
Rio 2016 and Beyondーーオリンピック選手を支える医療機器…MRI、超音波、デジタルX線
リオ2016大会のポリクリニック(総合診療所)の秘密
オリンピックは、何千人もの超人的なアスリートたちによるスポーツの祭典であり、何億人もの人々がテレビに釘付けになりながら応援しています。そしてその選手たちの後ろには、彼らのパフォーマンスを最大限引き出すために、何百人もの医師、生理学者、マッサージ師、栄養士、コーチなどが彼らを支え、そしてまたそのスタッフの後ろにはオリンピック総合診療所(ポリクリニック)があります。
リオのポリクリニック外観
多目的医療センターでありながらオリンピックのために特化されたこの場所には、超音波診断機器、MRI、デジタルX線撮影装置、GEヘルスケアのデジタルソリューションなどの最新鋭の医療機器や医療システムが装備されています。
リオのポリクリニックに導入されているMRI
これらの最新技術の導入に加え、リオでは初めて、全アスリートの医療記録を電子カルテ (EMR)で記録しています。電子カルテの導入と、統合されたデジタルヘルスソリューションはとても画期的な技術進歩であり、アスリートのための迅速な診断と治療が可能になります。加えて、アスリートのオリンピックの医療ケアのために電子カルテを使用することにより、より的確なケアが可能になるでしょう。
GEはオリンピックのワールドワイド・パートナーであり、ポリクリニックで医用画像処理を行う機器を提供しています。これらの機器はオリンピック後には、ブラジル各地の病院に寄付されることになっています。GEはCentricity Practice Solutionシステムを使い、オリンピックのために新規の電子医療記録ネットワークも構築しました。
1984年のロサンゼルスオリンピックにて、ボート競技でイギリス代表として参加し、金メダルをとったスポーツ医学スペシャリストであるRichard Budgett博士は、1992年から繰り返し冬季・夏季オリンピックの医療分野で重要なポジションを担ってきました。2012年ロンドンオリンピックではチーフ・メディカル・オフィサーとなり、現在はIOCの医療&科学ディレクターを務めています。今年、そして今後のオリンピックの中での電子カルテを活用する重要さや、ポリクリニックの詳細について、Budgett博士にお聞きしました。
高画質スキャンと総合的な医療の提供
ポリクリニックは「オリンピックでの医療」において「王冠にはめられた宝石」ともいえる存在であると思います。選手村の中にある非常に大きい建物であり、アスリートやその家族が体調不良を感じたり故障したときはそちらにまず向かいます。手術が必要でない診療はすべてポリクリニックで行うことができ、その中でもセンター内の検査施設は、スピーディーで的確な診断を提供するのにとても重要な役割を担っています。オリンピックでは選手を故障や疲労から立ち直らせて試合に戻らせることが最優先とされているので、迅速な診断と治療のためにMRI、CT、X線や超音波などが駆使されています。
近年は、より洗練された施設へと進化を遂げ、私がチーフ・メディカル・オフィサーを務めた2012年ロンドンオリンピックでは、何千人ものアスリート達やその家族が利用し、頻繁に利用される施設となりました。最も重要なのがスポーツ医学の提供であり、現在は中心的存在となっています。スポーツ医学の医師とともに、生理学者、マッサージ師などが常時選手たちのためにスタンバイしていて、ほかにも整形外科や眼科、歯科などの専門分野からの医師、そして薬剤師も随時サポートできるように現場にいます。
施設内の雰囲気
国内外から優秀な医師達が自発的に集まり、最新鋭の技術や機器に囲まれ、知的活動がとても活発な環境となっています。そのような環境に囲まれることによって、医師達も新しい知識を蓄えることができ、医師自身も貴重な経験を積める場となっています。
超音波について
近年のスポーツ医学では運動器の診断において、超音波はとても重要な機器となっています。スポーツ医学の医師は、超音波を普通の医師が聴診器を使うのと同じように常時使用し、選手の筋肉・骨格の診察に活用しています。
GE製の超音波診断装置
超音波で診断しきれない場合は放射線科の専門医に相談し、MRIやCT、X線などのほかのモダリティーを使用します。このような機器はポリクリニックの中心となり、大変広く使われていると言えるでしょう。
ペイン・ポイント
スポーツによる怪我全体の統計を見てみると、最も多いのが膝の故障です。よって、画像診断においては必然的に膝の画像が多く見られます。スポーツによりますが、次に多いのが背中であり、昔ボート競技をしていた私にとっては、背中の痛みや故障は共感できるところです。やはりスポーツによって怪我の種類は違い、競技ごとに体の特定の部位を痛める可能性は高くなります。
