
電化の伸展は急務:送配電網の安全性と信頼性の向上に貢献するGE Vernova
フィリップ・ピロン(GEグリッドソリューションズ&パワーコンバージョン社長兼CEO)
スコット・リース(GEデジタル社長兼CEO)
送配電網、あるいは「グリッド」として知られる電力システムは、これまで100年以上に渡ってほぼ変わらない機能をもっていました。送電線、スイッチ、変圧器、その他の関連技術で構築された巨大なネットワークを通じて、発電地点から需要地点まで一方通行で電力を運ぶよう設計されていたのです。しかし、現代の急激に変化する電力事情への対応が必要となり、送配電網には大きな負荷がかかるようになりました。電気はもはや一方向にしか流れないものではありません。電力は「誰でも飛び入り参加が可能」という状況にあります。大規模風力発電や太陽光発電プロジェクトで生成される電力から、家庭の屋根にある太陽光発電パネルやガレージの電気自動車まで、電気は自由自在に流れているからです。さらに、かつてない異常気象やサイバーセキュリティの脅威が激しさを増していることも、電力状況の複雑さに拍車をかけています。さらに、輸送と産業の電化によってエネルギー需要はさらに高まることが予想されています。
このような電力事情の変化により、信頼性をさらに高め、レジリエンスがあり、効率的な双方向システムをもつ送配電網(グリッド)を可能にするテクノロジーの進化が急務になっています。GEのエネルギー事業のポートフォリオを結集するGE Vernovaでは、脱炭素化と電化の両方に取り組んでおり、送配電網をこれら2つの目標を達成するための「バックボーン」と位置づけています。
3月に開催されたGEのインベスターカンファレンス2023では、GE Vernovaが電化の伸展という要請に応えるために不可欠なテクノロジーをどのように刷新しているかを紹介する時間も設けられました。
今年3月9日のGEインベスターカンファレンスにて:向かって左から、GEグリッドソリューションズ&パワーコンバージョン社長兼CEOフィリップ・ピロンとGEデジタル社長兼CEOスコット・リース。画像提供: GE。 トップ画像提供:Shutterstock
高圧直流送電(High-Voltage Direct Current:以下「HVDC」)システムでより多くの再生可能エネルギー由来の電力を送配電網に取り込む
ウェスチングハウスとニコラ・テスラがエジソンに勝利した「電流戦争」以来、現在では交流電流(AC)が電力伝送の主流となっています。しかし、現在稼働中の再生可能エネルギー由来の発電容量の6倍に相当する7,000GWもの電力が今後20年間の間に世界中で増加すると予測されていることから、送配電事業者や各国政府とも、より効率的に長距離送電する手法としてHVDCに注目しています。
HVDCは、交流電力を直流に変換し、直流送電線で送電した後、需要地の送配電網に再び交流に変換して送電線に戻す送電システムです。交流とは異なり、直流電力は常に電力が同じ方向に流れます。そのため、送電線における電力損失を最大50%抑えることができます。それだけでなく、HVDCテクノロジーは、膨大な量の新たな電力容量を送配電網に接続する上で重要な役割を果たすことが期待されます。というのも、HVDCは、最大2~3GWもの大容量の電力を50万ボルトから80万ボルトで基幹電力系統を数百kmも送電するために最もコスト効率に優れたソリューションとなるからです。
長距離送電時の電力損失が抑えられるという特長を有することから、HVDCテクノロジーは洋上風力発電システムなどのプロジェクトにも最適な送電手法となります。GEのHVDCシステムソリューションは最大級の規模のプロジェクトでいくつも導入されており、例えばドイツの「DolWin3」プロジェクトでは、北海で風力発電タービンが生成した電力を、約160kmの海底および地上ケーブルを介してドイツまで送電します。また、大手電力会社RWEが運営するソフィアと呼ばれる英国沖合の洋上風力発電所でも導入されています。この2つのプロジェクトだけでも、GEのお客様は最終的に容量2.2GW超の洋上風力発電による電力を地域の送配電網へより損失を少なく接続することができるようになります。
