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一刻もムダにできない:GEが問題解決にリーンマネジメントを活用。新型コロナウイルスの感染拡大時に有益なツールとは。

トーマス・ケラー

トーマス・エジソンが特許を取得した「送電システム」は、GEの共同創業者である彼の名を世に知らしめた、1880年当時のもっとも新しい発明でした。JPモルガンをはじめとするニューヨークの富裕なエリート層の強力な後ろ盾もあり、エジソンはこの特許を取得して早々、マンハッタン南端部(ローアー・マンハッタン)の一部に電気を供給して、自ら発明した電球に明かりを灯すべく市の説得に乗り出しました。

しかし、輝かしい電光に満ちた送電事業とその財政状況も難局を迎えます。街路の下に電気ケーブルを敷設するための許可を得るのに時間がかかり、地面が凍りつく冬になってしまったため、春の雪解けまで工事再開を待たざるを得なくなったのです。「すでにニューヨーク・タイムズ紙が報道していたように、自宅の壁から電気の通っていない配線がぶら下がっているのに嫌気がさした顧客からは苦情が出ていた」とエジソンの伝記作家であるエドマンド・モリスは記述しています。こうした遅延により、エジソンの最初の都市圏送電網で電灯の光を浴びたのは、ニューヨークではなくロンドンの市民でした。

以来、GEは世界各地へ電力を供給し、そのグリッドソリューション事業部は、停電を極力減らし、企業や一般家庭に再生可能エネルギーを供給できるよう、変圧器、ソフトウェア、人工知能(AI)、配電システムの自動化を採用して来ました。しかし、同事業部の幹部は未だにエジソンの当初の苦労に共感することができます。近代的な送電システムの建設においても、プロジェクト承認の取得、資金調達、工期厳守などの大変さを痛感する機会は多いからです。GEデジタルでリーン&オペレーション部門のシニアバイスプレジデントを務めるベッツィー・ビンガムは次のように話します。「私達のセールスファネルには数億ドル規模になり得る潜在的なビジネスが存在しています。」一方、進行中のプロジェクトの3分の1は顧客に解約され、当初の期限を大幅に遅延するプロジェクトも30%に上ると言います。「着手したのにムダになるわけです。適切な事業に入札して、もっと迅速にファネルに通す必要があります。」

8ヶ月前にGEに転職する前、ハネウェル社で巨大なサプライチェーンを統括していたビンガムにとって、こうしたムダをなくすことは幸いにも彼女が得意とする領域でした。GEの会長兼CEOであるH・ローレンス・カルプJrと同じく、ビンガムはリーンマネジメントの実践者で、この継続的改善のシステムは今やGEの経営再建の中核に据えられています。ムダの排除はリーンの主たる目標です。「リーンは私達の戦略であり、経営手法でもあります。成長に向けたカギなのです。」とビンガムは語ります。

GEデジタルでリーン&オペレーション部門のシニアバイスプレジデントを務めるベッツー・ビンガム(最上部画像)が次のように話します。「私達のセールスファネルには数億ドル規模になり得る潜在的なビジネスが存在しています」しかし、進行中のプロジェクトの3分の1は顧客に解約され、当初の期限を大幅に遅延するプロジェクトも30%に上ると言います。「着手したのにムダになるわけです。適切な事業に入札して、もっと迅速にファネルに通す必要があります。」 最上部画像の提供: GEデジタル 上部画像の提供: ゲッティイメージズ

リーンは、経営改善、生産ライン及びサプライチェーンの合理化、その他の問題の解決を念頭に工場で頻繁に採用されていますが、プロジェクト管理、ソフトウェア開発、その他の商業的な問題についても同じくオフィス内で役立つツールとなっています。事実、このシステムは非常に強力で柔軟であるため、今回の新型コロナウイルスのパンデミック発生時にもGEはリーン方式を採用しました。。「会議室や対面で話し合いができないときに、私たちはどうすれば問題を解決できるでしょう?」 と、GEデジタルのCEO及びGEのリーントランスフォーメーションでバイスプレジデントを務めるパット・バーンが話します。「パンデミックの影響が長引くなかで、このことが解決を要する最も重要な課題の一つになると考えています。問題解決策の立案・改善・実践、結果の追跡、経営問題の解決に向けた適切な話し合いなどに対してリーンを活用して体系的な手法を整備できるようになるということ。それが今の全般的なニーズだと思います。」

GE リニューアブルエナジー事業の一環でもありGEデジタルにも関連しているビンガムのグリッドソリューション事業部での業務がその好例です。この事業部では、特に風力や太陽光等の不安定電源から生成される再生可能エネルギーの導入増に応じ、電力供給全体の安定、強化、安全を促すためのハードウェアおよびソフトウェアの構築を行っています。「ここでリーンは非常に大きな役割を担っています。」と語るのはGEデジタルのデジタルグリッド部門でゼネラルマネージャーを務めるジム・ウォルシュです。エジソンのマンハッタン南端部での経験に従い、プロジェクトの実施計画を最初にしっかり立てることが良案でしょう、と同氏は語ります。「歴史的に見ても複雑なプロセスですし、業務の引き継ぎが多数発生し、目標に到達するまでにお客様と数多くの場面で協力する必要があります。」と彼は言います。「従来の実施プロセスをどのように使ってお客様により早く価値を提供できるようムダを取り除くかという面で、リーンは非常に力強いアドバンテージを与えてくれると考えます。」

