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地下からのメッセージ:GEが各社の技術者をまとめ、CCUSの新しいルール作りへ

クリス・ヌーン

エネルギー転換を進めるうえで天然ガス火力発電プラントが欠かせないことは良く知られています。というのも、再生可能エネルギー由来の電力をより多く送配電網に送りこむ際、天然ガス火力発電所のサポートが必要だからです。つまり、天然ガス発電所は数百MWのベースロード電源として、他の火力発電より少ないCO2排出量で確実に発電し、天候に左右されやすい再生可能エネルギーの不安定性に対応して出力を迅速に調整することができるからです。

このように、天然ガスは数々の利点がありますが、石炭よりはるかに少ないとはいえCO2を排出する化石燃料であることも確かです。世界最先端のガスタービンを製造するGEガスパワーも各国政府や地方自治体、パートナー企業、そしてお客様と協力しながら、現在地球上の電力の25%近くを生み出しているガス火力発電所の脱炭素化を進める新しい手法を探っています。しかも、再生可能エネルギー発電の利用増加に対応したり、石炭火力発電に頼る国々のエネルギー転換を推進するために、ガス火力発電が全体に占める割合は変動しながらも今後10年間でさらに増加すると予想されています。

そこで、私たちがとるべき方法の一つが、既存の天然ガス火力発電所にCO2回収・利用・貯留(carbon capture, utilization and storage、以下CCUS)の機能を組み込むことです。これは、空気中に排出されるCO2を回収し、地中に安全に閉じ込めるか、石油や合成素材などさまざまな製品の製造に再利用しようというものです。しかし、CCUS関連技術の大規模な導入が進まないのは、多くの個別プロジェクトが採算性にとぼしいことが主な理由です。そこでGEは、他社や各ステークホルダーとも協働し、こうした状況を変えるべく取り組んでいます。

その一例が米国エネルギー省との協力です。同省は、既存の天然ガス火力発電所にCCUSを組み込む技術を新たに検証する意向を示しています。同省はこの度、天然ガス発電所が排出するCO2を最大95%削減しながらCCUSのコスト削減方法を探るGE主導の研究に577万ドルの助成金を供与することになりました。この研究ではGEおよびサザンカンパニー(Southern Company)、リンデ・エンジニアリング(Linde Engineering)、ビーエーエスエフ(BASF)、キーウィット(Kiewit)の各社のエンジニアたちが、アラバマ州のジェームス・M・バリー(James M. Barry)火力発電所に集まり、CCUSプロジェクトのエンジニアリング、コスト、およびシステムの組み込みについて18カ月間の研究を実施する予定です。

ジェームス・M・バリー発電所はサザンカンパニー社の子会社であるアラバマパワー社(Alabama Power)が運営する発電所で、GEガスパワーの7F.04ガスタービンが2基設置されています。エネルギー省が目指すのは、バイデン・ハリス政権が掲げる2050年までにCO2排出量ネットゼロを実現し、その間、2035年までの電力部門の100%脱炭素化のという目標を達成することです。GEガスパワーのCO2回収ソリューション担当ゼネラルマネージャーを務めるパラッグ・クルカルニ(Parag Kulkarni)は次のように述べています。「CCUSは、世界各国の政府やお客様が掲げるネットゼロ目標や脱炭素化公約を達成するために、化石燃料ベースの発電所からの(温室効果ガス)排出を短・中期的に抑制するのに不可欠です。」

カーボンキャプチャーのロードマップ

今回既存・新設いずれのガス火力発電所でも活用できるカーボンキャプチャーの研究は、エネルギー産業界におけるロードマップとなるでしょう。GEの7Fタービン群は、北米で最も多く採用されているガスタービンです。また、全世界では約1500基のFクラスタービンが稼働しており、1日あたり最大約280GWhを発電しています。そして、エンジニアたちは今回のプロジェクトと同じ手法を使ってGE製の他のタービンにもCCUSに対応する改修(レトロフィット)を実施できる可能性があります。GEでDOE FEED研究(※)の主任研究員を務めるジョン・ショールズ(John Sholes)は次のように説明しています。「私たちのアプローチは、最もコンパクトな航空機エンジン転用型ガスタービンからB、Eクラス、最新のHA型シリーズまで応用が可能です。」

(※:米国エネルギー省(DOE)が主導するフロントエンド・エンジニアリング・デザイン(FEED)研究。石炭火力およびガス火力発電プラントにおけるカーボンキャプチャー技術の研究に資金を提供)

