
特効薬は存在しない:『政府の迅速な行動が排出ネットゼロ達成の鍵』GE Vernovaの英国調査報告書
ウィル・パルマー
今から約3年後になりますが、英国ヨークシャー州沿岸から約80マイル(約130km)離れた沖合で世界最大の風力発電所が稼働を始める予定です。ドッガー・バンクと呼ばれるこの施設は、GE VernovaのHaliade-X 14MW風力タービンが設置されることにより、竣工時には英国の600万世帯を賄える3.6GWの発電容量を確保する見込みです。英国にはすでに25GWの風力発電設備が導入されており、これは英国の全世帯の3分の2を賄う発電量に相当します。
このように風力発電は北海において大幅に増強されつつあります。2050年までにCO2排出ネットゼロを達成するという目標を掲げる英国の計画において、風力発電は重要な役割を担います。2019年、英国は主要経済国として「2050年までにネットゼロ達成」という目標に法的拘束力を設けた最初の国となりました。その2年後、英国はさらに追加して、2035年までの中間目標としてネットゼロ排出の電力システム整備および温室効果ガス排出量を1990年比で78%削減することも定めました。GE Vernovaガスパワーの戦略担当バイスプレジデントを務めるマーティン・オニールによると、これらの目標は意欲的な水準であり、グリッド(送配電網)の一新と、今日の英国全土の電力容量の実に2.5倍に相当する再生可能エネルギー由来の電力容量の拡充を要することを意味しています。
そのうえで、英国はネットゼロ排出に到達するための力強い計画を打ち出しました。その中には、スコットランドの陸上および洋上風力発電、イングランド南海岸の一連の太陽光発電所、新たな原子力発電設備、水力発電、バイオマス、CO2回収・隔離(CCS)、そしてさらにその先の水素燃料技術などが挙げられています。英国はネットゼロ排出目標を達成するために、おそらく他のどの国よりも多くの選択肢を用意して、例えるならば「より多くのかごを用意し、卵を分けて入れられる」ようにしているのです。
上および下画像:このたびのGE Vernovaの英国の調査報告書に掲載されたグラフィック。画像提供: GE Vernova。 トップ画像提供:GE Vernova
オニールは最近のメディア座談会で次のように語りました。「英国が大陸の他の国々と異なるのは、常識にしっかりと基づいた信念があり、これ一つで全て解決するという特効薬は存在しないという考え方を持っている点です。さらに、ネットゼロ排出という未来を切り開くテクノロジーは一つだけではないとの理解も浸透しています。原子力発電でさえも、風力発電や太陽光発電施設の拡充に取り組むのと同じくらい、あるいは稼働中のガスタービン発電所と同様に、受け入れる必要があるのです。」
オニールのこのような言及は、GE Vernovaがこのたび発表したReaching Net Zero Carbon in Great Britainと題した調査報告書に記されているものです。この詳細な報告書は、必要とされる最も重要かつ短期的な取り組みに関する提案とともに、英国がネットゼロ排出目標を達成するために採り得る道筋を示しています。この報告書は、英国政府が電力市場の仕組みを見直すにあたり過去1年間に産業界からのインプットを求めたことに対して行ったGE Vernovaの回答のひとつです。
今回の報告書におけるGE Vernovaの試算では、今後3年から5年間が英国政府が明確かつ具体的なアクションを示すことを要する重要な時期となります。オニールは次のように語ります。「私たちは、例えて言うならば、5万フィート(約15,000m)の高高度ではなく、呼吸が可能で実際に行動を起こすことが可能な高度まで降りた場で、物理学とテクノロジーに基づいた検証をテーブルにのせて話し合いたいと考えています。」
デジタルツインを作り、最小コストの方法を見いだす
英国の今後の方向性を検証・評価するために、今回の報告書において研究リーダーの一人であり、GE Vernovaのエネルギー転換ディレクターのベス・ラローズは電力システム モデリングソフトウェアを使用して英国の現在の電力システムの「デジタルツイン」を作りだしたと説明します。ラローズらは、英国のグリッド運営企業であるナショナル・グリッドESO(National Grid ESO)が採り入れているものと同じゾーン分けに基づいて、グレート・ブリテン島(今回の調査には北アイルランドは含まれていない)を17の送電ゾーンに分割し、検証しました。
報告書の担当チームはいくつかのシナリオを提示しましたが、いずれにおいても将来のエネルギー展望において最も大きな存在感を示すことになるのは洋上風力発電であり、次いで陸上風力発電や水素燃料による発電もかなりの貢献が見込まれることになりました。さらに、それらよりも規模は限定されるものの、重要なピースとして加わるのは、太陽光発電、GE日立・ニュクリアエナジーのBWRX-300のような小型モジュール原子炉(SMR)を含む原子力、バイオマス、水力発電、およびカーボンキャプチャー機能を備えたガス発電所です。その一方、従来のガスおよび石炭発電所は2030年代にかけて段階的に廃止されることになります。
