
インド航空業界の屋台骨:GE AerospaceとCFM、民間航空会社との最大規模の契約を締結
クリスティン・ギブソン
ヴィクラム・ライは、飛行機を利用する旅がインドではまだ珍しかった時代のことをよく覚えています。彼自身も25歳になるまで飛行機に乗って母国インドの外に出たことがありませんでした。父親が初めてインド国外に出たのは48歳のときで、祖父は生涯一度もインド以外の国に出たことがありませんでした。ライは次のように振り返ります。「当時は飛行機の搭乗券を買うということに誰も縁がなかったのです。インドでは国際的なビジネスが少なく、空の旅を手軽に楽しめるインフラも整っていませんでした。」以降、ライはインドにおける空の旅が身近なものになるよう力を注いできました。現在、彼はGE Aerospace南アジア地域のインドのカントリーヘッドであり、これまでにインドの航空会社から約1,300機の飛行機の受注を支援したグローバルチームの一員でもあります。
そしてこのたび、ライのチームは最新かつ超大型案件を受注し、これはインドの航空業界における重要なマイルストーンとなりました。エア・インディアは2月14日、ナローボディ機400機とワイドボディ機70機の旅客機を購入することを明らかにしました。これを受けて、GE Aerospaceとボーイング787と777Xの双発大型旅客機に搭載するためのGEnx-1Bエンジン40基とGE9Xエンジン20基、およびエンジンの保守サービスに関する契約を受注しました。また、GEとサフラン・エアクラフト・エンジン社が50:50で共同出資している合弁会社であるCFMインターナショナルは、ナローボディ機種で比較的小型なエアバスA320/A321neo 210機とボーイング737 MAXファミリー機190機に搭載する800基以上のLEAPエンジンを受注しています。
ヴィクラム・ライ。画像提供:GE Aerospace
今回の記録的な大型契約は、インドの航空会社が1社で締結したものでは過去最大となりました。世界的にみても金額、数量ともにトップに近いものです。また、今回の契約は何年にもわたる新型コロナウイルス感染症の影響から民間航空業界が回復しつつあることを示すものでもあります。IATA(国際航空運送協会)によると、今年の世界の航空旅客輸送量はパンデミック前のピークの85%にまで回復すると見込まれており、インドの国内旅客輸送量はまもなく2019年水準へ回復するとみられています。航空機の利用者数が回復するとともに大型機の受注に弾みがついており、特に各航空会社とも老朽化が進んだワイドボディ機の更新に動いていることも影響しています。
今回の契約は、GEがインドの航空業界へ行っている長期的な投資において最も重要な節目となるでしょう。エア・インディアがCF6ジェットエンジンを搭載した最初のエアバスA300を購入してから40年が経ち、GEとCFMはライの言葉を借りれば「インドの航空業界の屋台骨」となっています。今ではGEとCFMの航空機用エンジンは合計して600基がインドの各航空会社で運用されており、今回新規に発注された航空機の納入が完了すれば、GEとCFMによる納入エンジン数は1,400基以上に拡大することになります。
CFM LEAPエンジンを搭載したエア・インディアのエアバスA320。トップ画像:GEnxエンジンを搭載したボーイング787。画像提供:エア・インディア
また、今回の契約はエア・インディアが新たなオーナーのもとで、グローバルな主要航空会社のひとつとなる計画における重要な一歩となります。昨年、インド政府はエア・インディアの売却をタタ・サンズ(ムンバイを拠点とするコングロマリット)に対して完了したことは、タタからみれば買収であると同時に、離れ離れになった仲間との再会でもありました。1932年にタタ・エア・サービシズ(Tata Air Services)として設立されたエア・インディアは、1953年に国有化されるまでの20年間タタの傘下にあったからです。新経営陣は現在、5か年計画によるエア・インディアの改革を進めており、サービスを拡充させ、カスタマーエクスペリエンスを向上させています。「エア・インディアはインドを代表する航空会社になりつつあり、インドを世界の大舞台へ向かわせるのです」とライは語ります。
また、今回の大型契約は最高のタイミングで行われました。人口14億人のインドは、ことしの春には中国を抜いて最も人口の多い国になると予想されており、インドの中流階層はすでに米国の全人口を上回っています。また、世界第5位の経済規模を誇るインドは、国際的なビジネスの流入により、最も急速に経済が成長している国のひとつでもあります。つまり、世界有数の航空産業界を擁する素地がインドには整っているわけです。ですが、今やインドを上回る航空機利用者を数えるのは米国と中国だけであるにもかかわらず、インドを発着する国際便の大部分は国外の航空会社によって行われているのが実情です。
