
ニューノーマル(新しい日常):ソフトウェアが産業をリモートで支える “It is Here to Stay” GEデジタルのパット・バーンCEOに聞く
2020/06/04 トマス・ケルナー
GEデジタルCEOパット ・バーンは、2019年7月GEに入社直後からGEデジタルの新CEOとして稼働を開始しました。GEデジタルは、GEのソフトウェア開発部門として産業用IoT(モノのインターネット)のアプリケーション開発を行っています。バーンと彼のチームは、産業用ソフトウェアを送電網、電力、石油およびガス、そして製造業向けという4つの主要セグメントに分けました。次に、顧客を訪問して、機械、発電所、工場の設備や機器から生成されるデータから何を読み取るかについて共に学びました。このアプローチには効果があると認められ、今ではGE全社で採用されています。GEの会長兼CEOであるラリー・カルプは、12月の全社に向けた電子メールで「全ての情報をテーブルの上に並べて率直に対話することで、ビジネスや会社、お客様にとっての正しい道筋にたどり着くことができました」と述べています。
現在、その道筋によって思いも寄らない効果がもたらされています。GEデジタルのソフトウェアは、新型コロナウイルスのパンデミックにより従業員がリモートワークをするようになってからも、工場を操業し発電所や水処理プラントを稼働できるようにお客様への支援を行っています。「『ニューノーマル(新しい日常)』に関しては、今の状況が長く続くほど、コネクテッドマシン、人工知能、機械学習、ビジネス分析やビジネスプロセスの最適化と改善を可能にするその他のツールに対する需要が高まります」とバーンは述べています。「そして、こうしたシステムが向上すればするほど、それこそがニューノーマルになっていくことでしょう」
GEレポートはバーン氏に、自分のビジネスがどのような形でGEを含む企業の活動を支援しているかについて聞いてみました:
GEレポート(以下GER):お客様からはどんな話を聞いていますか?パンデミックにはどのように対応をしていますか?
パット・バーン(以下PB):私はこの数週間、多くのお客様と対話してきました。話はいつも安全のことから始まります。どうすれば従業員の安全を確保できるか、従業員が在宅勤務し続けている間、どうすれば組織の運営を続けられるか、といったことです。あらゆるところで、突然このような大掛かりな調整に取り組むようになりました。こうした危機に対し、計画を立てる時間はありませんでした。まさに、金曜日に翌月曜日から出社しないと決断したような状況でした。人々は大急ぎで問題解決に取り組み、新しい安全と需要という現実に適応しようとしていました。
GER:現場ではどんな状況になっていますか?
PB:新たな需要を多く抱えるお客様がいる一方で、製品への需要が減っているお客様もいます。しかしそれはほんの一部です。例えば先日、日用消費財メーカーの方と話した時のことです。こうした企業のほとんどは、トイレットペーパーなどの製品への需要はかなり高まっている一方、多種多様な商品と工場を運営しているため、かなり大きな打撃を受けている工場もあります。つまり、ほかの商品への需要が減っているのです。また、生産を増やす必要があるのに、自宅に子どもがいる、または集団感染が起こっている地域に住んでいるなどの理由で出勤することが難しい従業員もいます。これは、リアルタイムでの調整が必要な過酷で流動的な状況なのです。
上部画像:新型コロナウイルスのパンデミック発生前の会議に出席したパット・バーン(中央)。「『ニューノーマル(新しい日常)』に関しては、この状況が長く続くほど、コネクテッドマシン、人工知能、機械学習、ビジネス分析やビジネスプロセスの最適化と改善を可能にするその他のツールに対する需要が高まります」と述べています。画像提供:GEデジタル
GER:現場はどのように対処していますか?
PB:誰もが最初に考えるのは、ショックを乗り越えることです。自分たちの労働力、所在地、工程、現在の需要を棚卸しして、新しい働き方にすばやく適応するにはどうすればいいか考えます。そして落ち着きを取り戻してくると、この状況はどのくらい続くのか、見えないところで今後何が起こるのかが気になってきます。誰もが目を向け始めているのは、こんな疑問だと思います。「どうしたら、いくらかでもセミノーマル(部分的な日常)に戻ることができるだろうか?新しい安全ガイドラインはどんな内容なのだろうか?どのくらいの需要があるだろうか?サプライチェーンはどうなっているだろうか?」こうした質問の中にはすぐには答えを出せないものがあるのでアジリティ(機敏性)はとても重要なのです。
GER:ソフトウェアはどのようにアジリティを向上することができるでしょうか?
