です」このバランス調整をさらに円滑にするため、シルヴァの事業部はGEデジタルとの連携でソフトウェア開発に取り組んでいます。
グートネックは、CO2削減と気候変動の緩和に向けた有意義な取り組みを今にも始めなければ時間切れになってしまうと語ります。「脱炭素化に向けた長期的な目標や野心を持つことは良いことですが、砂時計の砂がすべて落ちる前にチャンスを活かさなければなりません。この砂の落下速度を遅くするため、できる限り早急に大幅なCO2削減を実現したいと考えています。砂時計のくびれた部分をさらに細くするイメージです。そうすることで目標達成により多くの時間を保つことができます。2050年における脱炭素への道筋を考えるだけではなく、今年、来年、またその翌年と、一年毎に最大の削減を図るにはどうすれば良いかを考えていく必要があるのです。」

天然ガスを活用
現在、発電部門は全世界におけるCO2総排出量の41%(全部門で最大)を占めており、それに次いで産業部門が26%、運輸部門が25%となっています。電気自動車が普及し、電気を使うヒートポンプ(=エアコンや冷蔵庫、給湯器などに利用される)やIH調理器等の技術の利用が増えるにつれ、発電業界の脱炭素化の重要性も増す一方です。「ガソリンエンジンからの排気ガスを石炭発電所からの排出に変えて電気自動車に電力を供給したところでCO2排出量を必ずしも削減することはできず、地域によっては逆に増加する場合もある」と同チームはホワイトペーパーで指摘しています。しかし、グートネックは電力業界における脱炭素化の改善は「他のセクターに刺激を与えることで波及効果が見込める」と述べています。
グートネックが言う「改善」は、中国に次いで世界第2位および第3位の発電国である米国や欧州で最も顕著に見受けられました。米国の電力部門のCO2排出量は2007年のピーク時から33%減となっており、欧州全土では主に石炭火力発電所の閉鎖および休止を理由として2010年から2019年で28%減となっています。
こうした削減の主な要因は、石炭発電からガス発電への転換および再生可能エネルギー発電能力の構築です。米国では2007年比で全発電量に占める石炭発電の割合が50%から24%へとほぼ半減した一方で、ガス発電は20%から30%に増加しました。また、米エネルギー情報局(EIA)によると風力および太陽光発電も2%未満から9%へと増加しました。
事実、石炭発電所からガス発電所に切り替え、最先端のガスタービンと蒸気タービンを併用するコンバインドサイクル発電を採用すれば排出ガス量を最大60%削減できることが今回のホワイトペーパーでも指摘されています。さらに、風力および太陽光発電や蓄電池を加えることでCO2排出量を最大80%削減することが見込めます。ガス発電と再生可能エネルギー発電を組み合わせることで、いずれかの技術を単独で使用するよりも多くのCO2排出削減が可能になるのです。
また、ガス発電が再生可能エネルギー発電を補完する一例としては、地価が高額で電力需要の高い都市部といった再生可能エネルギー発電が現実的ではない場所においては、ガス発電所が有効活用できることが挙げられます。例えば、ガス発電は再生可能エネルギーよりも設備の設置スペースや全体的な資本コストを大幅に抑えることができ、常に稼働し低廉なベースロード電源として、需要ピーク時に出力を上げて送配電網を支えることが可能です(本文下のインフォグラフィックをご参照ください)。

水素で発電する時代へ
ガス発電所には他にも利点があります。今回のホワイトペーパーでは運転中のCO2排出量をほぼゼロに抑制できる技術革新についても取り上げています。
この目標を達成する方法はいくつかありますが、そのひとつは水素を利用するものです。水素は宇宙に最も豊富に存在する元素ですが、これを発電に使用するのは容易なことではありません。水素には「フレンドリー」すぎる問題点があり、炭素や酸素といった他の元素とすぐに結びついてしまうのです。「水素には別の難点もあって、どこから入手するかという重要な課題があります」とグートネックは説明します。
現在、水素の大半はメタン(CH4)などの化石燃料から製造されていますが、メタンから水素を抽出すると、全世界が抑制しようとしている問題の根源であるCO2が生成されてしまいます。「この方法ではどうしてもCO2が発生してしまいます。水素燃焼でCO2の発生を回避できても意味がありません。」
