
パワーアップ!:シンガポールの歴史あるタービン修理工場がグローバルな拠点へと進化
クリス・ヌーン
シンガポールの西端には大きな造船所がありました。ここはインド洋と南シナ海の深いターコイズブルーの海で働くタグボートや掘削船を対象に1970年代に操業を始めましたが、この施設が地域密着の修理工場であった時代は終わりを告げました。というのも、この場所はGEのグローバル・リペア・ソリューションズ・シンガポール(以下GRSS)となったからです。そして、大型ガスタービンとして世界的に急速に普及拡大しつつあるHクラスの大型ガスタービンの主要コンポーネントを修理するためのグローバルなハブ拠点である「センター・オブ・エクセレンス」に格上げされました。
4年前、GEはGRSSに対して、より高度なガスタービン修理の設備を整えるべく6,000万ドルの投資を行う計画を発表しました。そして今、GEは同サービスセンターの技術的な専門知識のレベルをさらに高め、GEガスパワーによる高性能なHAガスタービンの重要コンポーネントを修理する機能も備えるに至りました。同センターがこうした新たな修理機能を獲得したことはアジアにおけるガス火力発電への需要の高まりを象徴するものとなります。近年、高効率なHAガスタービンの需要を主導してきたアジアの電力会社にとって、新たな修理機能を獲得したリペア・サービスセンターはゲームチェンジャーとしての存在感をさらに高めると同時に「世界中で電気をより利用しやすくする」というGEが掲げる意欲的な目標への新たなステップともなります。
新たな修理機能を獲得したことにより、HAのローター(高速で回転するシャフト。タービンの燃焼部に空気を吸い込み、発電機を回転させる)の修理が必要な場合でも、お客様は北米や欧州のGE専門工場に移送することはもはや不要となりました。新たにシンガポールでの修理作業が可能になることのメリットは、修理サイクルを2カ月も短縮できることです。つまり、アジアのお客様は数千メガワット時の発電量と数百万ドルの収益機会を無駄にすることなく、その上、ローター修理に伴うCO2排出量を大幅に削減することもできます。スペインのサン・セバスティアンを本拠地とするGEのサプライチェーン開発担当エグゼクティブであるモーガン・テリルは次のように述べています。「これにより、アジアのお客様が抱える修理のための停止期間をサポートし、リードタイムと納期の大幅な短縮を含め、大きな改善をもたらします。」
ボアスコープを使ってHクラスガスタービンの内部を点検する技術者。画像提供:GEガスパワー
GRSSの新たな修理機能を活用し、GEは極東アジア域内で修理が完結することを目指します。今回の増強で極東アジアのエンジニアはGEの大型ガスタービンーファミリー向けの修理作業の最大90%を域内で実施することが可能な上、1つのコンポーネントも、さらには一人の従業員をもアジアの外に送り出すことなく完結できるようになりました。それだけでなく、増強されたGRSSが担当するお客様は、米国を除く世界の約60%の地域にわたるため、グローバルな舞台でも力を発揮することになります。GRSSはサウスカロライナ州グリーンビル、サウジアラビアのダンマーム、フランスのベルフォールといったGEの大型ガスタービン修理を担う各地のグローバルセンター・オブ・エクセレンスと肩を並べるリペアセンターに昇格したのです。肩を並べるということはイノベーション、知識の共有、標準の設定といった共有事項が、これまでは受け取るだけの一方通行だったのが、今では他地域のグローバルセンターと双方向で進められるようになったということを意味します。
テリルは次のように説明します。「以前は、サウスカロライナ州のグリーンビルですべての修理技術を開発するという体制でした。それに対し、今はクロス・コラボレーションを実践しています。つまりシンガポールは、自分たちの開発アイデアをグリーンビルとも幅広く共有し、貢献する立場になったのです。」
いかにフロアスペースを拡張したか
GRSSをセンター・オブ・エクセレンスに格上げするにあたっては様々な準備作業が伴いました。GEの経営陣がまず手掛けたこと、それはGRSSに100トンのHAローターを修理するためのフロアスペースを確保することでした。そのために必要だったのは、アジア各地に点在する大型タービンの修理拠点の整理統合でした。その際に優先されたポイントの一つが、GEの主力製品であるBクラスとEクラスタービンの大規模修理のための新たな拠点探しです。そのソリューションとして白羽の矢が立ったのが、インドネシアのバンドンにあるPT GE Nusantara Turbine Service(以下PT GENTS)の拡張でした。テリルは次のように説明します。「この決定により、東南アジアのインドネシアがエネルギーマップにしっかりと載ることになりました。それまで回転する部分以外の部品の修理しか担っていなかったPT GENTSにとって、これは素晴らしいニュースでした。PT GENTSは、今ではGEからガスタービンフリート全機種の回転部品修理のための投資とトレーニングを受けることになります。」