しかも、ヒートポンプ式の電化製品を設置したり、電気自動車を購入する消費者がますます増えつつあるという電力需要の伸びにも対処しながら進めなければならず、難しさを抱えています。ネットゼロ排出を達成するには、244GWのさらなる再生可能エネルギー由来の発電容量が必要になると報告書は結論付けています。オニールは「これは膨大な容量です。私たちは英国の現行のグリッドを2.5倍以上に拡充しなければならない、ということについて論じているわけです。この切迫感の意味をどれだけの人々がきちんと理解しているでしょうか。」
その一方で、楽観的に考えられる理由もあります。「英国は実際にネットゼロ排出のコミットメントを果たすことができます。なぜなら、英国にはこれらの目標を達成するための有利な条件や状況がいくつも揃っているからです」とラローズは言います。有利な条件や状況とは、たとえば、スコットランドの家庭は電力供給の85%を再生可能エネルギーから得ており、その半分以上を風力から賄っています。また、イングランド南部とウェールズでは太陽光発電所が大容量の電力を生成しています。そして今年、英国政府は小型モジュール原子炉とCO2回収・隔離にそれぞれ200億ポンド(257億ドル)を投資することを明らかにしました。これは、CO2排出量を大幅に削減しながら天然ガス火力発電を継続するために必要な橋渡しである、と多くの人が確信しています。さらに、水素燃料がより実用的になる時期を見据え、英国は産業部門への電力供給を支援するために、2030年までに5GWの低炭素水素発電設備を整備するという目標を設定したことも挙げられます。
最大の難関はグリッド
ここで直面する最大の課題は、発電に適した再生可能エネルギーを見出だし、それを増強していくことではなく、グリッド(送配電網)にあります。英国のはるか北の沿岸の風力で生成された電力、あるいは南部からの太陽光発電による電力をイングランド中部地方やロンドンの主要消費地に送電するには、既存のグリッドの全面的なオーバーホールが必要となります。また、コンバインドサイクルガスプラントのようなプロジェクトのための電源立地をロンドン近郊に整備することも必要です。「グリッドは、英国だけでなく世界中のほとんどすべての地域におけるエネルギー転換全体の鍵となります」とラローズは言います。
そして、エネルギーを巡る全体像がより具体化するにつれて、すべてを管理するためにはデジタル化され、かつより優れたオーケストレーションを取り入れたグリッドが必須です。電力を適切なタイミングで適切な場所に伝送するには、GEデジタルのGridOSなどのソリューションによってコーディネートされ、拡張可能性にも富む新たなデジタルハイウェイの導入も必要です。さらに、英国には60GW程度の蓄電池システムが必要になります。
ここまでの話には一体いくらかかるのでしょうか。「2020年代中の発電および蓄電容量の整備だけで、過去5年間の2倍となる500億ポンド(640億ドル)以上の投資が必要」と今回の報告書は結論づけています。つまり英国政府には、言葉をアクションに、しかも迅速に移す責務があるということです。オニールによれば、市場改革とは「technology agnostic(特定のテクノロジーに偏らない)」ものであり、自社のテクノロジーが最終的に採用されないことを恐れることなく、機器メーカーが投資に踏み切れるようなインセンティブを用意することを意味します。
「ネットゼロ排出へ転換するいずれの道筋をたどるとしても、現在から2030年までに再生可能エネルギー由来の電力容量を300%増強する必要性を信じるしかありません。どの風力タービンメーカーも納得のいくリターンを上げられないとしたら、その300%の容量増加はサプライチェーンのどこから捻出したらよいのでしょうか。私たちGE Vernovaはソリューションを手にしており、そのための投資も継続しているものの、マーケットデザイン、つまり経済的な支援政策が存在しないため、賭けを強いられている状態なのです。」
これは世界中が直面しているジレンマでもあります。しかし、英国の法的拘束力を伴ったコミットメントは、予定通りネットゼロを達成し、他の国々に模範を示すことができるかもしれません。オニールはこれに関し次のように語ります。「英国が遅れているわけではありません。実際、英国は先頭に立っていると思いますし、私はそれを称賛し、推進するお手伝いをしたいのです。ですが、この机上の議論をただ続けることはできません。私たちは有意義かつターゲットを絞りこんだアクションを起こす必要があるのです。」
Reaching Net Zero Carbon in Great Britainの原文(英語のみ)はこちらをご一読ください。