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SMR、展開!:GEH、小型モジュール原子炉の2029年末までの稼働に向けて4社間技術協力に合意

キャロライン・モリス

3月下旬、ワシントンD.C.で行われたイベントでポーランドのシントス・グリーン・エナジー社(以下SGE)のラファル・カスプロフCEOは次のように語り始めました。「私たちはまさにエネルギー危機に直面しています。その克服に不可欠なソリューションはイノベーションに富んだテクノロジーであり、私たちが今この手に掴んでいるものです。その名は『SMR(小型モジュール原子炉)』といいます。」カスプロフ氏の発言はGE日立・ニュクリアエナジー(以下GEH)製SMRであるBWRX-300の開発と世界展開を進めるため、総投資額約4億ドルの新たな技術協力に合意する記念イベントでの発言でした。

今回の合意は、GEHがSGEおよび米国テネシー川流域開発公社(以下TVA)、そしてカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(以下OPG)の3社と提携する技術協力に関するものです。GEHのジェイ・ワイルマン社長兼CEOは次のようにコメントしました。「SGE、TVA、そしてOPGの3社とGEHは協力してBWRX-300の設計完了にむけて投資することで、このテクノロジーの普及を加速させることになります。今回の合意により、パートナーである4社がともに恩恵を受けます。」

向かって左からジェイ・ワイルマンGEH社長兼CEO、ケン・ハートウィックOPG社長兼CEO、ジェフ・ライアッシュTVA社長兼CEO、ラファル・カスプロフSGE CEO 画像提供:GEH

SMRとは最大300MWe(注)の発電が可能な小型原子炉と定義され、これは米国の約22万5千世帯分の消費電力に相当する電気出力です。また、SMRは従来の大型原子炉よりも迅速な配備や設置が可能な上、単位あたり出力コストも低減できると見込まれています。さらに、発電時にはカーボンフリーな電力を生成することができます。

注:We(ワットエレクトリカル)は原子炉の電気出力の単位として使われる

各国とも脱炭素化やネットゼロの排出目標を達成するための方法を模索している中で、とりわけSMRが注目を集めているのは偶然ではありません。というのも、太陽光や風力などによる再生可能エネルギー由来の発電が電力需要に追いつかない場合、原子力エネルギーはその不足を埋めるために大きな役割を果たすからです。さらに、新たな建設案件ごとに物理的仕様に適合する設計が必要である大型原子炉とは異なり、BWRX-300のようなSMRは標準化された設計とより小さな設置面積で提供することができます。

ワイルマンは次のように説明します。「今回の技術協力が合意されたことは、今後の気候変動問題の解決に役立つプラットフォームが立ち上げられたということに他なりません。2050年までにネットゼロを実現したいのであれば、その方程式の一部に原子力が含まれることは誰もがわかっていることです。つまり、テーブルにネットゼロ実現の選択肢を並べるとき、原子力が候補に含まれることは間違いなく、私たちもそのテーブルに席を確保する必要があるのです。そのためにはスケジュールと予算に則した開発を進めなければならないうえ、ほかの発電方法と比較しても遜色ないコスト競争力も重要になります。」

GE VernovaのCEO、スコット・ストレイジック

これこそがGEH、SGE、TVA、そしてOPGの4社が今回合意した技術協力で実現を目指している点です。標準設計が作成され確定すれば、まず先陣を切るのがOPGです。同社は2029年にトロント東部のダーリントン新原子力発電所においてBWRX-300を稼働させる予定です。3カ月前に着工された新原子力発電所は、北米初のグリッドスケールSMRになると、ワイルマンは喜びとともに表明しました。一方、SGEおよびTVAも遅れをとっているわけではありません。TVAはテネシー州オークリッジ近郊のクリンチリバー施設でBWRX-300の建設許可申請を準備中です。また、SGEもポーランドにおいて導入を視野に入れている10基のSMRのうち、2020年代末までにその初号機の導入を目指しています。

SGEのカスプロフCEOは今回のプロジェクトに投資することについて次のように述べています。「今回の投資が可能になったのは、GEHによる最先端のモジュール化技術がポーランドのエネルギー生産および熱供給の脱炭素化にまさにふさわしい完成度を示しており、さらには私たちSGEが英国や中央ヨーロッパで展開する他のゼロエミッションプロジェクトにも最適だからです。」

実際、SMRの目標は、今回の新たなコラボレーションに参加する3カ国の枠をはるかに超えるものです。だからこそ、この技術協力のキーワードは「Deploy(展開)」だったのです。ワイルマンも次のように説明します。「これは実証プロジェクトではなく、展開プログラムなのです。つまり、いちど設計を完成させたら、何基でも同じ設計のSMRを建設できるのです。」

BWRX-300のレンダリング

ジェフ・ライアッシュTVA社長兼CEOは、これらの目標を達成するための鍵はパートナーシップであると述べました。これは、電力セクターのテック企業と製造業企業の間だけでなく、国家間のパートナーシップでもあるのです。

GEHコマーシャル・エグゼクティブを務めるニコール・ホルムズが主催した今回の記念イベントには、連邦議会議員をはじめ、駐米ポーランド大使、ケン・ハートウィックOPG社長兼CEO、そしてGEのエネルギー事業ポートフォリオを結集するGE Vernovaのスコット・ストレイジックCEOも登壇しました。

ストレイジックは次のように語りました。「きょうはお祝いの日です。そして、本当の仕事は明日から始まります。私たちは次のステップへ踏み出します。このテクノロジーは、1カ所や3カ所のプラントを建設することにとどまらず、世界の電化と脱炭素化の両方においてインパクトをもたらすために必要なのです。」

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