
不可能を可能にする秘訣:エティハド航空がSAFで長距離フライトのCO2排出量を72%削減
ウィル・パルマー
先日、民間の航空会社が定期運航する長距離フライトで航空業界にとってのマイルストーンが成し遂げられました。UAEのエティハド航空が運航するボーイング787が持続可能なジェット燃料(Sustainable Aviation Fuel:以下SAF)を混合した燃料でロンドン・ヒースロー空港とアブダビ空港間の長距離フライト(約5,500km)を成功させたのです。このフライトのCO2排出量は2019年の同条件のフライトにおける排出量を72%削減するものでした。
このフライトは10月23日に実施され、エティハド航空にとって創立以来最もサステナブルなものとなりました。エティハド航空とボーイングがこの2年にわたり結んできたパートナーシップ「エティハド・グリーンライナー・プログラム」の一環として実施されたのですが、このパートナーシップはエティハド航空のボーイング787をサステナビリティ推進のためのテストベッド機として活用する取り組みでもあるのです。また、同社が保有するボーイング787は全てGEアビエーション製GEnxエンジンを搭載しています。
エティハド・アビエーション・グループ(Etihad Aviation Group)のモハマド・アル・ブルオキ(Mohammad Al Bulooki)チーフ オペレーティング オフィサーは次のように語ります。「今回のフライトは注目すべき成果を上げることができました。私たちがCO2排出ネットゼロの実現に初めてコミットした当時、航空会社がパートナー企業と協力し前向きに取り組まない限りこの目標は達成できないだろうと思われていました。そしてまさにその通りの協働が成し遂げられ、エティハド航空は今回のサステナブルなフライトを実現させたのです。」
今回のロンドン発アブダビ着のフライトでは、運航計画の立案時はもちろん、飛行中も、そして着陸後にもさまざまな改善策が盛り込まれました。エティハド航空はプレスリリースで「今回のフライトでは離陸時、巡航中、そして着陸に至る飛行経路や高度の最適化を図るために、機体やエンジン、飛行経路計画システムをさらに見直し、自機の飛行機雲形成も最小限に抑え、お客様に手荷物の軽減をお願いし、ご協力いただいたお客様には特典を提供するなど多岐にわたる項目を見直し、新たな施策も盛り込まれました」と伝えています。機内食サービスも例外ではなく「最適な備品の調達」が実施され、サステナブルな食器類や軽量化されたカトラリーも活用されました。

エティハド航空によると、今回の6時間のフライトでは民間機として初めて自機の「飛行機雲」の発生を抑制しました。飛行機雲が発生する仕組みは、はじめに飛行中の航空機が通過すると気流の渦ができ、その渦の中で起こる気温低下の結果生じる巻雲が寄り集まり、飛行機雲が形成されます。こうしてできた飛行機雲は地表から発する赤外線を反射してしまうため、地表の熱を宇宙に逃がすことができず、大気中に閉じ込めてしまう原因となります。エティハド航空は次にように伝えています。「英国のスタヴィア社(SATAVIA)との協働により、運航チームは大気中の氷が過飽和となる空域を識別することで、自機の飛行により有害な飛行機雲が形成されうる当該空域を回避するよう、飛行ルートを修正しました。当初予定した飛行ルートと修正した飛行ルートを比較検証すると、飛行機雲の発生を抑制するこの戦略により約64トンのCO2発生が回避された一方、回避ルートを通ったことによる余分な燃料消費はわずか100kg、それによるCO2排出量は0.48トンに過ぎなかったのです。」
また、エティハド・アビエーション・グループのトニー・ダグラス(Tony Douglas)グループ チーフ エグゼクティブ オフィサーは次のように述べています。「このフライトが実現できたのは、私たち全員が出来る限り協力し、CO2排出削減に役立つことをすべて行うと一致団結したからです。さらに、すべてのパートナー企業がそれぞれに課された重要な役割を果たしたことで、今日の新しい一歩を踏み出すことができました。」
