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チームスピリット:世界最長の風力タービンブレードを作る工場に求められるものとは

第二次世界大戦の転機となったノルマンディ上陸作戦。フランスの大規模な深水港シェルブールは、進攻する連合軍にとって是が非でも確保したい拠点でした。フランス最後の国王ルイ16世が軍港化し、ナポレオンも重要視したこの港湾都市は、米国からの補給品を直接運び込める輸送ルートを開く上でカギとなる場所でした。ドイツ軍の守備隊もそのことは重々承知しており激しく抵抗しました。1944年6月後半に米英の部隊がシェルブールを掌握したときには、町の大部分は破壊され、港は爆破されていました。

そんなシェルブールの復旧に最も貢献した船がありました。

米海軍の護衛駆逐艦ドンネルは、数カ月前にドイツ軍の潜水艦Uボートとの海上衝突で大きな損傷を受け、港まで曳航されて防波堤に係留されていました。しかし、ドンネルに搭載された推進用の2基のGE製ガスタービンは使える状態であったため、海軍はドンネルを海に浮かぶ発電所として転用しました。ドンネルは魚雷管から引き出したケーブルを経由して、解放後のシェルブールにその生命線となる電力を供給したのです。

現在、そのシェルブールの広い海岸と戦争の爪跡の残る防塁の近くで、全く新しいGE製の発電装置に命が吹き込まれています。2018年、GEリニューアブルエナジーの子会社であるLMウィンドパワーが、港の埠頭から車ですぐの所にサッカー場数個分の広さがある巨大な工場を新設しました。この工場では、世界で最も強力な洋上風力タービンに使われる世界最長の風力タービンブレードを製造しています。去る7月、LMウィンドパワーは2019年に200人以上の従業員を雇用し、年末までに総従業員数を320人以上にする計画を発表しました。「私たちは様々な資質を求めています。指示に従って正確な作業をする能力やチームスピリットも含まれます。ブレードを作るには、多くの人が一斉に協力して働く必要があるからです」と、シェルブール工場長のエルワン・ルフロッシュは言います。「新しい従業員の中には、最近まで魚屋やレンガ職人をしていた人もいます。ブレードの作り方を最初から知っている人はなかなか雇えません。フランスにはそんな人はほとんどいませんからね」

世界各地の15カ所に工場を展開するLMウィンドパワーは、風力タービン用ブレードの設計と製造を手がける世界最大の企業です。ブレード製造を開始した1978年以来、同社は21万5,000本を超えるブレードを生産してきました。そのブレードを使用した風車の発電能力は約102ギガワットと、米国内のすべての稼働中の原子力発電所の総発電能力を超える水準です。しかし、シェルブールの施設は他の工場とは違います。フランス初の同社の工場であり、過去に製造されたことのない製品を作っているのです。それは、長さ(プロ仕様のサッカー場より長い)107メートル、根元部分の直径5.4メートルのブレードです。このブレードが、1基につきヨーロッパの1万6,000世帯に電力を供給できる能力を持つGEリニューアブルエナジーのの発電機を回転させます。(発電機は沿岸を南に下ったサン・ナゼールにあるGEの工場で製造されています。)

最上部画像:左から順に、LMウィンドパワーのエルワン・ルフロッシュ、サラ・ルフェナック、ルーカス・チェイロフスキー、アンデルソン・ピーニョ。
画像提供:トーマス・ケルナー(
GEレポート)
上部画像:世界各地の15カ所に工場を展開するLMウィンドパワーは、風力タービン用ブレードの設計と製造を手がける世界最大の企業。
フランスのシェルブールにある最新の工場で、
全長107メートルに及ぶ世界最大の風力タービンブレードがこのほど完成しました(クリックして画像を拡大)。
画像提供:
GEリニューアブルエナジー/LMウィンドパワー

