
紅海でのデモンストレーション:COP27でGE製ガスタービンがアフリカで初めて水素混焼を実証
クリス・ヌーン
ことし11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)には世界中の政治家や大手電力会社の担当者が参加しましたが、そこで彼らの注目を集めたのがGE製LM6000エアロデリバティブ(航空機用エンジン転用型)ガスタービンでした。GEはこれまでに同ガスタービンを世界各地に1,300基納入し、4,000万時間以上の累計運転時間を記録しています。GEのジェットエンジンから生まれたLM6000は設置が容易である点が評価され、送配電網の迅速な容量増強を求める発展途上国で特に歓迎されています。
COP27での「エネルギー・デー」となった11月15日、エジプト電力公社(The Egyptian Electricity Holding Company:EEHC)の火力発電所で実施されたデモンストレーション・プロジェクトでは、天然ガスと水素との混合ガスでLM6000が稼働し、アフリカ大陸で初めて水素混焼による発電が行われました。
GEガスパワー 欧州・中東・アフリカプレジデント兼CEOを務めるジョセフ・アニスは次のように述べています。「世界中のガスタービンに数十億ドルが投資されていることを考えると、私たちは既存の発電設備を水素で稼働できるようにレトロフィット(後付け改修)できることを直接ご覧いただきたかったのです。」
クウェートからカイロ、そしてシャルム・エル・シェイクまで、3台のトラックがそれぞれ10本の水素ガスボンベを輸送しました。トップ画像:シャルム・エル・シェイク発電所の発電機ユニット1。画像提供:GE
世界のガス発電事業者が脱炭素化に取り組むなかでGEはそのサポートに様々な経験を積み重ねてきました。GEは世界のガス発電容量の半分以上に関与してきただけでなく、水素および水素を含む低炭素燃料で累計運転時間800万時間以上を積み上げています。水素はいまやあらゆる電力会社の脱炭素化計画において注目されています。例えば、ニューヨーク州電力公社(NYPA)が実施したLM6000を用いたパイロットプロジェクトでは、体積比5%から40%の水素混合燃料でCO2排出量を削減したという貴重な実績が得られました。また、2022年10月には米国エネルギー省からGEに660万ドルの助成金が供与され、GE製大型Fクラスタービンに対し水素を含む混合燃料で運転できるようにレトロフィットを実施し、将来的には100%水素での燃焼を目指す実証試験が進行中です。
アニスは次のように説明します。「水素をベースとする発電技術の開発が進むことは、GEのガスタービンがより低炭素の燃料でも稼働可能であるというポテンシャルを持つことを意味します。これは、発電量の変動が大きい再生可能エネルギー由来の電力を送配電網に接続する際にガスタービンがより低炭素で安定性の向上に寄与できることになります。さらに、より持続可能なエネルギーの未来に向けて移行する際に、ガスタービンが単なる橋渡しではなく最終的なテクノロジーであることを示しています。」
COP27が開催された会場から車で約15分のシャルム・エル・シェイク発電所は、GE製 LM6000ガスタービン6基が設置され、合計で最大288MWの定格出力を誇ります。今回のデモンストレーションは、エジプト電力公社、GE、ハッサン・アラム建設(Hassan Allam Construction)、Power Generation Engineering and Services Company SAE(以下PGESCO)により実施されました。
水素混焼が成功したことを確認するフィールドコア 中東・アフリカ社のモハメド・エルバヤド シニア テクニカル フィールドアドバイザー。モハメド・シェイカー・エル・マルカビ 博士閣下と GE Vernova CEOのスコット・ストラジックも写っています。
天然ガスに加え、LM6000ガスタービンはほかの液体燃料も燃焼できるため、発電事業者にとって燃料の柔軟性をもたらします。
今回の水素デモンストレーションでは、GEのエンジニアがLM6000に加えた改修はわずかでした。水素をより安全に天然ガスと混合してタービンに供給するために、燃料を供給・調整する鋼管の集合体であるブレンディングスキッドを特別に設計し、組み込んだのです。
エジプトが今後数年で水素社会への移行を加速する場合、燃料に柔軟に対応可能なこのタービンマシンにGEのエンジニアがさらに改修を行うことで、水素を80%以上含む混合燃料を燃焼することができるようになります。そうすれば、純粋な天然ガスを燃やす場合と比較して、タービンのCO2排出量を最大で60%削減することが可能となります。
アニスは次のようにも説明します。「シャルム・エル・シェイク発電所の6基のガスタービンすべてがベースロードモードで運転可能な最高レベルの水素で稼働した場合、毎年どれだけのCO2排出量が削減されるか想像してみてください。空想のお話ではありません。GEはすでに100基以上のタービンを水素混焼で運用し、世界中の送配電網に電力を供給しています。さらに、大型のBクラス、Eクラス、Fクラスのタービン・ファミリーでは最大混合比率100%の水素を燃焼可能とするテクノロジーも計画しています。」
シャルム・エル・シェイク発電所向けに開発された水素と天然ガスのブレンディング・ラック。
タービンの改修は、水素を巡るパズルのごく一部のピースに過ぎません。水素ガスの生産、貯蔵および輸送も、プロジェクトのパートナー企業にとって大きく立ちはだかる課題でした。水素は体積密度が低く可燃性であるため、ガス状態では密封するのが難しく、移動するのにも危険が伴います。そのため、GEは水素の貯蔵と輸送における技術力が評価されているPGESCOおよびハッサン・アラム社と提携しました。
ハッサン・アラム・ホールディング社CEOのハッサン・アラムは次のように述べています。「私たちのハッサン・アラム建設は電力業界で数十年の経験を持っており、エジプトの持続可能なエネルギーへの移行に参画するための確固たる地位を確保しています。水素と天然ガスの混合燃料プロジェクトにおいて、私たちは調達、建設、電気機械といった重要な分野を網羅し、包括的に貢献してきました。私たちは、グローバルかつ持続可能なプラットフォームの構築においてエジプトが果たす役割に期待し、ハッサン・アラム・ホールディンググループがキープレーヤーとして貢献できると考えています。」
PGESCOのCEOであるアーメド・ラマダンも次のように述べています。「このような画期的なプロジェクトの完成に参加できることを喜ばしく思います。アフリカとこの地域一帯のマイルストーンとなる今回のプロジェクトは、グローバルな協力関係を通じて、将来のエネルギー生成に水素混合燃料を利用する手法を明らかにし、環境にも大きなプラスの影響を与える可能性があります。」
今回のシャルム・エル・シェイク発電所のプロジェクトから得られる結果は、低炭素資源イニシアティブを通じて米国電力研究所(EPRI)でも分析され、共有される予定です。EPRIプレジデント兼CEOのアルシャド・マンスールは次のように説明します。「EPRIが関与することで、今回のプロジェクトにグローバルなコラボレーションという要素が加わる上、世界中の今後の水素混焼発電プロジェクトに知見を提供することができます。」
そして、今回のプロジェクトの真価は、すでに達成が可能となっていることは何か、さらに何が出来るのかを示すことにあります。
エジプト電力・再生可能エネルギー大臣であるモハメド・シェイカー・エル・マルカビ閣下は次のように述べました。「本日、COP27のエネルギー・デーにおいて、ここシャルム・エル・シェイクで水素混合燃料によるGE製LM6000ガスタービンの運転に成功したことを発表します。今回のプロジェクトにより、大きな夢と強い決意、そしてコミットメントに溢れるパートナーが集うことで何を成しえるか、世界中の人々が注目することでしょう。」