さらに、GEデジタルのフュエル・インサイト(Fuel Insight)というソフトウェアが10月23日に飛行したボーイング787に搭載されていました。このソフトウェアではフライトデータや気流の解析、燃料がどれだけ節減されたかなどの計算をわずか数分でできることから、航空会社がコストとCO2排出量の両方を削減するに役立ちます。また、フライトごとの分析および当該航空会社の全フライトを考慮した分析に活用することもできます。
くわえて、今回の機体では搭載する2発のGEnxエンジンにSAFを含む混合燃料を使用しました。SAFあるいはバイオ燃料とも称されるこの燃料は、農作物や草、藻類などから抽出した脂肪分やグリースを原料とするジェット燃料です。GEアビエーションの航空燃料・添加剤部門のエンジニアリングリーダーを務めるグルハン・アンダック(Gurhan Andac)は次のように説明します。「私たちはいま、家庭ごみや汚泥などの廃棄物の処理過程で発生する物質や糖類、アルコール類などについても話し合っています。最終的にはごく少量、或いは特定の地域でしか産出されない限られたものであっても、あらゆる物質が燃料として何らかの役に立つ可能性もあるのです。」
現在、航空機が消費する燃料のうちSAFは1%にも満たないものの、GEアビエーションもその利用拡大を推進する方法を研究している企業の一つです。燃料のライフサイクル全体を考慮すると、SAFの使用により燃料のCO2排出量を最大80%削減することができます。
さらに、エティハド航空のアル・ブルオキ チーフ オペレーティング オフィサーは次のように語ります。「SAFは現在の化石燃料の代替品として信頼性の高い燃料ではありますが、現状は非常に高コストで、その調達を含めて航空機が実際に利用するには困難が伴います。だからこそ、航空業界と各国政府が協力してSAFの研究開発に投資を行い、課題に対処することが重要なのです。」
GEアビエーションとエティハド航空は、SAFの利用拡大以外でもGEの「360フォームウォッシュ(360 Foam Wash)」と呼ばれる先進的な洗浄システムの開発で協働しています。このシステムはエンジン内部のチリやホコリの粒子を除去することでエンジンの性能向上と燃料節減に役立ちます。エティハド航空はGE90およびGEnx-1Bエンジンの洗浄に360フォームウォッシュを利用する技術ライセンスも取得済みで、同社が保有するボーイング777および787の機体まるごとを自社の施設内だけで洗浄することも可能です。今回のフライトでもフォームウォッシュでエンジンを洗浄後、ロンドンを離陸しました。
GEアビエーションのGEnxエンジンプログラムゼネラルマネージャーを務めるデイヴ・キルヒャー(Dave Kircher)は次のように語っています。「GEは強力な技術力でこれから先の航空機エンジンの大幅なCO2排出削減に貢献するだけでなく、お客様と協働し、現在運航中の航空機におけるCO2排出削減にも尽力しています。より燃料効率の高いGEnxエンジンのほか、燃料節減のためのデジタルツールや360フォームウォッシュなど最新のエンジン洗浄技術、そして規格に適合したSAFでGEのジェットエンジンすべてが動作することなどあらゆる方法を駆使し、お客様である各航空会社やエティハド航空のようなパートナー企業が取り組む環境負荷軽減のお手伝いをすることができます。」
今回のフライトではさらにCO2排出量を削ぎ落とすために、到着後も預入手荷物の荷下ろしなど空港内物流を担う車両として、最新のサービス用電気自動車チームがエティハド航空により配備されました。
「この2年間で学んだことのなかで最も重要なことは、たとえ目の前に利用可能なソリューションがあったとしても、航空業界という制約があるため、簡単に取り入れることができないということです。今回のフライトで私たちが実証したのは『不可能を可能にする秘訣』でしたが、このような取り組みをサステナブルに展開し続けるにはどうすればよいか考えていくことが次のステップになります」とエティハド航空のアル・ブルオキ チーフ オペレーティング オフィサーは結びました。