今回のバリー発電所プロジェクトにおいて、GEは各社から集まったエンジニアたちを取りまとめることになります。リンデ社は燃焼後アミンベースのカーボンキャプチャープロセスの豊富な知見を有し、BASFは大規模施設向けに特化した燃焼後回収(PCC:post-combustion capture)技術として開発されたOASE® blueテクノロジーを提供します。この技術系大手両社は、以前にもカーボンキャプチャープロジェクトで提携したことがあります。一方で、キーウィット社はエンジニアリング関連の調達および建設の知見を提供します。そしてすべての点を線で結び合わせ、バリー発電所で一本のCCUSソリューションにまとめ上げる役割をGEが担います。

以上が、発電事業者や行政機関の担当者が今回のバリー発電所のプロジェクトを注意深く見守っている理由です。これまでの研究では、天然ガス発電所にカーボンキャプチャー技術を後から付け加えて設置することにフォーカスを当てており、いわば「ボルトオン」型戦略がとられてきました。しかしながら、今回のプロジェクトでは、ガスタービン、排熱回収ボイラー、蒸気タービン、プラント制御装置などの幅広いコンポーネントもカーボンキャプチャー設備として組み込み、当初から統合した開発手法を採る予定です。「バリー・プロジェクトは、ガス発電所の今後の運営方法を根本から変えるものになるでしょう。後付けではないので、今回のCCUSプロジェクトが成功するためには、はじめから発電所を包括的に開発する必要があるのです」とショールズは語ります。

このように、発電所とカーボンキャプチャー技術の一体化を実現するために、GEが率いる各社連合のチームは、詳細な設計図と業務運用指示書からなるフロントエンド・エンジニアリング・デザイン(FEED:front-end engineering design)を用いた研究に取り組むことになります。こうした手法では、天然ガスやコンバインドサイクル型プラントエンジニアリング、機器のオペレーション能力、発電プラントの統合的マネジメントというGEの強みが発揮されます。GEは、今後もガス発電所とCCUS技術の一体化という需要が世界的に強まると見込んでいます。その一環として、英国の産業拠点であるティーサイドで提案されている、ガス火力発電所でのカーボンキャプチャーに関する別のFEED研究でも、テクニップ エナジー社(Technip Energies)と協働しています。

CCUSと完全に一体化しながら開発されたガス発電所では、設備投資、運転費用、設置面積、操作性への影響をできるだけ抑えながら、より効率よく温室効果ガスを回収することができます。エネルギー省が助成金を供与した過去の実地調査では、ガス火力発電所のCO2排出の約90%を回収したのですが、ショールズは次のように説明します。「GEのエンジニア陣はより上の数値である95%の達成を目指しています。バリー発電所では年間60万トン以上のCO2排出量を削減することになるのですが、これはすごいことです。なぜなら年間13万台以上の自動車が排出するCO2を削減することに相当するのですから。」

このアプローチは消費者にもメリットがありますし、発電事業者がCCUS関連設備を発電所に設置する際のモデルケースにもなりえます。炭素税の有無や炭素クレジット購入の必要性、あるいはこれらの制度に太刀打ちできる電力料金の設定といった市場要因にもよりますが、CO2排出量が削減されれば、発電事業者は炭素クレジット購入の回避が可能となるほか、炭素税の課税額も減り、他社のガス火力発電所と比較されても卸価格段階でより競争力ある電力料金を提示できるようになるのです。そうなれば、再生可能エネルギーに注力する電力会社から電力の融通を依頼された場合でも、CCUSを導入した発電所がより選ばれやすくなる可能性があります。「その結果、発電所の年間稼働時間が伸び、MWhあたりの電力料金が下がる可能性もあります」とショールズは述べています。

CCUSを発電所全体で本格的に導入する今回のプロジェクトによって、CCUSの採用を検討する向きが増えるでしょう、とGEガスパワーの脱炭素化マーケティングディレクターを務めるジョン・カティラズ(John Catillaz)は話します。ですがその一方、カティラズは、行政機関の担当者や発電事業者自身が普及の妨げとなるさまざまな障壁について研究することも望んでいます。大きな障壁のひとつとして資金調達が挙げられます。このテクノロジーの普及を加速させるためには、さまざまな仕組みを活用した資金調達手法が必要とされているのです。

とはいえ、GEパワーのCEOを務めるスコット・ストラジック(Scott Strazik)は楽観的に構え、次のように語ります。「いずれにしてもGEのエンジニア陣が大規模カーボンキャプチャーの時代を切り開いていくことでしょう。GEは今この瞬間に求められている、より安価で信頼性が高く、CO2排出量が少ない電力を世界に提供し、よりサステナブルな電力業界の実現をリードしていく決意を持っています。さらには、これからの未来に必要とされるテクノロジーの研究、開発、実証にも注力していきます。」

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