シェルブールの工場が立つ敷地は、ほんの2年前はノルマンディの細長い砂浜に隣接するだだっ広い平地でしかありませんでした。今回の新ブレード開発を主導し、欧州、米国、中国でのLMウィンドパワーの工場開設にも貢献したプロジェクト・ディレクターのルーカス・チェイロフスキーは、次のように語ります。「この工場は本当に魅力的です。これほどハイレベルな工場は、当社には今までありませんでしたから。これまでに操業したことのない国に開設した工場で、高度な自動化を実現し、実際にかなり大型の製品を扱っています。それに、従業員もみな新しい人ばかりです」しかし、チェイロフスキーと同僚たちは、そうしたあらゆる要素を融合させることに不安を感じてはいません。なぜなら、LMウィンドパワーには「成功のための完璧な処方箋」があるからだとチェイロフスキーは言います。

この処方箋のカギとなるのは、各工場内にある「ミニ工場」です。LMウィンドパワーでは、これを「センター・オブ・エクセレンス(先端拠点)」と呼びます。ここで、上級管理職を含めた新規採用社員が3~4週間をかけて巨大なブレードの製造方法を学びます。シェルブールの造船所の上級管理職から2018年4月にLMウィンドパワーに転職した工場長のルフロッシュや、この工場で生産管理を担当するアンデルソン・ピーニョも、その研修に参加しました。ピーニョは業界のベテランで、ジェットエンジン、潜水艦、原子力発電所用のハイグレード鋼部品の生産管理を経験した後、2018年8月にLMウィンドパワーに入社しました。「私にとっては全く新しい経験でした。グラスファイバー複合材を扱うのは初めてでしたし、チームも工場も工程もすべてが新しい。実に大きな挑戦でした」とピーニョは振り返ります。

シェルブール工場はフランス初のLMウィンドパワーの工場です。ここで製造されるブレードの長さはプロ仕様のサッカー場より長い107メートル、
根元部分の直径は5.4メートルに及びます。画像提供:GEリニューアブルエナジー/LMウィンドパワー

研修では、通常は1クラス20人前後の従業員を2人の講師が指導します。第1週目は、講義形式でブレード製造の根底にある基礎の理論を学び、品質や安全に関する講義も受講します。その後「ミニ工場」に場所を移し、2~3週間をかけて新しい知識を応用しながら実際のブレードの縮小版を組み立てます。部品が固化したら、講師の指導のもとで、シェルについた小片をやすりで削り落とし、層の数え方や欠陥の見つけ方を学びます。「重点を置いているのは、工程、安全、品質です」と講師のピエール・ジェイエルは言います。

風力タービンブレードの製造工程からは、デンマークでグラスファイバーとヨットのメーカーとして創業したLMウィンドパワーのルーツが現在もうかがえます。「聞くところによれば、創業間もない頃は従業員が日曜日に工場へ来て、廃材で自分のヨットを作っていたそうです」と、シェルブール工場で物流管理を担当するサラ・ルフェナックは話します。(現在、LMウィンドパワーの一部の工場では、地域の学校と協力し、残った材料を利用してゴミ箱やほうきなどの地域社会プロジェクト用の物品を作る活動を行っています。)

ブレードは通常、グラスファイバーとバルサ木材の層を重ねて作られます。その結果、薄いパイ生地を重ねて押しつぶしたような部材が出来上がり、これを複合材と呼びます。まず、適切な空力形状を生み出すように成形された専用の型の内側に生地と木材を一枚ずつ重ねていきます。次に、重ねた層に金属箔をかぶせ、空気を吸い出して真空状態を作り出してから、特殊な樹脂を注入して各層を接合させます。真空によって樹脂がごく小さな隙間にまで入り込み、硬いシェルができます。「芸術と科学の融合です。木の根っこから隅々の葉まで水が行き渡るのによく似ています」とルフェナックは表現します。

