
パワーと栄光:GE Aerospace、3,000基目のGE90エンジンを納入
ジェイ・ストウ
航空機用エンジンの歴史の中で、GE90エンジンは航空業界およびGE90プログラムに携わってきたGE Aerospaceの人々の双方にとって特別な魅力を備えています。数ある民間航空機用エンジンの中でも、GE90が積み重ねてきた数多くの「初めて」は他の追随を許しません。例を挙げれば、初めて炭素繊維複合材製ファンブレードを採用したエンジン、初めて10万ポンド以上の推力を持つと認証されたエンジン、初めてETOPS(※)の審査基準を満たしたエンジン、初めてアディティブ製造による部品を認証されたエンジン、初めてアナリティクスに基づくメンテナンスを導入したエンジンプログラム、そして初めてGE 360フォームウォッシュによる洗浄を施したエンジン等、数々の偉業が含まれます。
※ETOPS:民間旅客機の安全性を確保するためのルール。双発機のエンジン1発が緊急停止した際、残る一初のみで飛行可能な時間を定めたもの。日本では国土交通省がETOPSを「双発機による長距離進出運航」として実施承認審査基準を設けている。
そして今、GE90は、3,000基目の納入という新たなマイルストーンを「初めて」リストに加えることになります。
とは言え、1990年に初めて世に出た当時、GE90は必ずしも成功を約束されたエンジンではありませんでした。GE90プログラムマネージャーを務めるネイト・ ホーニングは次のように語ります。「今振り返っても、これは壮大な物語といえます。1990年代初頭という時代に、当時GEアビエーション社長だったブライアン・ロウのようなリーダーたちが、GE90のオリジナルバージョンを立ち上げるためにとったリスクは、航空会社がこれから4発エンジンのワイドボディ機から双発のワイドボディ機にシフトしていくだろうという、当時の『新しい空の旅』に対する大胆な賭けだったのです。」
オハイオ州ピーブルズにあるGE Aerospace試験施設に運び込まれたGE90エンジン。トップ画像: 2023年8月22日、ノースカロライナ州ダーラムのGE Aerospaceのエンジン生産および組立施設のクルーは、マイルストーンとなる3,000基目のエンジンの納入を祝いました。画像提供: GE Aerospace
ロウはボーイングの考えを信じていました。それは、長距離国際路線を飛ぶ大型ジェット旅客機は、当時一般的だった4発のエンジンではなく2発のエンジンで運航した方が燃料費と整備費の両方を削減できるというコンセプトでした。しかし、その実現のためには、エンジンを超大型化し、これまで民間航空機では使用されたことがない素材を使った部品の開発が必要でした。「GE90は21世紀をリードするエンジンになる」との想いだったとロウは語ります。
1995年2月2日、GE90エンジンは米国連邦航空局(FAA)の認証を取得し、1995年11月にブリティッシュ・エアウェイズで運航を開始しました。しかし、1998年にボーイング777の搭載エンジンに選定されるまでは、GEはロールス・ロイスおよびプラット・アンド・ホイットニーとの競争に後れを取っていました。主要航空会社の一部では、長距離を飛行するよう設計された旅客機に搭載するエンジンとしてGE90は高価過ぎる上に、たった2基のエンジンでは技術的にもリスクが高すぎると考えていました。市場の需要が十分見込めなかったため、GEは同エンジンの次の派生型の認証を遅らせました。ある時期には、当時のCEOだったジャック・ウェルチが「GE90は終わった、開発を凍結する」と宣言したとも言われています。
当時はGE90にとって状況は思わしくなかったという他ありません。「多くの人は、GE90はもう試験飛行すらできないだろうと思っていました」とホーニングは振り返ります。しかし1999年、当時のGEアビエーション社長だったジム・マクナニーはむしろこの計画をさらに強化しました。まずエンジニアたちはGE90向けに、より高性能なコンプレッサーを設計しました。その後、現場で運航に携わるオペレーターから寄せられた燃料効率の改善に関する肯定的な評価を追い風に、マクナニーと彼のチームは販売攻勢をかけ、推力115,000ポンドを達成する新型エンジンに対してお客様である航空会社から前向きな姿勢を引き出しました。また、エンジンの推力が増すことは、より多くのペイロード(乗客や貨物)を、さらに長い航続距離で運べることを意味しました。数か月にわたる激しい交渉の後、ボーイングは最終的に、GE90-115Bターボファンエンジンを同社の長距離ジェット機777-300ERおよび777-200LR用に採用することに合意しました。
3,000基目の納入を祝うミシシッピ州ベイツビルのGE90チーム。
ホーニングは次のように述懐します。「運航開始以来、このエンジンのパフォーマンスは驚異的でした。GE90はすべてのワイドボディ機の標準エンジンとなりました。振り返ると、このエンジンが非常に多くの紆余曲折を経て歩き始め、その後も進化や発展を遂げ、事実上の第一世代エンジンとしてその設計をベースとした数多くの後継GEエンジンが生まれました。信じられないほど素晴らしいことです。」