PB:GEデジタルの従業員のほとんどが自宅で仕事をしているように、お客様も同じようにしています。以前のお客様は、日常業務の一環として製造工場やオペレーションセンター内で当社のソフトウェアを使用していました。そして今では、全く同じソフトウェアを自宅で使っているのです。また、クラウドをベースに使用したりリモートアクセスが可能なため、職場を自宅に移す機能は非常にシームレスなプロセスになっています。今のところ、工場で働くことのあらゆる利点が得られるわけではないものの、必要な機能は全て搭載されています。SPE(米国の電気事業者)のような電力業界のお客様やヘイブリル市のような水道事業者では現場に必要な従業員の数を最小限に抑えて安全を確保するのに役立っています。
GER:自宅のキッチンから工場を稼働させることができるのですか?
PB:これは、誰かがサーバーにログインしているというだけのITソリューションとは違います。このソフトウェアは、プロセスを制御している機械と深く関わっています。それが可能になったことで、本当にシームレスに実施できるようになりました。ちょうど昨日、再生可能エネルギー業界のお客様と電話で話しました。以前は、技術者が風力発電所やオペレーションセンターまで出向く必要がありました。現在はあらゆる作業をリモートで実行しなければなりません。そして、リアルタイムで同期をとり、安全を確保するとともに、最新の状態を維持する必要があります。そのため、信頼性と有用性、リアルタイムでの可視性を得る機能が重要になってきます。電力事業者だけでなく、送電網事業者に対してもサービスを提供しています。送電網は世界最大の機械とも言えますが、今ではスタッフは家にいながら会社全体で何が起こっているかをリアルタイムで把握することができます。
GER:製造業についてはいかがでしょうか?
PB:私たちが提供しているクラウドに自分たちのあらゆる製造データを保存しているお客様がいます。全ての需要と供給を実際に見ることができれば、制約になっている箇所をリアルタイムではるかに迅速に把握することができます。ソフトウェアを利用して、例えば全ての工場にわたってサプライチェーンを最適化する方法を把握し、グローバルに需要を満たすことが可能になります。オペレーションとビジネスプロセスを横断したリアルタイムでの可視性は、混乱状態に対する企業のレジリエンス(耐性)を向上させるのに役立っています。これにより、お客様が非常に流動的な環境の中での計画と実行を可能にするのに必要な情報が得られるようになっています。そして予測が適切であるほど、すばやく適応できるようになり、適切な商品を市場に出すことができるのです。
「送電網は世界最大の機械です」とバーンは述べています。「スタッフは家にいながら会社全体で何が起こっているかをリアルタイムで把握することができます」画像提供:GEガスパワー
GER:GEデジタルは新型コロナウイルスのパンデミックの前にこのテクノロジーを構築したと思いますが、パンデミックが発生している間、GEデジタルのエンジニアたちはこのアプリケーションからどんなことを学んだのでしょうか?
PB:どんな場合にも、企業はレジリエンスを優先すべきです。常にシステムを一定レベルのストレス下に置くことで、投資するべきところ、つまり今以上のサポートが必要でリアルタイムに状況を把握するために更なるリソースを投入する必要なところが分かります。
また、全くつながりを持たない従業員に対して、現場の状況が把握できるようにする方法を見つけ出さなければなりません。作業環境にいるときは周囲に同僚がいますが、リビングルームでこの作業をするとき、効果的に行うためにはソフトウェアにその他の重要なビジネスプロセスとの相互運用性と機能性を搭載していなければなりません。今現在では通常4つまたは5つの異なるソフトウェアが同時に作動し、4つないし5つの異なるスクリーンで、何千人ものユーザーが見られるようになっています。このようにオペレーションを統合することが重要です。
GER:全てが正常に機能していることをどうやって確認できているのですか?
PB:GEデジタルの産業向けIoTの強みは、機械にセンサーを取り付けて測定を行い、時間をかけてその機械の「デジタルツイン」を生み出すことができる点です。そして、お客様はそのデジタルツインを使って予知保全を行い、信頼性やコスト削減を向上させることができます。リアルタイムでの監視センターがあるので、実行されている・いないには関係なく、システムの可用性について、分単位で確認することが可能になっています。近年では、お客様の問題をリモートで予測することにより、15億ドル以上を節約することができました。また、私たちのシステム自体に負荷がかかっているかどうかを確認するための予知保全にも投資してきました。つまり、お客様が設備の予知保全に関する警告を受けるよりはるか前に、私たちは予知保全のシステム自体に対するストレスや負担に関する早期の警告を受けているのです。私たちは専門家チームを常駐させて予防措置を講じ、可用性を維持するとともに全てが正常に機能していることを確認しています。
「ちょうど昨日、再生可能エネルギー業界のお客様と電話で話しました。」とバーンは述べています。「以前は、技術者が風力発電所やオペレーションセンターまで出向く必要がありましたが、今現在あらゆる作業をリモートで実行しなければなりません。そして、リアルタイムで同期をとり、安全を確保するとともに、最新の状態を維持する必要があるのです」画像提供:GEリニューアブルエナジー
GER:監視センターはどこにあるのですか?