ビンガムとそのチームは、このメリットをいち早く掌握するためにウォルシュと連携しています。問題の特定、その根本的な原因や排除方法を探し出すためのリーン・ワークアウトで構成される一連の「カイゼン」に着手しました。「いろいろと調査し、想像力を働かせて、物事を表面的に受け入れず、『なぜ?』と問いかけなければなりません」と、ビンガムは語ります。  

GE デジタルCEOのパット・バーン(左)、GEデジタル デジタルグリッド部門でゼネラルマネージャーを務めるジム・ウォルシュ(右)、GEリニューアブルエナジーのグリッドソリューション事業部で最高技術責任者を務めるヴェラ・シルヴァ(中)。本年初旬の会議にて。画像提供: GE レポート

カイゼン・ワークアウトは通常、そのトピックに深く精通した者を含めた6名と、斬新な視点を持つ外部からの参加者で構成されます。まず、改善対象となるプロセスに対して「バリュー・ストリーム・マップ」を作成することから始めるのが一般的です。製造業では、どの工程が価値を加えているのかを判断する上で役立っています。「マップを見て、『このステーションでは何人が働いているだろう?どのくらいの在庫があるだろう?』と検証します。」とビンガムは語ります。

このアプローチは、同じくオフィス環境でも効果を発揮します。「この考え方をグリッド事業のエンドツーエンド・プロセスに適用しました。」とビンガムは話します。「どのようにプロポーザルを作成し、見積りを立て、ソフトウェアを設計し、プロジェクト管理を通して現場に活用するか、またどうやってコスト回収を行うべきかを考えます。」

最初に行ったカイゼンでは、次々と課題が明らかになりました。「お客様からの電話で欠陥を特定することができたため、私たち自身はそれほど生産的ではないことに気づいたのです。」とビンガムは語ります。さらに掘り下げると、壁に貼られたたくさんの付箋から大きな問題がゆっくりと見えてきました。セールスファネルに含まれるプロジェクトのうち、顧客が解約するものが全体の3分の1に上ることが判明したのです。「どうやってその絞り込みをして、有力な見込客だと判断するに至ったのでしょう?」とビンガムは問います。

また、プロジェクト管理オフィスの内部では、従業員がプロポーザル1件の審査に数百件ものボイスメールやEメールのやり取りをしていることが判明しました。「プロポーザルの期限厳守率が99.5%だとしても、これでは効率的と言えるでしょうか?」とビンガムは問います。「話し合いの結果、『期限厳守のためにコストが3倍になっているかもしれない』という結論に至りました。こうやって全てを明らかにするまで、上流工程でこれほどのムダがあることは気づかれていませんでした。修正しなければ収益に問題が及びます。」

しかし、この取り組みは新型コロナウイルスが襲い掛かった3月に失速します。米国および欧州の担当者がフロリダ州メルボルンにあるグリッドソリューション事業部のオフィスでカイゼン会議に参加する予定でしたが、パンデミックによって中止となったのです。それは、リーン&グリッドサービスのバイスプレジデントとしてGEデジタルに入社したポール・スロウプがチームの新たな増強要員となると同時に、新型コロナの第一波が米国で拡大し始めたときでもありました。

「プロポーザルの期限厳守率が99.5%だとしても、これでは効率的と言えるでしょうか?」とビンガムは問います。画像提供: ゲッティイメージズ

スロウプは、カルプが約15年間CEOを務めたダナハー社に15年勤務しました。同社も事業運営にリーンを駆使する模範企業で、バーンとビンガムも同社で勤務した経歴を持ちます。スロウプは、デザイン思考による製品開発、そしてムダ削減と取引プロセスの改善による運営の2分野でリーンを活用する専門家です。

チームが全力投球できるよう、スロウプは早速、カイゼンの導入方法の模索に取り掛かりました。「各現場と社員を知るために最初の90日は各地を訪問することにしていました」と同氏は語ります。「その9日目に新型コロナが(米国で)発生したので、すぐに帰宅しました。そこで『従来は(対面で行う)このやり方だったけれども、どうすれば仮想フォーマットを使わずに外観や操作感(look and feel)を再現できるだろう』と考えるようになったのです。」

スロウプは、GEデジタルで戦略部門のバイスプレジデントを務めるケシュ・スブラマニアンと共に、プロジェクトチームとの完全な連携を可能にする直感的なコラボラティブ・ホワイトボードアプリケーションの模索を開始しました。実際の部屋に、他の人と一緒にいるような感覚を提供できることが絶対条件でした、とスロウプは言います。「メンバーの創造性と問題解決能力を十分に活用し、そのアイデアや考え方を引き出す必要がありました」「会話を弾ませる人が1人いても、受け身の参加者が多くいるのでは上手くいきません。これではすぐに機能不全となってしまいます。」自称内向型のスロウプが他の組織からGEに移った9日目に、これまで学んだリーン推進方法を変えること、それが課題でした。