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注: 2012年ロンドンオリンピックでは1,711の画像スキャン(X線、CT、MRI、超音波)がポリクリニックで行われ、655のスキャンがパラリンピックで行われた。最終的な統計では、最も多く診療された部位は膝であり(16.9%)、続けて脊椎(13.2%)と肩/鎖骨(7.7%)である。
一晩中の対応
ポリクリニックは、選手村がオープンした7月24日から、オリンピック閉会式の日まで週7日、一日24時間体制で診療しています。夜の11時以降は緊急のものだけ受け付けていますが、選手が11時以降に選手村に到着し、緊急診断と治療を必要とする場合は多々あるので、常に医師が待機しています。
オリンピックにおける医療の歴史
昔は診療内容が記録されることも少なく、されても医師の頭の中だけということが当たり前でした。医師によっては診断カードのようなものや、紙切れに書いていたこともあったかもしれません。当時私の担当医だったチームドクターはマメな人で、選手ごとに小さなカードのようなものに過去の大きな怪我や診断内容が簡単に書かれていました。よって、何かしらの記録はありましたが、とてもベーシックなものであり、引継ぎがなかったので、他の医師や生理学者に診てもらいに行くと、平行線をたどるような診断をされてしまうこともありました。選手自らが、前回の医師の診断や治療内容を口頭で伝える形でした。このように、過去の治療を考慮してそれをベースとした新しい治療を考えるという工程が存在せず、選手もコーチ達も、最善で最短の治療方法を見つけるのに苦労していました。
「繋がった」医療で金メダルを目指す
今回のオリンピックからは電子カルテが導入され、選手をケアする医師や生理学者達が個々人で診断・診療するのではなく、電子カルテを使い情報を共有して時系列分析をすることによって最良のケアをすることが出来るようになります。今後は個別の医師達が別々に同じ選手をケアするのではなく、ひとつのチームとして選手のケアをすることができるようになります。このチームには医師だけでなく、薬剤師、歯科医、整形外科医、放射線科医、マッサージ師、生理学者などと、多分野の人々が関わっています。アスリートが全分野の診療を受けてもすべてが電子カルテに記録され、その選手の過去の怪我から、どのような検査をいつどこで受けたか、そしてどのような治療を受けてその治療に対して体はどう反応したかまでもが一目で確認できます。これこそ素早くてシームレスな医療といえるでしょう。
スポーツ医療で働く医師にとって電子カルテは、孤立した環境であるがために招かれてしまう法医学的問題を回避するためにも大事なツールとなります。そして最終的には未来に向けた治療の改善を考慮するための統計データにもなります。
電子カルテが提供できる最も重要なポイントが、やはり時系列データの分析の可能性と長期的な観察でしょう。オリンピックなどの機会を利用して、どのようなアスリートではどのような故障や問題が表れるのかを調査することが出来るようになります。これは短期的にたけでなく、4年間を通して長期的にも大変重要な情報となるでしょう。我々はオリンピックのポリクリニックが導入しているCentricity Practice Solutionsのような電子カルテの重要性と必要性を、これを導入していない代表選手団や他の機関にも発信することによって、4年間の中でアスリート達の健康状態をモニタリングし、怪我や故障をしてしまう前に阻止することを目指しています。これがIOCの医療・科学委員会(IOC’s Medical and Scientific Commission)が目標とするスポーツ医療であり、GEとパートナーシップを組むことによって世界中の機関と代表選手団がアクセスできるものにしていきたいと思っています。
オリンピック中で最も重要なのは、的確かつ迅速な診断と治療であり、それに加え、世界中の人たちが納得できる最善の医療の提供をしなければなりません。そのような医療への確実な信頼があってこそサポートスタッフとアスリートたちは全力を出し切れることでしょう。もし「他の医者の意見を聞くべきだろうか?正しい治療法だろうか?」などという心配があると、選手の回復とパフォーマンスに多大な影響を与えてしまいます。よって、関係者全員が「これは最新鋭のMRIであり、最も信頼できる超音波検査機であり、これを使っている医師は世界で最も優秀な医師達だ」という信頼を得ることができた瞬間、アスリートたちは、自分たちの全力を発揮することができるのです。