タタはこの状況を変えたいと考え、まずは保有機を拡充することから始めています。エア・インディアは現在、GE90エンジンを搭載したボーイング777やGEnxを搭載したボーイング787など、約150機の航空機を運航しています。インドの人口は米国の4倍であるにもかかわらず、インド全体の旅客機は700機程度にとどまり、米国の10分の1に過ぎません。そのうち、ワイドボディ型ジェット機は45機に限られ、その全機をエア・インディアが所有しています。このような状況の中、タタはエア・インディアの保有機を拡充して世界有数の規模にするための発注を目指し、昨冬から航空機メーカーやエンジンメーカーの幹部と商談を重ねてきました。
インドには過去に2回のマイルストーンがあります。同国の格安航空会社インディゴ航空(IndiGo)が2019年と2021年に行った発注です。ライは、自身がこの業界で20年培ってきた人脈がGEにとって役立つことを知っています。「私たちインドの文化では、とりわけ人と人との結びつきが重要なのです。話し合うことができるかどうかが鍵となります。そしてお互いを良く知り、関係を深めることができれば、お客様は共に何かを成し遂げようと力を貸してくれるのです」とライは語ります。
契約締結を担ったGE Aerospaceとエア・インディアのチーム。画像提供:エア・インディア
GE Aerospaceのグローバルセールス&マーケティング担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるジェイソン・トニックは次のように振り返ります。「かつて4、5件の受注を続けざまに失敗し、インドの成長という未来から取り残されてしまったのではないかと感じた時期さえありました。ですが、今回、GEのヴィクラム・ライや各チームが尽力してきたことを振り返ると、人と人との絆が強まることの大切さ、そして私たちGEの製品やサービスの優れた点をお客様により良く知っていただくための取り組みが評価されたことを改めて実感します。まさに快挙が成し遂げられました。」
人と人との結びつきがとりわけ重要とされる中で、ライは何年もの時間をかけてタタの人々と深い絆を築いてきました。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンの中でも、エア・インディアが入札プロセスに入った初期段階から、彼はビデオ会議を通じてタタの幹部に最新の航空業界の情報を提供してきました。彼は幾度となく午前中に1時間のオンラインミーティングを組み、旅客機の経済性について説明し、エンジンの評価方法を解説してきました。こうしたことを積み重ねた後、ライのチームとタタの担当部署の人々はようやく実際に顔を合わせて商談のテーブルを挟み、交渉を重ねてきたのです。
サフラン・エアクラフト・エンジンのジャン=ポール・アラーリーCEO(左)と、GEアビエーション・サービス プレジデント兼CEOのラッセル・ストークス。画像提供:CFMインターナショナル
「私は、最終的にはエンジンの効率や信頼性といった要素が、航空機の稼働率や収益を左右することをご理解いただけるよう、お手伝いしました」とライは説明します。その結果、エア・インディアはGEとCFMの最新鋭エンジン4機種を選定し、従来型エンジンよりも燃料消費量を10%から20%削減することに成功しました。新型エンジンの厳選された一部のコンポーネントは、インド国内のハイデラバードのタタの工場とプネーのGEの工場、そしてその他のインドのサプライヤー企業13社で製造されることになっています。
タタ・サンズ会長およびエア・インディア会長のナタラジャン・チャンドラセカンは次のように述べています。「GE Aerospaceと今回のパートナーシップを結ぶことができ、タタグループとエア・インディアの全社員が胸を躍らせています。エア・インディアはワールドクラスかつ最も進んだテクノロジーを活用する航空会社となるでしょう。」
「このチャンスは計り知れないインパクトをもたらします」とライは語ります。職場から帰宅しても、航空業界の進歩は彼自身のファミリーストーリーのなかに感じられるからです。自分と父親が初めて国外に出かけた年齢に触れ、さらに祖父は生涯国外に出ることがなかったことを語った後、ライは微笑みながらこう続けました。「なんと、私の息子は1歳半で国際線に乗ることができたのです。」