世界最長のブレードの製造方法を学ぶには、小さいものから始めなくてはなりません。会社が運営するシェルブールの「ミニ工場」では、
新規採用社員がブレード製造過程の基本を学びます。画像提供:トーマス・ケラー(
GEレポート)

簡単な工程にも聞こえますが、作業員たちが扱うのはサッカー場ほどの長さのある物体です。充填する樹脂はあっという間に液体から固体に変わってしまいます。白い防護作業服に保護用のマスクと耳当てをつけた作業員たちは、まるで宇宙から来たバレエ団のようです。「限界ぎりぎりの作業ですよ。しっかり同調して作業しないと、ブレードが使いものにならなくなってしまいます」とチェイロフスキーは言います。

シェルが固まったら型から外し、縦半分の2枚のシェルを1本のブレードに組み立てます。シェルの内側にある長い曲線状の留め具は、まるで映画『エイリアン』のセットから取り出してきたような形をしています。そして最後にブレードにやすりをかけて研磨し、塗装してから顧客へ発送します。

シェルブール工場で製造されるブレードは非常に長く、重い(1本当たり50トン)ため、グラスファイバーとカーボンファイバーを織り合わせた特殊なハイブリッド素材が使われています。この素材を使うことで、ブレードの荷重がかかる部分に高い剛性と軽さを両立させることができます。「これほどのものを作るには、しっかりした実績を何年も重ねることが必要です」とチェイロフスキーは言います。「何もないところから107メートルのブレードを作ることなどできません。小型模型を作って痛い目にあい、何が失敗につながるかを自分の目で見て、そこから学んで解決策を見つけなければならない。そうしてようやく、他の誰にも作れない製品を生み出すことができるのです」

また、ブレードの取り扱いには大型ロボットに頼る部分も多くなります。何しろ、陸上100メートル世界記録保持者のウサイン・ボルトでも端から端まで駆け抜けるのに10秒かかる長さの物体を扱うのですから。例えば、工場の天井から吊るされた1台のロボットは、作業員がブレードにグラスファイバー製の補強材を取り付けるのを補助します。ブレードの向きを変え、建屋から運び出すロボットもあります。「2台のロボットを70メートルの間隔をあけてブレードに取り付けています。このロボットが自動的にブレードを搬出してくれます」とルフロッシュは説明します。「一見、アマゾン社の倉庫のようですよ。ただし、扱う製品ははるかに大きいですけどね」

この夏、最初のブレードが試験のためにイギリスのブライズに到着しました。画像提供:GEリニューアブルエナジー

製造工程は非常に重要で、その詳細は企業秘密として厳重に守られています。このため工場の管理職たちは、新しい作業員が加わるたびに様々な質問をして評価し、一人ひとりの作業員について、どのスキルをどの程度の水準で遂行できるかを示した「スキル・マトリックス」を作成します。「まず話し合いをして、その作業員がある作業を不安なく行えるか、何か聞きたいことはないかを確かめたいのです」と研修講師のジェイエルは言います。「それに、話し合いをすることはチームのチームスピリットを醸成する助けにもなります」

チームスピリットは、LMウィンドパワーの事業の進め方の基盤となっています。ブレードの繊維層に樹脂を浸透させるのと同じように、同社は研修を終えたばかりの従業員を欧州やカナダの工場に2カ月間派遣し、ブレード製造の経験豊富な熟練作業員のそばでスキルを磨いてもらいます。チェイロフスキーやルフェナックのようなベテラン社員も世界各地の新工場に派遣され、幹部や作業員にその知識を広めます。「新しい工場では、一番経験と熱意のある人材にメンター役をお願いしています。世界中を回り、新しい場所を発見し、それを自分の仕事に結びつける意欲のある人がいるなら、この仕事はそういう人にふさわしいと思います」とチェイロフスキーは言います。

ピーニョはこう付け加えます。「チームスピリットこそが私たちがここでしている仕事の本質です。私はいくつもの企業を渡り歩いてきましたが、こんな職場は他に見たことがありません」

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