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ポータブル・オアシス:GEが空気中から水を抽出するデバイスの共同開発を計画

クリス・ヌーン

敵と戦うことはすべての米陸軍兵士の任務ですが、世界中の紛争地帯で任務を遂行する部隊には向き合わなくてならない相手がもう一つあります。喉の渇きです。この難題を克服するため、GEリサーチの科学者と米国の大学研究者が力を合わせています。彼らは冷蔵庫サイズのデバイスを研究中で、最終的には空気中から1日あたり数百リットルもの飲用水を作り出すことを目指しています。

この「AIR2WATERプロジェクト」は4年がかりで行われる予定です。アメリカ国防高等研究計画局(DARPA:国防総省が管轄)による大気水抽出(Atmospheric Water Extraction: AWE)プログラムの一環であり、野営地の部隊に飲料水を輸送する際のリスク軽減が主な目標となります。さらに、この技術の応用開発を進めることで将来的には世界中の水不足に対処できると考えられます。

現在も米陸軍は通常、ガロン(約3.785リットル)単位のボトル入り飲料水を野営地の部隊に軍用トラックで大量に輸送しています。これは事実上のパイプラインですが、狭い道路や荒れ地の中をくねくねと曲がりながら輸送することも多いため、その行程は世界で最も危険に満ちたサプライチェーンの一つになっています。「この輸送隊列は敵戦闘員の恰好の標的になります」と述べるのはニューヨーク州ニスカユナにあるGEリサーチ(GE Research)の材料物理学および化学部門の主任研究員兼技術マネージャーを務めるデビッド・ムーア(David Moore)です。イラクとアフガニスタンにおける米陸軍死傷者の10〜12%は飲用水と燃料の輸送任務に携わっていた人員でした。

さらに、その輸送プロセスにもコストがかかります。「このボトル入り飲料水には家庭の蛇口から出てくる水の何千倍もの費用がかかります」とムーアは言います。これにより、すでに米国防総省予算の3分の1を占める物資補給コストがさらに上積みされることになるのです。

GEリサーチの科学者は米国の大学と提携し、空気中から飲料水を抽出することを目指すデバイスの研究をしています。プロジェクトでは、アディティブ・マニュファクチャリング(3Dプリンティング)などの高度な技術も活用されます。 GIF画像提供:カリフォルニア大学バークレー校。画像提供:GEリサーチ。


AIR2WATERとは「Additively Manufactured, Integrated Reservoir to Extract Water Using Adsorbents and Thermally-Enhanced Recovery」の頭文字から生まれたプロジェクト名で、材料科学、3Dプリンティングおよびその他の最新かつ高度な技術を組み合わせて開発されます。GEリサーチは、カリフォルニア大学バークレー校、サウスアラバマ大学の科学者やエンジニア、シカゴ大学の人工知能(AI)の専門家と共同で開発を進めます。目標は、地球の大気と電源だけで水を抽出することができるようになることです。

プロジェクト完了時には、このデバイスが3分で約1リットル、1日では約500リットルの水を供給できることが期待されています。つまり、150人の兵士に十分な量の飲用水を抽出できることになります。

コンセプトイメージを見ると、デバイスは持ち運び用の担ぎ棒が付いた小型冷蔵庫に似ており、兵士4人で軍用トラックからの積み降ろしが可能です。また、大気中から水分を絞り出すために高密度の金属スポンジと熱交換器を組み込むデザインになっています。

電源が入るとこの金属スポンジは空気を吸い込み、熱交換器は水蒸気を凝結します。この水蒸気を凝縮した水には浮遊物質が含まれておらず清潔なため、すぐに飲用できます。

そして、AIR2WATERは相対湿度が5〜10%の場所でも機能することが求められるとムーアは言います。因みにニューヨーク州の相対湿度は60%前後です。空気が乾燥した環境でも機能させるため、科学者はスポンジの表面積を増やす設計にしました。また3Dプリンティング技術を活用して、非常に少ない水でも熱交換器を効率的に動作させる一方、電力を大量消費するポンプを使用しないことも目指しています。

ムーアはまだ研究は初期段階だと言います。彼は米国防総省(DOD)の技術成熟度(TRL)スケールを用いて「私たちは9段階あるTRLのうちの1-2にいます」と説明します。ですが、GEリサーチはチームに厚い信頼を寄せています。バークレー校は金属スポンジ用の吸着剤の開発を担当し、オマール・ヤギー(Omar Yaghi)化学教授が指揮を執ります。グラント・グラバー(Grant Glover)教授が率いるサウスアラバマ大では、物質移動をモデル化し吸着速度の測定を担当します。ラウラ・ガグリアルディ(Laura Gagliardi)教授が率いるシカゴ大学のAI専門家チームは、AIに基づく分子スクリーニングツールを活用してよりふさわしい材料を開発することに貢献します。

ムーアは言います。「これは本当に分野横断的なプログラムです。材料、デジタル、アディティブ・マニュファクチャリング、AIに加え、熱科学、機械設計と様々な専門分野のチームメンバーが揃っています。これは、私たちGEリサーチの業務の一端をよく表しています。」

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