スロウプとスブラマニアンは様々なプラットフォームを吟味した後、素早い決断で共同作業を可能にするオープンソース・オンラインホワイトボードプログラム「Miro(ミロ)」を選びました。これは、デスクから離れることなくライブイベントに参加する体験を利用者に提供するというものです。非常に直感的で使用方法も簡単に学べるため、チームのニーズを解決するツールだということも明らかとなりました。「Miroを使って対面ワークショップの品質の7~8割を実現できるならそれで十分だろう、ということになりました」と同氏は語ります。「移動時間や調整といった生産性のロスを考えれば、恐らく効果は五分五分でしょう」

しかし、チームはまだいくつか問題を解決していく必要がありました。「大きな問題は、相手のボディランゲージを良く読み取ることができないという点です」とビンガムは語ります。「会議室や工場で話し合いをする際、みんな立ちながら何かを見たり、指差したり、話したりします。ですので、ブレインストーミングも場合によっては難しくなることがありました」

スロウプとビンガムは、特定の場所で実施されるカイゼンは仮想ツールで強化されると見込んでいます。画像提供: ゲッティイメージズ

このアプリは、ホワイトボードのデジタル版を自動的に作成・保存して、他のチームメンバーがイベント終了後に閲覧・更新できる等の意外なメリットも生み出しました。「以前は、実際のホワイトボードや付箋が別の場所にあって、他の人が内容を更新できず、帰宅した後に新しいアイデアが出てもそれを追加することができませんでした。」とスロウプは語ります。「ダナハーにいた頃は、カイゼンの終わりに大量のメモ用紙を自分のオフィスに持ち帰るということも頻繁にありました。しかし、こうした方法では他の人が資料を使えないので、その場しのぎのアプローチだというのは明白でした。」

このアプリでは、より多くの人により迅速に情報提供をすることが可能です。例えば最近、クリスチアン・ギャスパー率いるGEデジタルのソフトウェアエンジニアリングチームは、参加者80名のデジタルワークショップを開催しました。「フィジカルなイベントをここまで簡単に拡大することは、これまでなら絶対に無理でした」とスロウプは語ります。

ワークショップは成功を収めました。「チームと電話でアイデアを話し合うのは簡単ですが、『なるほど!』という瞬間に行き着くには、時間と新たなコラボレーションが必要となります」とGEデジタルでコマーシャル・エクセレンス・ディレクターを務めるトーマス・バルビエは語ります。バルビエとこの会議に参加した彼の同僚のミシェル・レッシュはこう指摘しています。「デジタル版のカイゼンでは真っ白なホワイトボードから始めるのは難しい気がしたので、まず始めにアイデアを書き出して、徐々に整理していくことがカギとなりました。デジタルプラットフォームなので比較的簡単にできました。クリエイティブな思考に保存可能なキャンバスを用いることで、世界中にチームが散らばっていても議論を続けることできます。」

スロウプとビンガムは、特定の場所で実施されるフィジカルなカイゼンはバーチャルツールで補強されると見込んでいます。「従来のような8時間の会議をオンラインで実施するのは無理だということが分かりました。」とスロウプは言います。「最初はファシリテーターの負担が大きすぎました。指示を出したり、慎重に聞いたり、誰が会話に参加していないか判断したり、どんな意見を引き出すべきかなどで余裕を失ってしまうのです。これからはハイブリッド型のソリューションになるでしょう。情報を集めるために双方のアプローチのいいところを採用し、ツールを活用して多様な視点を得ることで、従来のアプローチより生産性の高いソリューションに辿り着くことができるでしょう」

この経験を振り返り、スロウプは、リーンは単なる問題解決のツールを超えるものだと語ります。リーンに取り組む全ての人々のリーダーシップや謙虚さ、勇気づけといった要素が含まれているのです。GEに従事した短期間で、スロウプはリーンに対するGEの真剣な姿勢を目の当たりにしました。「(GE デジタルのグリッドリーダーである)ジム・ウォルシュを例に挙げましょう。自らもリーンを追求するリーダーの一人として、従来のあり方を排除して問題解決の新たな手法を発見できるよう、チームに権限を委譲しました。こうした勇気は過小評価されるべきではありません。」と同氏は言います。「安心できる職場環境を構築するリーダーなくしては実現できませんから。それなしでは精神的な面から見ても大半が失敗するか機能しないでしょう。」

スロウプは次のように語ります。「リーンは、創り出すものではなく見つけるものです。つまり、重力のように人間生活のあらゆる側面にその原則が適用されるわけです。その美しさは、複雑な事柄を簡素化するという点にあります。現時点で興味深いのは、GEがツールキットを推し進めていることで、従来は物質主義のプロセスで進めていた事柄に斬新な方法で取り組んでいるという点です。これは今後数年間、同社の従業員にとって大変エキサイティングな取り組みとなるでしょう。」

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