
ネットゼロに向けたレース:GE VernovaのHクラスタービンがドイツの石炭からガス、さらに水素への移行をどのように支援するのか
ウィル・パルマー
ドイツ南西部にある都市シュトゥットガルトにおいて、カール・ベンツが世界初の内燃機関で走行する自動車とされるベンツ・パテント・モトールヴァーゲン1号(Benz Patent-Motorwagen No.1)を製造したのは1880年代のことでした。現在、シュトゥットガルトはメルセデス・ベンツやポルシェといった自動車メーカーが本拠地を置く地として知られ、スピードという言葉はこの街の代名詞にもなっています。21世紀の産業界が抱える最大の課題のひとつである自動車産業において、ドイツが先頭に立って競争をリードしている拠点のひとつとしてシュトゥットガルトが挙げられるのは、これまでの経緯からみても当然のことと言えるでしょう。
2023年3月、欧州議会がEUのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの目標比率を2030年までに42.5%に引き上げると発表したとき、ドイツは既にその基準をはるかに超え、国内電力の50%以上を再生可能エネルギーで賄っていました。そして今年、温暖化を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標を支持しようと努めるドイツ政府は、2030年までに再エネ比率の目標値を65%から意欲的な80%に引き上げました。その背景にはドイツ北部では風力発電、南部では太陽光発電が急成長しており、ウクライナ紛争の中でガスへの依存度を下げると同時に、石炭からの急速なフェーズアウトを目指していることも挙げられます。またドイツは今年初めに、最後の原子力発電所を廃止しました。エネルギー転換に関しても、ドイツはまさにスピードの必要性を体現していると言えるでしょう。
このたび、ドイツがエネルギー転換でもスピードを重視するという最新の証左が、今後2年間の間に南ドイツ最大の発電会社の一社であるEnBWが所有するシュトゥットガルト郊外の2つの発電所、ハイルブロン発電所とアルトバッハ/ダイツィザウ発電所です。今回調印された契約では、これら2カ所の発電所で、石炭火力発電所がGE Vernova製9HA.01ガスタービンに置き換えられ、運転開始(現時点では2026年後半の予定)後は、2カ所合わせて最大1.34GWの発電容量を確保します。その電力はドイツの240万世帯に相当する需要を賄うのに十分な電力となり、CO2排出量が約60%削減され、水銀、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、粒子状物質の排出量も削減されます。
GE Vernovaのガス発電事業プロジェクト・ディレクターを務めるルネ・シェーテンライブは、「太陽光や風力でも発電は可能ですが、冬季には別の発電方法が必要になるため、これらの石炭発電所がCO2排出量の低い仕様に切り替えられることになったのです」と語ります。
上の画像:EnBWのアルトバッハ/ダイツィザウ発電所の燃料切り替えが完了した後の予想画像。トップ画像: 同じくシュトゥットガルト近郊のハイルブロン発電所の燃料切り替え後の予想画像。画像提供: EnBW Energie Baden-Württemberg AG/Rakete GmbH ミュンヘン
この2カ所の発電所が生み出すのは電力だけではありません。これまでの石炭発電ユニットには長い間地元の地域暖房システムに熱を供給してきたという経緯があります。その熱のニーズを満たすために、GE VernovaはSTF-D650蒸気タービン、W88発電機および熱回収蒸気発電機で構成されるコンバインドサイクル・セットアップを設置し、完成後の新たなガス発電所からの排熱を回収しハイルブロンとシュトゥットガルトの市民、商業、産業の暖房に利用する予定です。また、今回の契約には保守サービス契約も含まれており、GE Vernova Digitalのアセット・パフォーマンス・マネジメント(APM)ソフトウェアおよび統合されたMark VIe分散制御システムソフトウェアが今回の契約の一部となっています。そして、既存のコンクリート製の双曲面冷却塔の使用を含む両発電所のエンジニアリング、調達、建設、試運転は、イタリアのBonatti社とスペインのSENER社と協力して実施されます。
GE Vernovaのコンソーシアム・プロジェクト・マネージャーであるステファン・マフは次のように語ります。「ドイツ政府の上層部は、2026年6月に石炭火力発電所を停止するとハイルブロンで正式に発表しました。私たちは、冬の間のエネルギー供給に間に合わせるため、その年の6月というタイミングでガス発電に切り替わる発電所を稼働させる計画を立てたのです。」
水素という高みを目指して
F1のレース車両の燃料システムがアップグレードするたびにパフォーマンスが向上するのと同じように、EnBWの2カ所の発電所は、今後10年間で燃料をカーボンフリーな燃料である水素に移行するよう、エンジニアリングも進められる予定です。現在のヨーロッパでは水素の供給が限定されているものの、今後さらにドイツで風力発電と太陽光発電施設の増強が続けば、最終的には風の強い日や晴れた日にそれらの方法で発電された電力が余剰になると見込まれているからです。結果的にそうした電力は「グリーン」水素の生成に活用が可能な上、水素パイプラインに貯蔵して今回導入が決定した9HA.01ガスタービンの運転にも利用できるようになります、とシェーテンライブは説明します。
マフは次のように説明します。「今回の契約は、現時点では石炭から天然ガスへ発電用燃料を切り替えるという話が前面に出ています。ですが、今回GE Vernovaが選定されるにあたっては、商業運転予定日に、水素と天然ガスの混合燃料での運転も可能な機器を揃える能力がある点も評価されたのです。2026年後半の運転開始を経て2030年から2035年の間にCO2ニュートラルにすること、それがEnBWの目標なのですから。」その後も9HA.01をアップグレードすれば、100%水素燃焼に対応させることもできます。そうなればもう、レースでいえばチェッカーフラッグが振られたも同然ということになるでしょう。
これほどの規模の契約を調印することは、一夜で起こることではありません。「提案書を提出してそれで終わり、あとは結果が出るまで静観、というわけではありませんでした。このような大規模なプロジェクトでは、その後も継続的な対話と情報交換が必須です」とシェーテンライブは語ります。
彼はさらに次のように説明します。「加えて今回の契約は、いかにカスタマイズし、フィットさせられるかということも重要でした。お客様には求める要件があり、フレームワークがあり、『あれもこれも、さらにそれも必要なのだが、それらを解決するソリューションは何ですか?』という質問が続くわけです。それで、たとえば、蒸気タービンの場合、『はい、これとこのの機器が用意できますが、発電所の改修目的に適合させる必要があるので、このように当社は対応可能です』という具合にお答えするわけです。このようにカスタマイズして状況に適応できるGE Vernovaの総合力が、EnBWが最終的に当社を選んだきっかけのベースとなりました。」
マフはさらに次のように続けました。「GE Vernovaは、まさに燃料切り替えのフロントランナーとして前進しようと尽力しています。それも真にサステナブルなエネルギー転換を推進しようとしています。EnBWはパイオニアであり、ドイツでも積極的に前進している企業であり、これらの目標を達成するために多額の投資を実施する明確な意思がある企業でもあります。」
EUの他の国々について、マフは次のように語ります。「ドイツは引き続き自らの道を切り拓いて行くと思います。そして他の国々も追随を余儀なくされると思います。なぜなら他に選択肢はないからです。」