次にGRSSチームはリーン方式マネジメントを活用しました。リーン方式はGEガスパワーの変革の中心であり、持続的な恩恵とそれに付随する改善が得られるシステムで、新時代のHAガスタービン修理を可能な限り安全かつ効率的に実施できるよう支援するものです。かつてのGRSSの修理工場フロアは、だだっ広い空間にさまざまなプラットフォームや作業台があちこちに配置されているだけでした。重たいパーツを天井クレーンで吊り上げたら、従業員がワークステーションの間を行き来し、手作業でパーツを所定の位置に誘導して修理を進めていました。テリルは次のように説明します。「エルゴノミクス的にやや健全さに欠ける作業場でした。あるスペースから別のスペースへと何度も行き来するため、従業員たちは一日の勤務時間中に非常に長い距離を歩くことを余儀なくされていたのです。」
そこで従業員らはカイゼンイベントを開催し、そこでさまざまなワークステーションや作業台を、クラシックではあるもののリーンな設計であるU字型コンベアベルトに配置し直すことにしました。再配置後、修理の工程が進むにつれて、ベルトコンベアの上に載せればあとはパーツが自動的に所定の位置に移動するようになったとテリルは指摘します。また、特殊な空気圧エレベータを導入してコンポーネントを昇降できるようになったため、体力を浪費する手作業への依存度も減らせるようになりました。
トップ画像、上画像、および下画像: GEのグローバル・リペア・ソリューションズ・シンガポール(GRSS)。画像提供:GEガスパワー
カイゼンを施すことで、担当チームはFクラスファミリーのタービン修理に伴うすべての手作業による持ち上げ作業をわずか数週間で廃止し、ワークステーション間の総移動距離をひと月あたり数百km短縮することに成功しました。彼らは同様なリーン手法をHAガスタービン製品群にも実践する予定です。
このように継続的なカイゼンの文化はGRSSでも受け継がれています。さらなる改善として、修理ラインの工程を最適化するためのアイデアを技術者が共有できる「カイゼン推進室」がフロアに開設されました。また、リーン方式を用いたベルトコンベアに隣接してAMRT(Advanced Manufacturing & Repair Technology)センターも置かれ、リアルタイムのオペレーションをエンジニアが最前列で観察できるようにしました。「改善すべき点を見つけたら、ラインに出てすぐ微調整することができるのです」とテリルは説明します。
GRSSのエンジニア自身もあらゆるノウハウを備えることが求められます。ガスタービン高温部品の修理のみならずローターの修理も担当するということは、エンジニアとして大きな飛躍を遂げなければなりません。GRSSのエンジニアは最近、ガスタービン高温部品の100件目の修理と納入を完了しました。シンガポールを本拠地とするGEガスパワーのサプライチェーン担当プログラムマネージャー、ジェイソン・ゴーは、ガスタービン高温部品の修理を「かなり定期的に」スケジュールされている修理と表現します。たとえばモジュールの燃焼ライナー、ノズル、バケットは1,300℃を超える高温に頻繁にさらされるため、劣化は避けられません。そのため電力会社は通常、予備のガスタービン高温部品を用意しておき、修理を要請した部品の返却を待つ間もタービンを停止させる必要がありません。
ところが、ローターの場合は予備のコンポーネントを保管するだけでは足りず、修理は全く違う次元で対応する必要があります。ローターに不具合があるとタービンの性能に重大な影響を及ぼすだけでなく、たとえば数年間問題を抱えたままローターを運転し続けると、修復が困難なほど重大な故障に至る可能性もあるからです。ローターを取り外してしっかりとした修理を施すことが、電力会社の重要な資産として再び稼働させるために重要なのです。
GRSSはまた、シンガポールが国を挙げてビジネスを支えるという固い意志の証ともなりました。シンガポールをビジネスと研究開発のグローバルなハブを担う島にする、という目標を掲げる同国の経済開発庁はGRSSの増強に尽力を惜しまなかったとテリルは語ります。
一方、GRSS自身の学習曲線は急成長を描きつつあります。GEガスパワーは26年前にHクラスのテクノロジーを業界に導入したものの、HAクラスの実際の登場は2014年であるため、ガスタービンとしては比較的若いタービンです(Hは「高効率」、Aは「空冷」という意味です)。ゴーは次のように説明します。「150基近くを販売し、80基以上が商業運転中で、累計運転時間180万時間以上の実績と共にGEはHAクラスのガスタービンの知見をさらに積み上げ続けています。そのうえで、さらにお客様の期待に応えられるようなソリューションを提供し続けられるよう、さらなる準備も進めています。」