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Great Retrofit(大改修):既存の天然ガス用ガスタービンでカーボンフリーの水素を燃焼する方法

グレガー・マクドナルド

この10年間、電力システムにおける石炭の利用は低下し、かわりに天然ガスの利用は増加しつづけています。BP統計2021(BP Statistical Review)によると、2011年以降、世界の発電用天然ガス使用量は32%もの劇的な増加を示し、石炭の2倍以上の伸びとなっています。そして、GE製最新鋭ガスタービン群は同じ発電容量の石炭火力発電所に比べCO2排出量を3分の1以下に抑えることができます。しかし、すでに何千基ものガスタービンが世界の電力システムに導入・設置されているからといって、今後も世界中で天然ガスを利用しなければならないと決まっているわけではありません。

GEは、米国や日本で最も多く設置されている天然ガスタービンであるFクラスタービンフリートに加える水素対応仕様への改修(レトロフィット)に最適な方法を探求しており、最終的には全くCO2を発生しない水素を燃焼させることを目指しています。その可能性に強い関心をもった米国エネルギー省の化石エネルギー・炭素管理局(Office of Fossil Energy and Carbon Management)はこのたび、このエネルギー転換を研究するためにGEに660万ドル(約9億8千万円)の助成金を供与しました。この研究が成功すれば、世界中にすでに1,600基以上設置されているガスタービンが、ゆくゆくは水素で運転できるようになります。GEガスパワーの高純度水素燃焼関連テクノロジーのリーダーであるマイケル・J・ヒューズは次のように語ります。「助成金はとても嬉しいです。世界中のガスタービンが天然ガスから水素に転換すれば、数百ギガワットもの発電容量に達するのです。」

基本的に、従来のガスタービンを水素で稼働できるようにするには、現在組み込まれている燃焼システムを新たなものに交換することになります。ヒューズは次のように説明します。「すべての燃焼器はガスタービンから取り外すことが可能です。つまり、『レトロフィット可能』ということは、現在組み込まれている燃焼器を取り外し、アップグレードされた、より高性能な燃焼システムに交換し取り付けることができる、ということになります。この手法のメリットの一つが、取り外しと交換が比較的迅速に実施可能な上、条件が良ければ数日単位で完了する点です。重要なことは、お客様には作業時間に何カ月も待っている暇はないということです。レトロフィットなら、燃焼器以外の部分は交換したり再構成したりする必要がないため、迅速にカーボンフリーな水素による運転に切り替えることができる、という点が評価されています。」

このようなガスタービンの水素燃焼への対応・転換をGEはゼロから始めるわけではありません。すでに10年以上前からGEは水素の割合を90%以上でガスタービンを運転する実証実験を実施しています。またGE製タービンはこの20年間、マルチノズル式静音燃焼器(Multi-Nozzle Quiet Combustor:MNQC)テクノロジーを活用し、化学工場などからの排ガスから得られた水素を燃料として再利用してタービンを回す商業運転実績を積んできました。その間に、このMNQCテクノロジーが対応可能な燃料の水素の混焼割合は約70%から約95%にまで上がり、高濃度化への対応も進んできました。

上画像: GE製9F.04型ガスタービン。トップ画像:DLN2.6燃焼器の燃料ノズル。画像提供:GEガスパワー

また、GE製Fクラスタービンの特長は、DLN2.6+と呼ばれる燃焼システムを装備すると最大20%の水素と天然ガスとの混合燃料を燃焼させることが可能である点です。DLNとは「Dry Low NOx」の略で、水や蒸気を噴射しなくても低濃度の窒素酸化物(NOx)排出を実現できることを意味します。さらに、MNQC燃焼器という別の燃焼システムを使用すれば、より高濃度な水素の燃焼をも可能にする仕様が設定できます。ですが、MNQCシステムは水や蒸気の噴射が必要なため、運転効率が下がり、構造の面からみても複雑化する難点があります。これを克服するため、今回のエネルギー省の100%水素対応プロジェクトでは水や蒸気が不要なDLN型燃焼システムを採用します。

このように、水素は発電のための燃料源として世界的な普及がまさに今進んでいますが、その一方でGE製ガスタービンはすでに水素混合燃料で累計運転時間800万時間以上を積み上げ、20カ国にわたる50社以上のお客様にご愛顧いただいています。

水素は、エネルギー分野におけるスイスアーミーナイフ(十徳ナイフ)のようだと称されてきました。水素には2030年までに大気中へのCO2排出量を数百万トン削減できる可能性があります。さらに、トラック輸送では燃料電池に、短距離フライトならば航空機のエンジンに、そして製鉄では石炭に代わる原料にと、様々な利用方法があります。問題となるのは、水素を製造する従来の方法自体がかなりのCO2排出を伴うという点です。再生可能エネルギー由来の電力を利用したグリーン水素の製造もまだ経済的とはいえません。電解槽として知られる高価な設備が大きなハードルになっているからです。また、水素の製造、貯蔵、および配管に関する経済的課題についても十分に検証し尽くされていないのが実情です。

さらに、天然ガスと異なり、水素のパイプラインはまだ存在しないことも一例として挙げられます。ですが、これはニワトリが先か卵が先かという古典的な論争のようなもので、現在の水素が抱える供給と需要のギャップが解消されたときに解決される可能性があります。これらの問題に対処するために、米国エネルギー省はより大局的な政策である「水素ショット(The Hydrogen Shot)」という、水素の需要がある場所の近くに水素供給拠点を配置する方法を推進しています。

GEのお客様も、今回のエネルギー省からの助成金供与を支持しています。合計で241GW以上の発電容量を有し、39州で約8,100万人の利用者に電力を供給する米国の10の電力会社が今回のプロジェクトを支持する書簡を寄せています。11月からは、GEチームがサウスカロライナ州グリーンビルのGE製造施設で新燃焼システムのエンジニアリングと試験を開始します。

GEガスパワーのエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるジョン・インタイルは次のように述べています。「世界中の膨大な天然ガスインフラが今後水素利用へ転換していくことは『大改修(great retrofit)』と呼ぶのにふさわしいものです。GEは長年にわたり、ガスタービンに関連する多くの先進技術開発でエネルギー省と協力してきました。そして、GE製Fクラスガスタービンで100%水素を利用するための次世代燃焼技術の開発において同省から寄せられた協力と信頼を誇りに思います。また、このプログラムによりお客様のCO2排出量削減への取り組みがさらに加速されるものと確信しています。」

注:本レポートではおもにFクラスタービンについて記述していますが、Hクラスタービンでも同様に水素利用へのレトロフィットが可能です。

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