
米国連邦議会議事録から: GE Aerospace、ゲームチェンジャーとなる次世代技術開発について証言
チェルシー・リヴィングストン
3月末に開催された米国議会上院商務・科学・運輸委員会において、GE Aerospaceのアドバンスドテクノロジー担当ゼネラルマネージャーを務めるアルヤン・ヘーゲマンは次のように発言しました。「航空宇宙エンジニアとしての私の25年間のキャリアの中で、今ほどエキサイティングな時期はありません。」今回の公聴会は「次世代航空技術の推進」をテーマとしており、2023年米国連邦航空局(FAA)再授権法案(注1)に対する上院での審議の一環として開催されました。ヘーゲマンはさらに続けました。「イノベーションに満ちたこの時代こそ、NASAやFAAのような連邦機関との継続的なコラボレーションが不可欠なのです。」(公聴会の全容はこちらをご覧ください(英語のみ))
注1:FAA再授権法は、FAAの予算の大枠やプログラムなどを議会が承認(reauthorization:再授権)する法律。前回の法案は2018年10月に成立し、期限は2023年末まで。
現在、GE Aerospaceは100年以上の歴史においても幅広い内容をもつ技術開発ロードマップを進めています。2020年代に予定されている複数の地上および飛行試験を通じて、2030年代半ば以降のサービス開始を目指す次世代旅客機エンジンで使用するための新たなブレークスルー テクノロジーを模索しています。
アルヤン・ヘーゲマン。 トップ画像:2022年、GEは100%SAFを使用したPassport長距離ビジネスジェットエンジンの地上試験に成功しました。画像提供: GE Aerospace。 動画提供:GE Aerospace
今後数年間でテストスタンド、地上試験、飛行試験で実証される技術を挙げると、オープンローターエンジンなどの先進的なエンジンアーキテクチャ、ハイブリッド電気推進用航空機エンジンシステム、エンジンコアをコンパクトにするための新しい設計などがあります。これらはロードマップ全体のほんの一部に過ぎませんが、いずれも注目すべき重要なプログラムとなっています。
また、GE Aerospaceはこれらの技術をフライトレディネス(飛行準備が整っていること)や新製品に向けてさらに成熟度を高めることに加え、持続可能な航空燃料(以下SAF)や水素などの代替燃料の使用と入手可能性を高める取り組みも支援しています。
革新的なテクノロジーと代替燃料は、どちらも2050年までに商業運航時のCO2排出量ネットゼロを達成するという、航空業界の長期的な目標を達成する上で重要な役割を果たします。
ここからは、ネットゼロに向けてGEが尽力する最先端のイノベーションの数々と、業界をリードする注目すべき取り組みについてご紹介します。
オープンローターエンジンとCFM RISEプログラム
ヘーゲマンをはじめとするGE Aerospaceのエンジニアリングリーダーたちは、今こそオープンローターエンジンの時代が到来したと確信しています。その理由としては、1980年代にGEが初めてファン・ダクトを廃止しアンダクテッド(Unducted)化したエンジンでのテストフライトを実施して以来、オープンローターエンジンという、よりシンプルで軽量化された設計が可能になったからです。その例としてはシングルステージ ローテーティング炭素繊維複合材製ファンブレードや固定式のアウトレットガイドベーンなどが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
オープンローターという設計は、GEとフランスのサフラン・エアクラフト・エンジンズが50:50で共同出資している合弁会社、CFMインターナショナルが、CFM RISEプログラムを通じて探求している先進的エンジンアーキテクチャの一つです。それぞれ親会社であるGEとサフラン・エアクラフト・エンジンは2021年6月、従来のジェット燃料を使うジェットエンジンの中で現在最も高効率なタイプのエンジンと比較しても、燃料消費量を少なくとも20%低減し、CO2排出量も20%削減することを目指すRISEプログラムを発表しました。RISEプログラムにおいてさらに成熟度を増したテクノロジーの数々は次世代CFMエンジンの基盤となり、2030年代半ばまでに運用可能となる見込みです。最先端の推進効率性こそがこのプログラムの中核なのです。
より電動化が進む「新しい空の旅」
2021年9月にNASAが電動パワートレイン飛行実証(EPFD: Electrified Powertrain Flight Demonstration)プログラムのパートナーにGE Aerospaceを選定したと発表する以前から、GEは10年以上にわたって航空機やエンジンシステムの電動化を推進してきました。その間、GEのエンジニアは電気モーターや発電機、パワーコンバーターなど、ハイブリッド電気推進システムを構成する各コンポーネントのさらなる成熟度を高めてきました。
そして今、ジェットエンジンメーカーであり航空機システム会社でもあるGEは、電動化にともない統合化された機器の製造について各ラボで得られた研究の成果をさらに磨き、2020年代半ばに予定されている地上試験および飛行試験に向けた準備をすすめています。
さらにGE Aerospaceは、総額2億6千万ドルが投じられるNASAのプログラムを通じてメガワット級ハイブリッド電気推進エンジンの成熟度を高める一方、テストベッド機として改修した「サーブ340B」とGE製CT7ターボプロップエンジンを使い、ナローボディ機のフライトレディネスを実証します。GEはこのプログラムの飛行試験をサポートするボーイングと提携し、また、エネルギー管理コンポーネントの設計、試験、供給を担うパートナーとして英国のBAEシステムズ社を選定しました。
