
SAFety First:実用化に向けてテイクオフするSAFを見守るGEのグルハン・アンダック
ウィル・パーマー
9月21日から23日までペンシルベニア州ピッツバーグで開催されたグローバル・クリーン・エネルギー・アクション・フォーラム(以下GCEAF)で、米国エネルギー省のジェニファー・グランホルム長官は「航空機が存在しない世界はもはや考えられませんが、航空機によって発生する環境汚染はこれ以上許されない状況になりました」と言明しました。今年のテーマは「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料。以下SAF):世界中で進むテイクオフ」でした。
航空業界は世界のCO2排出量の約2.5%を占めるといわれています。GEは長年に渡り、グランホルム長官が「総力を挙げて取り組む」と言及した航空業界の脱炭素化にむけて研究開発を行ってきました。昨年、米国政府はSAFについて2つの目標を設定しました。1つは2030年までに年間30億ガロン(約113億6千万リットル)の生産・供給量を目指すことで、これは2021年の水準の600倍になります。2つ目は2050年までに350億ガロン(約1,325億リットル)という、米国内の航空分野全体で必要とされる燃料に匹敵する量を生産することです。これらの目標を設定することにより、民間航空機の飛行に伴う燃料のライフサイクル中のCO2排出量を劇的に削減することに役立ちます。
すべてのGE製エンジンは、現在認証されているSAFで運航することができます。また現在認証済みのSAFは、従来のジェットAおよびジェットA-1燃料の代替となりうる上、エンジンや機体、燃料インフラへの改修が不要な「ドロップイン(drop-in:簡単に交換できる)」対応となっています。SAFは、幅広い植物由来の原料、使用済み食用油、都市型生活ごみ、アルコール類、糖類、回収されたCO2など、さまざまな原料から抽出することができます。

GEエアロスペースの燃料担当エキスパート、グルハン・アンダック(Gurhan Andac)も今回のフォーラムに登壇し、SAFを巡るこれらの目標を讃える一方、SAFの生産量増強には安全を担保するための施策が必須であることにも触れ、次のように述べました。「自動車なら駐車場に停められますが、空中では不可能です。自動車なら路側に寄せ、エンジンフードを開けて確認できますが、航空機ではできません。このような観点から、メーカーや私たちGEにとって、新たに導入される燃料技術の安全性を確保することは非常に重要なことです。」GEエアロスペースの航空燃料・添加剤部門のエンジニアリング・テクニカル・リーダーを務めるアンダックはASTMインターナショナルで航空機タービン向け合成燃料の世界標準仕様を維持する委員会のトップも兼任しています。
グランホルム長官は、自身が率いるエネルギー省をはじめ、農務省や運輸省などの米国政府機関や産業界が1年がかりで取り組んできた「SAFグランドチャレンジ・ロードマップ」について発表するためGCEAFに登壇し、次のように説明しました。「米国のジェット燃料の需要は2050年までに約40%増加すると予測されており、これに対するソリューションは急激に必要性が増しています。SAFは、この分野に取り組むための、今ある中で最も重要なツールであり、だからこそ昨年に米国政府はSAFグランドチャレンジを立ち上げたのです。」

アンダックもこれに同意し、次のように説明します。「ハイブリッド電気推進用航空機エンジンや先進的なエンジンコア・燃焼設計など、より燃費の優れた最新の飛行技術を巡るGEの開発力には目覚ましいものがあります。ですが、そうした技術の進歩のペースは、現在すでにあるSAFに対するニーズを凌駕するものとは言えず、おそらく2030年代半ばまで商業運航に利用できる段階には至らないでしょう。それに対し、SAFは少なくともテクノロジーの観点からは現段階ですでに幅広い航空機フリートで利用可能な上、既存のインフラも幅広く活用できるソリューションです。」

実際、燃料としてのSAFは、乗客が機内誌の記事で目にするように、比率が低いとは言え世界中のフライトですでに利用されています。そして、そのポテンシャルがさらに飛躍することがすでに実証されています。2021年10月、GE製GEnxエンジンを搭載したUAEのエティハド航空が、ロンドンからアブダビへの長距離定期便で、既存のソリューションを活用しながらSAFを混合した燃料での飛行を実現しました。このフライトのCO2排出量は2019年の同条件のフライトにおける炭素排出量を72%削減するものでした。その2か月後、今度はユナイテッド航空機が、搭載するCFMインターナショナルが開発したLEAP-1B エンジン2基のうち1基で100%SAFを使用して、乗客を乗せた旅客機として世界初の試験フライトを実施しました。(CFMインターナショナルはGEとサフラン・エアクラフト・エンジンズ社が50:50で共同出資している合弁会社です。)そして2022年5月には、KLMオランダ航空がSAFを含む混合燃料で同時に2ルートの実証フライトを実施しました。両フライトともそれぞれGE製エンジンを2基搭載する機材を用い、両機ともSAFを39%使用しました。
しかし、米国のSAFグランドチャレンジの目標を達成するためには、航空会社が必要とする量のSAFを供給するためのサプライチェーンと、生産設備を構築するための大規模投資が必要です。連邦政府のSAFロードマップは、この目標を達成するために必要な6つのアクションとして次のような項目を示しています。すなわち、原料のイノベーション、合成技術のイノベーション、サプライチェーンの構築、政策と評価・分析、エンドユーズの平易化、そして進捗状況の情報共有と支援体制の構築が必須であるとしています。
アンダックは次のように述べています。「SAFを推進するという政策はGEにとって大変重要なものです。発表された米国政府のロードマップは、今後の進むべき道を定めるうえで確かな指針となるでしょう。」
GCEAFフォーラムの全容は、こちらからご覧ください。