PB:世界中にあるので、お客様のタイムゾーンですぐに対応できるだけではなく、時間外に重大な問題が発生した場合でも「いつでも対応(フォロー・ザ・サン)」することができます。なお当社のインダストリアル・マネージド・サービスセンターは、シカゴ、パリ、ドバイ、ヨハネスブルグ、サンパウロ、シンガポール、上海にあります。
GER:GEデジタルではどのようにしてサポートを続けているのですか?
PB:私たちはお客様に提供しているのと同じツールを使用していますが、唯一異なる点がるとすれば、私たちがパワーユーザーとして同じソフトウェアを使用している点です。私たちはお客様と同じソフトウェアを監視システムとして使用して、自分たちのシステムが正常な状態を維持しているか、または高レベルで機能しているかを確認しています。この作業のほとんどがリモートで実行できるのは、既存の開発ツールやカスタマーサポートのツールのおかげなのです。
GER:今はどのような毎日を過ごしていらっしゃいますか?
PB:今の私にとっての特に大きな変化の一つは、飛行機にあまり乗らなくなったことです。3月から、出張を9回キャンセルしました。もちろん、私はこのところ誰にも対面では会っていませんが、多くの方法で人とつながりやすくなっていることから、今は私とチームのつながりが良くなっていると感じています。チームのみんなは、私と同じように自宅で一生懸命に仕事をしています
私たちは毎日正午にミーティングを行っており、運営面での最新状況と新型コロナウイルスに関する最新情報を共有しています。このことは重要です。なぜなら、今はコミュニケーション不足ではなく、コミュニケーション過剰なくらいになる必要があるからです。また、会議室に集まったり人と対面することができない場合の問題解決についても学んでいます。私たちは、お客様に対するトレーニングや、リモートサイトの運営も行っています。あるお客様にはリモートに移行することで納入が1カ月も短縮できたケースもあるのです。これは長期的に見れば、私たちが整理しなければならない最重要課題の1つに挙げられるでしょう。
「永遠に変化していくものというのは、既にいろいろな意味で変化が始まっているものですが、今はその変化が加速しています。」とバーンは述べています。画像提供:Getty Images。
GER:ところで、このパンデミックによってビジネスのあり方はどのように変化すると思いますか?
PB:永遠に変化していくものというのは、既にいろいろな意味で変化が始まっているものですが、今はその変化が加速しています。ビジネスに関する3つの優先事項が強調されています。第1の優先事項はリスク管理に関するものです。ビジネスの障害や何が起こっているのかを評価し、その事象が需要や供給、労働力に及んだ場合にどうやってビジネスを継続していくかを理解する方法が必要になります。第2の優先事項は、リモートワークであることは明らかです。今の状況が長く続き、在宅で仕事をするようになればなるほど、多くの人が悩むようになるでしょう。リモートワークを可能にするだけでなく、どうやってリモートワークを受け入れればいいだろうか?と。
加速するビジネスの優先事項の第3は、製造業だけでなく、他の産業ビジネスやアプリケーションの運用管理です。全世界でリモートワークが行われていますが、人の数よりもはるかに多くの機械が存在します。したがって、人がリモートワークをしているときには、設備や機械もリモートで操作できなければなりません。今の状況は、緊急事態が引き起こしたものですが、将来的には、より速く、より安全で、より経済的な方法で行われていくかもしれません。仕事はリモートで行われるようになります。そのために、まずは人が、次に設備・機械、さらにビジネスプロセスがそれに備えていかなくてはなりません。
GER:どのような影響がありますか?
PB:後戻りをしないという点では、この状況が長く続くほど、コネクテッドマシン、人工知能、機械学習、ビジネス分析やビジネスプロセスの最適化と改善を可能にするその他のツールに対する需要が高まります。そして、こうしたシステムが向上すればするほど、それがニューノーマルになっていくことでしょう。
GER:では、ニューノーマルとはどんなものになるでしょうか?
PB:10年から15年前を考えると、まだクラウドベースのビジネスなど無く、ビデオ会議とコラボレーションツールを使用して世界中でリアルタイムに協力することは不可能でした。私たち全員が、これらのテクノロジーを使わずに電話会議やテレビ会議を開こうとしていたことを想像してみてください。それが今では、日々何百万人もの人々にとっての基盤となるコアテクノロジーになりました。仕事は変化しています。これが今、現在、産業界でも起こっているのです。
ソフトウェアを使ってリモートで製造プロセスを操作できるようにすることが、ビジネスには不可欠だと思います。今の時代、リモートでビジネスができないのであれば、ビジネスは成り立ちません。
このパンデミックは人類と公衆衛生に対する危機であり、誰もがこの苦しみが終わり、危機が過ぎ去ってほしいと思っています。それにはおそらく時間がかかるでしょう。それまでの間、私たちは安全を保ち、お客様にサービスを提供し、従業員とお客様のより良い未来を創造するためのイノベーションを行うことができます。長い目で見れば、私たちはさらに強くなるでしょう。