HDVCシステムには特に重要な要素が2つあります。1つ目は、電圧源コンバーター(voltage-sourced converters:以下「VSC」)をベースとしたモジュラー・マルチレベル・コンバーターであり、2つ目はコントロールシステムです。VSCはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と呼ばれる最新のパワーエレクトロニクスを使用したバルブで構成されており、広い周波数帯域内で非常に高速な自励式転流制御を可能にし、電力の流れを簡単に反転させることができます。また、VSCはAC送配電網に不具合がある場合にブラックスタート(※)を可能にし、さらに脆弱なAC送配電網にも安定性を提供します。一方、コントロールシステムは、大容量のデータ収集およびその防護・制御のプラットフォームです。つまり、何千ものデータポイントを収集・分析し、毎秒6000万回のIGBTスイッチング動作をマイクロ秒の精度で制御します。GEの最新のeLuminaコントロールプラットフォームでは、デジタル化されたデータとモジュラー・ソフトウェア・アーキテクチャを活用し、より高いシステムレジリエンス、冗長性、そして可用性を提供しています。
※ブラックスタート:ブラックアウトの状態から、外部電源により発電された電気を受電することなく、停電解消のための発電を開始すること。
25年ほど前、ブロードバンド通信は一般に「情報スーパーハイウェイ」と呼ばれていました。現在では、HVDCは「電子のスーパーハイウェイ」と呼ばれています。
さらに激化する異常気象とサイバー脅威に備える
多くの地域で、送配電網はすでに限界を超える負荷を背負っており、脅威はさらに増大しています。例えば、多くの送配電網で天候に起因する停電が2倍に増加しており、電力業界が直面したサイバー攻撃は昨年だけで48%増加しています。送配電事業者や電力会社は、より安全性が高く、堅牢で、信頼性のある送配電網を構築する上で、ソフトウェアがより大きな役割を果たす必要があることを認識しています。
GEデジタルはこのほど、送配電網のオーケストレーションのために設計された世界初のエンドツーエンドのグリッド・ソフトウェア・ポートフォリオである「GridOS」を発表しました。GridOSは、送配電事業者が従来型電源と再生可能エネルギー由来の電源の両方から生成された電力の流れを把握し、予測することで送配電網を安定して運用することを支援します。GridOSの天候予測および復旧アプリケーションは電力会社が暴風雨の発生を見越して、その影響を把握し、影響を和らげるためのシナリオをまとめ、停電に直面した場合にも迅速な復旧を可能にします。その結果、GridOSを利用するお客様は送配電ネットワークの停止時間を18%減らし、復旧時間を40%短縮することに成功しています(注)。またGridOSは、お客様のサイバーセキュリティのニーズに応えるため、外部の脅威から、そして内部の脅威からも送配電網を保護する「ゼロトラスト」セキュリティモデルを採り入れています。そのため、電力会社が初めから最も厳しいセキュリティ基準を満たすことを可能にします。
運輸・交通および産業のさらなる電化に備える
電力需要が2050年までに3倍に拡大すると予想されていることと、電化が推進されることのあいだに密接な相関関係があるのは明らかです。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに世界の電力関連投資の50%が送配電網の増強に充てられると予測しています。この動きを主導する要因としては、再生可能エネルギーの統合増加、分散型エネルギー資源の拡大、およびエネルギー集約型アプリケーションの電化による脱炭素化などが想定されています。
より信頼性が高く堅牢な送配電網を構築するためには、現在の複雑な電力の流れを管理・運営するための高度なツールを活用し、現在と将来の電化と脱炭素の両方を成功させることが必要です。そこで役立つのが、GEのHVDCのようなフレキシブルな送電システムおよびGridOSなどの高度なテクノロジーとソフトウェアソリューションなのです。
(注)
ここでは、米国エネルギー情報局(EIA)が2022年10月に発行したElectric Power Industry Report, Form EIA-861のデータを参照しています。当該レポートのデータは125万世帯以上の顧客を擁する米国電力会社のデータに基づくものです。信頼性データは、重大事象日数(Major Event Days : MED)による平均停電継続時間指標(SAIDI)と平均停電回数指標(SAIFI)を示しています。
出典:Annual Electric Power Industry Report, Form EIA-861のdetailed data files
注意:当該レポートは信頼性データに基づいており、計算や仮定は含まれません。参照データはEIAによるものです。EIAは米国連邦統計システムを代表する機関です。健全な政策立案、効率的な市場、エネルギーと経済・環境との相互の関連における国民の理解促進を図るため、エネルギー情報の収集、分析、普及に携わっています。