エンジンコアを小さく、効率はより高く
CFM RISEプログラムで研究されている実現技術(注2)の一つに、コンパクトなエンジンコアがあります。前述したものとは別の、2021年後半に発表されたNASAとのプログラム(数百万ドル規模)で、GE Aerospaceは熱効率を向上させるためのコンプレッサー、燃焼器、高圧タービン技術などの新しいジェットエンジンコア設計をテストし、成熟度を高める契約を締結しました。また、先進的な耐熱材であるセラミックマトリックス複合材(CMC)の開発がさらに進んだことで、CMCは燃料効率の改善と、CO2排出量の更なる削減を進めるうえでカギになります。GE Aerospaceは、この技術の地上試験を2020年代後半に見込んでいます。
注2:enabling technology:イネーブリング・テクノロジーまたは実現技術とも言われる。ある課題解決を可能にする技術を指す。
SAFを使った数多くの「ファースト」となった実証フライト
GE Aerospaceは10年以上にわたり、SAFを用いた飛行実証実験を何度も実施してきました。その中には、2008年にGE製CF6エンジンを搭載したヴァージンアトランティック航空がボーイング747で行った業界初のバイオディーゼル燃料を用いた商業デモンストレーション飛行があります。2018年には、フェデックス・エクスプレスが保有するボーイング777をエコデモンストレーター実験機として使用し、搭載したGE90エンジン2基とも100%SAFを使用する初の旅客機によるフライトを実現しました。さらに2021年には、ユナイテッド航空が保有するボーイング737MAX8のフライトで、搭載されたCFMインターナショナル製LEAP-1Bエンジン*2基のうちの片側1基が100%SAFを用いて運航され、同便は初の旅客が搭乗した100%SAFデモンストレーション飛行となりました。同じ年には、中東で初めて2基のエンジンのうちの片側1基で100%SAFを用いたデモンストレーション飛行も実施しました。
GE AerospaceとCFMインターナショナルの現行エンジンはすべて、植物由来の原料や油脂、グリース油、アルコール、処理済み廃棄物、回収したCO2、およびその他の代替原料から抽出することが可能な、認証済みSAF混合燃料で運用することができます。また、SAFは現在最も一般的に使用されているジェット燃料と同じ化学組成を持っています。大きく違う点は、SAFは化石燃料から作られるのではなく、より再生可能な資源から作られる点です。そのため、代替原料や代替プロセスを投入することで、化石燃料と比較した場合、生産、処理および流通における燃料のライフサイクル中のCO2排出量を削減することが可能なのです。
さらに、現在認証済みのSAFはすべてドロップイン(drop-in)対応となっています。従来のジェット燃料と簡単に代替できるため、航空機の装備や燃料補給インフラに改修を加えることなく使用可能なことも利点となります。
GE Aerospaceシニアカスタマーサポートマネージャーのジーナ・チャクトゥーラは次のように説明します。「私たちは非常に明確で、かつ非常に意欲的な目標を持っています。とりわけ、今すでにある技術を活用しながら『新しい空の旅』をつくることで、SAFと脱炭素化全般を推し進めることに関しては、私たちは業界のリーダーなのです。」
水素燃焼のパイオニア
2022年2月、CFMインターナショナル社とエアバス社が共同で水素実証プログラムに取り組むことが明らかにされました。このパートナーシップの実現には、GEが陸上で培った発電用ガスタービンにおける水素燃料の実績が一役買いました。というのも、GEは航空機エンジン転用型ガスタービンを含め、水素を混合した燃料で800万時間以上の稼働実績を積み上げているからです。
そして、2020年代半ばに実施が予定されている水素燃焼エンジンによる飛行試験では、CFMのRISEプログラムとエアバスのZEROeプログラムの両技術が組み合わされます。
このパートナーシップでは、CFMはGE製Passportターボファンエンジンの燃焼器や燃料システム、制御システムが水素で稼働するように改良します。Passportエンジンが選定された理由は、エンジンの物理的なサイズ、高度なターボ機能、そして燃料フロー容量が適していたことが挙げられます。改修されたエンジンはフライングテストベッド機の胴体後部に取り付けられます。この位置に搭載することで、水素エンジンからの排ガスや排出物を、テストベッド機のエンジンの排ガスと区別して検証できるようになります。CFMは、A380の飛行試験に先立ち、大規模な地上試験プログラムも実施する予定です。
GE Aerospaceのエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるモハメド・アリは次のように述べています。「私たちが改良したエンジンを飛ばすのは、その可能性を見極め、技術を証明するためです。水素の方が難しいかと聞かれたら、はいと答えますが、水素を使った飛行は可能ですかと問われれば、もちろん可能ですと答えます。私たちが膨大な経験値を積み上げ、様々な課題に対処するための発明をすでに行ってきたことを、とても心強く感じています。」
* LEAPエンジンはGEとサフラン・エアクラフト・エンジンが50:50で共同出資している合弁会社、CFMインターナショナルの製品です。