
世界初、9EMaxガスタービンで新たな競争に挑む ー 東京電力 富津火力発電所
2016年の電力小売全面自由化を経て、今度は2020年には送配電部門の法的分離が予定される電力業界。電気を選んで買えるようになり、消費者目線では今後ますますの電気料金の低下に期待したいところです。一方で、特に伝統的な電力会社はいま、各社とも経営の抜本的転換に取り組んでいます。
かつて電力業界には「電気をきちんと作っていれば儲かる」という時代がありました。時代は一変し、業界では新参入したプレイヤーがひしめき合っています。総括原価方式は廃止され、系統上では高変動の新エネルギーが割合を増やし、また、電力の使われ方も様変わりしました。不確実性が高まり、予測を立てづらくなったいま、電力会社には市場や需要の変化に動的に対応し続けられる経営が求められています。
そこで東京電力フュエル&パワー(以下、東電FP)は、新たな一手を打ちました。東電FPを代表する富津火力発電所はコンバインドサイクル・システムを備えた4つの系列で構成される巨大な発電所です。天窓から陽が美しく差し込む1号系列の巨大な建屋に入ると、GE製9E.03型ガスタービンが整然と並んで稼動しています。建設されたのは1980年代。以来32年間、起動停止回数約5,000回、約20万時間もの過酷運転をしてきたガスタービンたちが、役目を終える時期を迎えました。
ガスタービンを“アップグレード”するという新発想
富津火力発電所(以下、富津火力)の佐々木敏郎所長はこう言います。「従来であればスクラップ&ビルド、つまり建屋ごと取り壊して完全にまっさらな発電設備を建設していました。いいものをしっかり作って、長期をかけて投資回収すればよかった。でもいま、自由化が進むなかで選んでいただける電気をつくるためには、投資を抑えながらも成果を最大化していかなければなりません」――東電FPが選択したのは、コンバインドサイクル・システムを“丸ごと取り替える”のではなく、既存設備を活かしながらシステムの一部を刷新し“アップグレード”する手法。世界ではまだ例が少ない斬新なもので、その投資効率の良さから注目が集まる手法です。富津火力1号系列にある6軸の9E.03型ガスタービンは、9E.04型 通称『9EMax』へとアップグレードされる計画であり、すでにその1号機は商用運転を行っています。
パフォーマンスを飛躍的に向上させる9EMaxの4段タービンモジュール
(東京電力フュエル&パワー 富津火力発電所 1号系列)
系統上のエネルギー構成も様変わりしています。「再生可能エネルギーへの投資が進み、たとえば東京エリアでは800万キロワット、あるいはそれ以上の太陽光発電があり、これはさらに拡大されていきます」と佐々木所長。9EMaxへのアップグレードで狙う成果について、所長は「効率、信頼性、それから自然エネルギーの不安定さを補うフレキシブルな機動性。そういったものを両立し、しかもそこにかかるコストを抑えること」だと説明します。9EMaxの世界初の導入を決めた東電FPは、通常はメーカーの工場で行う実機検証試験(バリデーション試験)を富津火力で実施することを決断。「市場変化のスピードの先回りをしていかなければなりません。9EMaxとして世界初。GEと協働してきたわけですが、やはり、産みの苦しみはありました。しかし試験をしてみると驚くほど順調で、期待したパフォーマンスも確認できた。すでに2軸目以降のアップグレード準備も進めていますので、成果拡大に期待しているところです」――富津火力における1軸目の運転試験では、9Eガスタービン・コンバインドサイクルの発電効率は従来の47.2%から51.4%へと4.2%の向上が確認できました。もちろん、アップグレードによって出力向上も実現しています。
佐々木 敏郎 氏
東京電力フュエル&パワー 富津火力発電所 所長
機動力、信頼性、効率のすべてを低コストで
現場でプロジェクトをリードしたのは、富津火力のGT改造工事のグループマネージャー、中山健司氏。「経済や産業、テクノロジーの変化とともに、電気の使われ方は大きく変わっています。周波数の変動、昼夜の負荷のあり方、需要カーブの変化。今後も変化する系統ニーズに、発電所はさらに柔軟に対応していく必要があります。9EMaxは、DSS(日間起動停止)能力に長けていることも魅力でした」
まさにエンクロージャーに収められようとする9EMaxのタービン
