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ノルウェーの海の力:スカンジナビア半島の国がカーボンキャプチャーの世界的リーダーになる理由とは:GEの新作動画で紹介

ピーター・C・ベラー

アフマド・ワカアにとって、自分の仕事が化石燃料の採掘から気候変動との闘いへとたどり着いた道のりは、単に彼のプロ意識の対象を変えただけではなく、とても苛酷なものでした。トルコとの国境に近いシリアのカーミシュリーで大家族のひとりとして生まれた彼は、石油工学の学位を取得した後、故郷近くの油田で働き始めました。しかし、その後シリア内戦から逃れるため、ワカアは危険に満ちた逃避行を余儀なくされ、安全を求めて10近くの国境を越えました。ノルウェーに亡命を認められた彼は現在、パイプやタンク、計器が迷路のように並ぶ施設でカーボンキャプチャー技術をテストする企業を手助けする立場にあります。

「地球を救うためのソリューションに取り組むこのコミュニティの一員であることを私は本当に誇りに思っています」とワカアは語ります。

現在、彼は家族と再会し、今では2人の子供の父親になっています。彼の物語は、さまざまな背景を持つ人々が、低炭素社会への移行に向けた取り組みに携わっているという多様性を表しています。そんなワカアが今回、GE Vernovaが製作した「Powering Tomorrow」と題された新しい動画シリーズのひとつに出演しました。今回の動画は、化石燃料の燃焼によって生じるCO2を大気中に放出する前に回収し貯蔵することにおいてリーダー的存在を目指すノルウェーの取り組みを伝えるものになっています。

彼が出演するこの短編ドキュメンタリー動画は、雪に覆われたノルウェーの素晴らしい風景を縦横無尽に描写しています。動画は昆布の養殖場に始まり、魅力的な海辺の街ベルゲン、そしてワカアの職場であり現在世界最大のオープンアクセス型カーボンキャプチャー試験施設であるTechnology Centre Mongstad(以下TCM)が紹介され、それぞれの美しい風景が私たちを魅了します。このシリーズは3本のショートフィルムで構成され、ノルウェーのほかにはオーストラリアとベトナムが舞台になっています。オーストラリアの動画では、アジアの近隣諸国に低炭素電力の輸出を可能にするために水素社会の開発を目指している様子が紹介されています。また、ベトナムの動画では、猛烈な経済成長に対応しながら送配電網のCO2排出を削減しようとしている取り組みが紹介されています。

「ノルウェーはエネルギー転換に最適な場所のひとつです。なぜなら、人々がより持続可能なエネルギーへの転換を生き生きと実践しているからです」と、GE Vernovaの南北アメリカ大陸脱炭素化担当テクノロジーディレクターを務めるリサ・ベリーは語ります。画像提供:GE Vernova

 

3本の動画を通して、視聴者はCO2排出量のより少ないエネルギーが抱える課題と、その将来性をより深く理解するために、ドラゴンフルーツ栽培農家、若手トラック運転手、エンジニア、電力会社幹部など、さまざまな登場人物の視点からエネルギー転換を見ていきます。ワカアとともに動画に出演するGE Vernovaの南北アメリカ大陸脱炭素化担当テクノロジーディレクター、リサ・ベリーは次のように語ります。「送配電網に十分な再生可能エネルギーが接続されていないのが現状です。すべての人の現在の電力需要を賄うのにはまだ足りません。」

エネルギー産業に情熱を注ぐエンジニアであるベリーは、仕事でノルウェーを訪れた際にこの国に惚れ込み、CO2を回収し貯留する技術において、その地形や文化からノルウェーが理想的なリーダーになれると語っています。

「ノルウェーはエネルギー転換に最適な場所です。なぜなら、人々がより持続可能なエネルギー転換を生き生きと実践しているからです」と、ベリーは動画の中で語っています。さらにベリーは次のように説明します。「ノルウェーは北海にも面しており、かつて豊富な石油やガスを埋蔵していたのと同じ地質特性が、今度は回収したCO2を大量に貯留するのにうってつけなのです。ですが、CO2の回収および貯留を実現するためには、回収したCO2のためのインフラ整備が必須です。その上、各国がCO2回収に向けて推進するためのルール作りも必要ですし、大規模投資も必要なのです。」

現在最も広く普及しているカーボンキャプチャー技術であり、CO2を吸収する液体溶媒の混合物を使用する技術は一世紀前から存在していました。ですが、最近まで各国政府や電力会社はあまり熱心ではなかった、とGE Vernovaの脱炭素化ディレクターであるジョン・カティラズは述べています。彼は各国の電力会社や送配電事業者を支え、CO2排出量削減への取り組みを支援しています。

現在の方法でCO2を回収して貯留する場合、たとえば天然ガスから電力を供給するコストの2倍になってしまう場合もあるからです。そのため、電力をより手頃な価格にしたいと考えている国々にとっては導入が難しくなります。さらにCCS(carbon dioxide capture and storage:CO2の回収と貯留)は化石燃料の燃焼によるCO2の排出を続けることを覆い隠す手段として利用されていると批判する人たちもいます。しかし、気候変動の影響が大きくなり、より喫緊の課題となるにつれ、考え方を変える人たちもいるとカティラズは説明します。

「多くの国の参加が必要です。一国だけでは成し遂げることはできません。全員がテーブルに着いて、積極的に参加する必要があります」とカティラズは語ります。

カーボンキャプチャー技術の大規模展開をより確かなものにするというノルウェーの意欲的な計画は、ワカアとTCMの同僚たちを中心に進められています。そして、技術開発者たちは自分たちのアイデアが新たなプロセスのスケールアップに伴う技術的なハードルを克服できるかどうかを検証するために集まってきているのです。

「CO2吸収液に用いられ、現在も事業向け開発が進むアミン類に関する高度な関連技術のほとんどがTCMでテストされ、検証されています」と、3年前にこの施設で働き始めたワカアは言います。アミン関連技術はかなり成熟しているものの、ワカアと同僚たちは、より効率的にCO2を回収可能な固体吸着剤や被膜などの先進的テクノロジーをテストし続けています。TCMの最新のプラットフォームは、そうした彼らが最も胸を躍らせる研究も可能な仕様になっています。

気候変動と闘うことを担う現在の職務に就くまでに、ワカアは多くの困難に耐えてきました。彼はレバノン、トルコ、ギリシャ、北マケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリア、ドイツ、スウェーデンを経て、さらにノルウェーへと長い長い旅を続けざるを得ませんでした。ノルウェーに着いても、居住権を付与されるまでさらに1年以上待ち続けました。

ノルウェーに着くと、ワカアは仕事と勉学に打ち込み、1年足らずで修士号を取得し、ノルウェー語も習得しました。ドイツから妻を連れてくることができた後、ある日彼は2人の幼い子供と、大学の勉強、それに仕事をすべて同時にこなしていることに気づきました。今回の動画が製作される際、ノルウェーで安全に暮らし始めた家族といっしょに撮影されたことは、楽しくもあり、時には感傷的にもなったと彼は語ります。朝食のテーブルで子供たちがなぜ見知らぬ人々が自分たちを撮影するのかと尋ね続けたことをワカアは微笑みながら語ってくれましたが、子供たちとのシーンを再度見ると、このドキュメンタリー動画に出演する機会を得るまでに乗り越えてきたことの数々が思い出されました。

「完璧な仕上がりだと思います」とワカアは語りました。

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