しかしながら、この問題に対処する術はあります。例えば、カーボンキャプチャーと呼ばれるプロセスにより、CO2を地下に貯留する方法です。「地中には人間が生み出すCO2を十二分に蓄える能力があり、数億年も地下に安全に貯留できるという非常に強固な証拠もあります」とホワイトペーパーは説明します。「排出されるCO2の微粒子はもともと地中にあったものなので、不要になった時点でどうやって地中に戻すかが課題となります。」
天然ガスを燃焼する発電所の排気からCO2やメタンを吸収する場合にも同じ方法を適用すると、CO2排出を最大90%削減できる可能性があります。デメリットとしては、発電所の電力の一部をCO2削減装置の稼働に使用する必要があり、土地の使用面積もその分拡大するという点です。「これは実証された技術です」と述べるグートネックは、GEは炭素隔離に関わる特許を多数保有しているとも説明します。「これらは数十年間保有しているものです。」
CO2排出ゼロへ向けて
水素の興味深い製造法として、再生可能エネルギーで供給される電力によって水から水素を抽出するという方法があります。「この方法だと、全ライフサイクルにおいて炭素は発生しません」と、この「グリーン水素」についてグートネックが説明します。「現在は若干高額ですが、他のものと同じように再生可能エネルギーも20年前は非常に高額でした。規模と技術が進んだおかげで費用曲線が右下がりになったのです。」
嬉しいことに、若干の改良を加えることで、電力事業者は天然ガスを燃料にしているタービンで水素を燃焼することができます。例えば、GE製のタービンのうち75基は、製鋼所や製錬所の廃棄物である水素やそれに類似する燃料を使って合計600万時間以上の運転を行ってきました。「これは、いま現在、活用されている技術です」とグートネックは話します。「このノウハウを構築した当初、必ずしも脱炭素化が目標ではありませんでした。廃ガスの燃焼ですから経済的な価値のほうが高かったのです。しかし現在、私たちが培ってきた経験で世界の脱炭素化に貢献することができます。」
GEは現在、オハイオ州のロングリッジ・エナジーセンター(Long Ridge Energy Center)と称される発電所でさらなる経験を積んでいます。GEの最先端のHAガスタービンで天然ガスと水素の混焼を開始し、2030年までに100%水素発電へ移行することを目指す初めての特設発電所の構築に取り組んでいるのです。「これは、天然ガスが未来の低炭素社会への橋渡し役となるという考え方に基づいています」とグートネックは述べます。「一方で、水素を燃焼できるガス発電所は運転中にCO2排出量をゼロに近づけることができるので、それが長期的な目標だと解釈することもできます。再生可能エネルギーが利用できないとき、CO2排出がほぼゼロの方法で補完できるという考え方は、本当にウィンウィンの発想なのです。」
キャッチ・アンド・リリース
電力貯蔵は、脱炭素化というパズルの最後のピースとして今回のホワイトペーパーに記述されています。この技術では、強風の日曜日など消費者が電力を必要としない際の余剰電力を吸収し、電力需要が増加したときに送配電網に供給することが可能です。電力を貯蔵する方法はいくつかあり、GEはその多くの方法に精通しています。GEリニューアブルエナジーの揚水発電技術では、巨大な上部貯水池に水を汲み上げることで電力を貯蓄し、その水を下部貯水池に落とすことでタービンを回し発電を行うことが可能です。この技術は強力ですが、その利用にはどうしても山が必要となります。
GEはグリッドスケール・バッテリー(電力網対応蓄電池)も開発しており、輸送コンテナのように地上に配置できるため、風力発電所やその他の発電所の付近に設置することが可能です。このような蓄電池は、数分または数時間の短期的な需給変動を調整する上で効果的であるとグートネックは述べます。
今回のホワイトペーパーは、あらゆる事態に対応できる汎用性の高い技術的ソリューションはないものの、再生可能エネルギー発電およびガス発電を戦略的かつ速やかに導入することは、気候変動抑制という目標を達成する上で効果的かつ効率的な方法であると総括しています。ただし、この取り組みは、まさに今日から始める必要があるのです。