(東京電力フュエル&パワー 富津火力発電所 1号系列)
富津火力1号系列で稼動してきた9E.03型タービンには、中東、アフリカ、ヨーロッパなどで30年以上前から積み重ねた、700台以上の稼動実績があります。「これまでの過酷運転でも大きな不具合はなく、信頼のおける設備だと認識していました。さらに、9EMaxに採用された冷却技術や材料技術は定評ある9E型、9F型ガスタービンのもので、これもひとつの決め手でした。発電設備の信頼性は、オペレーションコストを大きく揺るがすものですから」と話す中山氏。一般にこのクラスであれば定期点検の推奨頻度は1~2年に1度程度。しかし9EMaxは、その部品寿命の長さから4年に1度という驚異的なメンテナンス・インターバル(※)を可能に。お客様の収益力拡大に貢献するために、新テクノロジーだけでなく実績ある技術ベースに進化させて活用し、信頼性を高める。これが有効であることは、GEの航空機エンジン部門も多々経験してきています。
※典型的な運転負荷の場合。目安として最大起動回数900回、最大運転時間32,000時間
中山 健司 氏
東京電力フュエル&パワー 富津火力発電所
GT改造工事グループマネージャー
国内有数規模のLNGタンクを備える富津火力は、米国のシェールガスをはじめ世界各地から様々な燃料を運び入れています。LNG基地からは大量のBOG(ボイルオフガス:貯蔵タンクへの入熱により気化してしまうガス)も発生します。こうした環境の中、「広レンジの燃料が使用できれば、経営上の大きなメリットになります。ですから、幅広い熱量でも使用可能であると共に、刻々と変化する熱量に追従可能で、柔軟に対応してくれるガスタービンを求めていました。9EMaxはこの点でも、優れた燃焼器、カロリー変動に追従する制御装置や熱量計が、これらの問題を解決してくれます」と中山氏。
富津火力発電所において実施した高付加試験では
1,000個以上の計測器を使用して14.2テラバイトのデータを収集した
ボトミングサイクル、排熱回収ボイラ、蒸気タービンサイクルに至るまで既設設備を流用したにも関わらず、ヒートバランス(システムに加える熱量と取り出す熱量のバランス)を叶える効率を実現した今回。東電FPは発電オペレーターとしての実力を見せつけたかのようでした。中山氏は、発電システムのアップグレードは決して簡単ではないですね、と控えめに笑います。「ガスタービンが変われば排ガスの熱量や温度も変わります。既設の設備それぞれに最高使用圧や最高使用温度等の設計制約条件がある中、性能を最大限引き出すためには静的、動的な評価・検証も行わなければならず、そこにフィットさせる難しさはありました。GEさんと二人三脚のエンジニアリングが大切です。これからの運転を通じて発見することや得たことを共有して、9E Maxの進化、つまり効率向上や信頼性向上に寄与していきたい。そう、思っています」
GE側でプロジェクト・マネージャを務めた熊谷祐賢も、1号機の商用運転開始の瞬間は涙をこらえることができませんでした。少しでも早くお客様の経営上の成果を実らせたいと、FastWorksの手法を用いて進めたこのプロジェクト。従来のガスタービン開発と比べて、9EMaxの開発は非常に短期間のうちに進めました。
「東電FPさんには実機検証試験まで協力していただきました。本当に、一緒にモノを作っていただいたという感謝でいっぱいです」と熊谷は言います。「発電所というのは、とてつもなく大きな責任を負った場所です。ここで仕事をご一緒するすべての方が、その大きな責任を感じながらひたむきに働いている。発電所は同時に、とても危険な場所です。不具合や事故は、ともすれば“人が死ぬ”ことさえ招いてしまう。だから僕は、メーカーとしてちゃんとしたものをお納めして、ちゃんと回って電気を作り、ここで働く方々を支援できるモノを届けたい。その一心で働いています」
熊谷祐賢
GE Power プロジェクト・マネージャ
自由化によって競争が激化し将来の予測を立てづらいのは、世界の多くの電力市場も同じ。そうした中での新たな戦い方ともいえる “アップグレード”。世界初の9EMaxオペレーターとして先鞭をつけた東電FPは、世界の電力市場のソートリーダーの一社として注目を集めています。そして、変化し続ける日本の電力市場で新たな常識をつくる東電FPを、GEは引き続きサポートしていきます。