
CO2排出の少ないLNG: GEとシェル、液化天然ガス施設のCO2排出量削減で協力
グレガー・マクドナルド
液化天然ガス(以下LNG)の輸出体制は、オーストラリアや米国などの大手企業が参入したことでこの10年で大幅に拡充されました。BP統計2021(BP Statistical Review)によると、2021年に世界で輸出されたLNGは5,000億立方メートルを超え、2016年から44%増加しました。しかしながら、これからも急速な増加が続くことが予想されるため、LNG生産施設から排出されるCO2の削減が急務となっています。
LNG施設の心臓部である大型ガスタービンは、天然ガスを燃料として稼働し、大量の天然ガスを液化するための動力や圧力を生み出しています。もし、このタービンの燃料を天然ガスからよりCO2排出量の少ない水素に置き換え、LNG産業が求める水準の信頼性を備えた上で稼働することができれば、大きなメリットになるはずです。GEとシェル・グローバル・ソリューションズ(Shell Global Solutions)が締結した今回の新たな合意は、まさにこうした成果を視野に入れたものになります。
今回の合意で、GEは発電システムと水素に関する専門知識を活用することで、自社の大型のBクラスおよびEクラスタービンに水素を導入するレトロフィット(後付け改修)ソリューションを開発し、シェルのLNG供給プロジェクトに脱炭素化をもたらすポテンシャルを追求します。その一方で、同じく水素の開発と活用に長年携わってきたシェルは、水素の実際の需要地近くでの水素を製造する開発手法を検証中です。両社は協力して、LNG施設におけるCO2排出を大幅に削減することを目指します。世界のLNGセグメントが今後数年間でさらに急拡大し、CO2排出量も2040年までに2倍近くになると予想されていることから、LNG施設に起因するCO2排出削減は不可欠なのです。
「今回の合意は脱炭素化に向けた大きな一歩になります」と語るのは、GEの大型ガスタービンポートフォリオの水素担当プロダクトマネージャー、ファビアン・コドロンです。コドロンは、水素の利用拡大を論じる際にいつも持ち上がる課題として、実際の需要地で安定的に水素を供給することを挙げています。シェルのブルー水素プロセス(Blue Hydrogen Process)は、低炭素燃料の中でもとりわけ炭素排出量が少ない水素を供給できる最先端技術であり、そのテクノロジーは段階的に、また大規模に検証され、商業的に実績を重ね、何十年にもわたって幅広い産業で利用されてきました。ポテンシャルをもつこのようなソリューションがあるからこそ、GEを含む電力セクターの今後を担う各企業は水素の利用拡大に懸命に取り組むことができるのです。
水素で稼働させるために天然ガスタービンにレトロフィットを行う際に必要なのは、すべての稼働部分が互いにスムーズに動作するかを確認するための一連の検証実験です。もとの燃焼器を新たなものに交換した後の動作も検証する必要があります。現在、天然ガス燃料で運用中のフレーム6Bやフレーム7E発電用ガスタービンに新しい燃焼器を後付け交換し、改修することも可能ではあります。ですが、本当に難しいのは、窒素酸化物(NOx)の排出を制御することです。水素は燃料として使用してもCO2は発生しませんが、高温で燃焼するとNOxが発生します。「水素を大量に燃焼させるほど、CO2やCOの濃度は下がります。しかし、そうすると火炎がより反応しやすく、さらに少し高温で燃焼するため、より多くのNOxを発生させてしまうのです」と、GEの7Eガスタービン製品リーダーを務めるジェイ・ブライアントは説明します。幸いなことに、GEはNOx制御のための多くの技術を蓄えてきました。その中でも最も重要なのが、DLN(dry low-NOx)燃焼前テクノロジーで、NOx排出量を世界銀行の基準である25ppmに抑えることができます。DLNテクノロジーはBクラスおよびEクラスのタービンをより低温で燃焼させることにも役立ちます。
この分野で50年以上の経験を持つシェルは、世界各地のLNG供給オペレーションで重要な役割を担っています。ブライアントによると、運用上の課題は、信頼性を維持しながら、これらすべての新技術をまとめ上げることだと言います。さらに彼は「理想としては、LNGプラントを1年以上シャットダウンすることなく稼働させたいです。改修したガスタービンは、運転開始後の最初の数分間は、天然ガスをほんの少し混合して始動させますが、その後は水素でも天然ガスの場合と同じように確実に稼働させられるという信頼性が必要なのです」と言います。ブライアントが説明するように、LNG運搬船に積み込みが行われ、24時間体制で超低温の液化天然ガスを生産する事業者にとって、予期せぬ稼働停止は許されないのです。
さらに、GE DLNソリューションの特長の一つは、水を利用することなく動作が可能なことです。世界のLNG施設の多くが乾燥地帯にあるため、これは非常に有用な特長です。ブライアントは次のように説明します。「水も蒸気も確保できない場所でNOx排出をコントロールするのは大変です。水も蒸気もない場所において、必要な量の水をどこから調達すればいいのでしょうか?水や蒸気に100%依存することで運用可能な最新のソリューションもある一方で、乾燥した環境下でも100%運用可能なドライソリューションが存在することは、LNG産業の脱炭素化に不可欠です。」
今回のシェルとGEのコラボレーションによって実現できること、それは信頼性、排出ガス量削減、そして水の調達が困難な地域でも水素を制御する運用力を一つのパッケージにまとめることです。コドロンはさらに次のように説明します。「シェルが必要としているのはGEが提供する可用性に富んだ、CO2排出量の少ない、信頼性の高い燃焼ソリューションです。今回の合意はそうした課題を解決するための道筋をつけるものになります。」
トップ画像:液化天然ガスを運搬する専用船。画像提供: Shutterstock