実際、炭素繊維複合材製ファンブレードから3Dプリンティング技術を投入する積層造形部品の採用に至るまで、GE90のアーキテクチャと機械設計は、GEnx、CFM LEAP*、Passport、そしてボーイング777X用の次世代エンジンGE9Xを含む、過去20年間にわたるGEとCFMのすべてのターボファンエンジンに影響を与えてきました。
ホーニングは、GE90エンジンを搭載することでいわゆる「time on wing(エンジンが翼に付いている時間)」をお客様が長くできるという点で、特にアナリティクス・ベースのメンテナンスの導入が「ゲームチェンジャー」になったと評価しています。彼は次のように説明します。「普通の航空機は、メンテナンスのスケジュールをオーバーナイトという時間枠で設定しますが、GE90を搭載した777型機では、オーバーナイトの時間枠をまるごと使うことはまずありません。航空機は絶えず海を越えるフライトを繰り返し、目的地に到着しても数時間の乗り継ぎ時間を経て、また次の目的地へ飛びます。したがって、製品の信頼性と耐久性が非常に重要になっています。」各航空会社と緊密に連携し、24時間365日体制でエンジンを監視することは、修理やエンジンのオーバーホールのタイミングに関して「先回りして備えていることを確認する」ことにも役立ちます。ホーニングは更に「このようにアナリティクス・ベースのメンテナンスを導入したことで、実際にメンテナンスを進める際にもデータを活用できるため、より多くの状況を把握し、大部分のG90エンジンを『オンウィング(機体に搭載したまま)』の状態に保つことにも役立っています」と説明します。
GE90のクローズアップ画像。長さ4フィート(約122cm)のスウェプトファンブレードが放射状に22枚付いている。炭素繊維複合材でできた各ブレードの重量はわずか50ポンド(約23kg)。画像提供:GE Aerospace
ホーニングは、アナリティクス・ベースのメンテナンスに加え、2010年代半ばにエンジンの「ホットセクション」と呼ばれる高温部分の4つの主要コンポーネントが再設計され、次いで、気温が高く過酷な気候条件の空域を定期的に飛行するGE90エンジンをより効果的に洗浄する360フォームウォッシュを導入したことが、燃料効率と耐久性の大幅な向上やCO2排出量の削減につながったと指摘しています。ホーニングは次のように説明します。「これら3つの技術的進歩の組み合わせにより、メンテナンスのためにエンジンを機体から取り外すまでの平均サイクル数(離陸と着陸の合計)が従来の2,000サイクルから、現在では平均4,000サイクルをはるかに超え、一部のエンジンは5,000サイクルを超えています。」その結果、GE90エンジンプログラムは現在、99.98%のディスパッチ・リライアビリティ・レート(飛行経路信頼度。飛行計画を変更させるような故障を生じることなく、飛行計画を満足に完了する確率)を誇り、そのうち29基のGE90エンジンがそれぞれ10万時間を超える飛行時間を記録しています。
また、ホーニングはSAF(持続可能な航空燃料)がGE90のカーボンフットプリントをさらに削減する次の大きなステップになると考えています。今年初め、エミレーツ航空が保有するボーイング777-300ERは2基のGE90エンジンのうち、片側1基は100%SAFを用いて、中東とアフリカでの初のテスト飛行を完了しました。「こうしたワイドボディ機が増えてきたこともあり、SAFはサステナビリティの目標を達成する上で大きな役割を占めることになるでしょう」と彼は語ります。
信頼性という点では、現在運航中のGE90の半数以上が製造後10年未満であるという事実も、このエンジンに有利に働きます。各航空会社は、老朽化した旅客機を貨物機に改修する取り組みを強化しています。ホーニングは次のように説明します。「私たちは、多くの機体改修事業会社、リース業者、貨物輸送業者と協力し、機齢15年から20年の航空機をさらに20年から25年運航することを計画しているこうしたお客様のオペレーションを、GE90がどのようにサポートを続けられるか検討しています。これらのエンジンの多くは、寿命を迎えるのはまだまだ先なのです。」
今月、3,000基目のGE90がフェデックスに納入されたのを機に、ホーニングはこのプログラムの困難もあった長い歴史を感慨とともに振り返っています。そうした感慨にふけるのは彼だけではありません。「私を驚かせることのひとつは、GE90に関わってきたリーダーたちのそうそうたる顔ぶれです」と彼は言い、ロウ、マクナニー、元GE90プログラムマネージャーのラス・スパークス、チャカー・チャール、ビル・ミルヘム、そしてGEアビエーションの元CEOデビッド・ジョイスなどの名前を挙げました。「GE90に関わったことのある人と話すと、彼らの目が生き生きと輝くのです」とホーニングは語ります。
ホーニングもまた、同じ想いが消えることはありません。彼は次のように語ります。「このプログラムに携わった方々も、エンジンそのものも、私は大切に思っています。今でも777-300ERに座って、エンジンの始動音を聞くのが大好きです。うっとりするような素晴らしい音ですね。」
*CFMインターナショナルは、GE Aerospaceとサフラン・エアクラフト・エンジンが50:50で共同出資している合弁会社です。