
労無くして益無し:GEの最新ガスタービンが商業運転開始に向けてブートキャンプに挑む
クリス・ヌーン
「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」はGEの創業者であるトーマス・エジソンの名言として伝えられています。この言葉はある意味、GEの発電用天然ガスタービン「HA」の最新バージョン「GE 7HA.03」にも当てはまります。この3か月間にGEのエンジニアたちはサウスカロライナ州グリーンビルにあるタービン実証施設で7HA.03ガスタービンの効率とパワーを小数点以下の値まで改善するために、何時間にも及ぶ過酷な検証を重ね、その耐久性をテストしました。すべては2基のガスタービンがフォートローダーデールにあるフロリダ・パワー・アンド・ライト社(Florida Power and Light、以下FPL)のダニアビーチ・クリーンエナジーセンター(Dania Beach Clean Energy Center)で間もなく商業運転を始められるよう準備を整えるためです。
このタービンの性能がはじめから優れていたことは明らかです。現在では最大430MWの発電が可能で、これは米国の約90万世帯を賄う電力量に相当します。また、業界最高レベルの熱効率64%を達成しているほか、一杯のお茶を淹れるような短時間で最高出力に達するなど極めて俊敏に作動します。それでもなお、7HA.03の実証試験の責任者を務めるコディ・フォード(Cody Ford)は次のように説明します。「お客様はこれらのタービンに何百万ドルも投資しているのです。ですから『はい、お客様の望む環境および使用する燃料で、このタービンは想定通りの性能を発揮します』と私たちは請け負う責任があります。」
このタービンに行ったテストは500時間にも及びました。これらのテストでは、タービンが安全かつ効率的に動作するパラメータの範囲である「全運転エンベロープ」での実証が行われました。毎秒ごとに数千個のセンサーがギガバイト単位で収集するデータをエンジニアたちが活用し、その性能を検証しました。
こうしたタービンのテストでは大きなサプライズはめったに発生しませんが、それでもこのような試験運転は客先の発電所で実際に行うことはできません。その代わりに、GEのエンジニアが「地球上で最も過酷な性能試験場」と表現するこの施設でテストします。「実際の送配電網に接続されていないため、グリーンビルの試験場は、通常の運転能力を超えて負荷を与えるテストを実施することができるのです」とフォードは説明します。
グリーンビルの長さ50mのテストベッドは、スターターモーター、ドライブモーター、トルクコンバーター、ギアボックス、ロードコンプレッサー、ガスタービンの6つの主要部品で構成されています。施設を上空から見ると、まるで巨大な自動車エンジンをケーシングから取り出して、金属製の巨大なワニのようにパーツを配置したように見えます。
この苛酷な試験場の主要ツールの一つがロードコンプレッサーです。これは、発電所に設置された発電機が稼働するのと同様の仕組みで、ガスタービンに負荷をかける装置です。ボタンを押すだけで大量の空気を吸い込んで加圧し、時速数百キロで燃焼室に送り込みます。「このコンプレッサーを使えば、お客様の所有する発電所で実際に起こりうるほとんどすべての事象をシミュレートできます」とフォードは説明します。例えば、テストの中にはエンジニアがこのコンプレッサーを使用して、7HA.03が連続的に発送電できる430MWのフル出力を意味する「ベースロード」モードまで短時間に立ち上げることができます。このように起動や停止を迅速に切り替える能力は電力会社にとってますます重要なものとなっています。というのも、再生可能エネルギー由来の電力が送配電網に送り込まれることが日常になりつつある上に、FPLだけでも2025年までにフロリダ州全域にわたり3千万枚の太陽光パネルを整備する計画があるからです。しかし、太陽光や風力による発電量が滞った場合、電力会社は需要を満たし、停電を防止するためにも代替電力源を素早く確保しなければなりません。

一連のテスト項目の中でも、特に「スピードスイープ(speed sweep)」と呼ばれる負荷テストがフォードのお気に入りです。これはタービンを正規の回転数から110%まで増やした後、再び回転数を減らすテストです。自動車でいうならば、エンジンの回転数リミッターを取り外してエンジンをフル回転させるテストに近いものになります。「このテストでタービンブレードの応力を解析するのです」とフォードは説明します。高速道路で自動車の窓がカタカタ振動し始めたりすることがあるように、ブレードはある周波数で共鳴したり、振動し始めたりすることがあるのです。共鳴とは、高速道路で一定の速度になると運転中にノイズが発生するのと同じように、自然に発生する可能性のある振動の一種です。
また、エンジニアたちは今回、過酷な環境下での7HA.03の耐久性も検証しました。このタービンは湿度の高い亜熱帯気候のフロリダで初めて商業運転を開始することになりますが、今後もアルバータ州の亜寒帯草原からサウジアラビアの砂漠の炎天下までにわたる極端な気温下でも性能を発揮する必要があります。エンジニアたちは試験設備内のパラメータを変更することで、これらの条件もシミュレートしました。
さらに、このグリーンビルの実証施設はGEがガスタービンのテストを刷新することを可能にしました。7HA.03のプロダクトマネージャーを務め、GEに32年間勤務しているクリス・コロン(Chris Corron)は、従来の方法でガスタービンの信頼性をテストするには8,000時間におよぶ運転、もしくは丸1年間の連続運転テストが必要だったと話します。しかし、このグリーンビルの実証施設のおかげでGEはタービンのテスト方法を刷新することができました。「ここでは、従来に比べると負荷を一層集中させた、より過酷なテストを実施することができるのです」とコロンは説明します。
お客様であるFPLはネクストエラ・エナジー社(NextEra Energy)の子会社でもありますが、同社にとっても今回のテストは良い成果をもたらしました。というのも7HA.03は60ヘルツの周波数域で使用されるタービンとしては業界で最も低コストでガスを電気エネルギーに変換できることが実証されたからです。今回のプロジェクトのパートナー企業各社によれば、ダニアビーチ発電所プロジェクトの全期間を通じて、FPLは最大3億3,700万ドルのコスト削減が可能の評価を受けました。コロンも次のように語ります。「小さな調整はしたものの、ハードウェアや高温ガス経路に大きな変更を加える必要はありませんでした。エンジニアリングチームには本当に感謝しかありません。」
GEガスパワーの大型ガスタービン製品管理責任者を務めるアミット・クルカルニ(Amit Kulkarni)も次のように述べています。「今回のプロジェクトの成果は卓越したチームワークの賜物です。FPL、GEのフィールドサービス ビジネス部門を担うフィールドコア社(FieldCore)、GEの現場担当チーム、そして実証施設のエンジニアリングチームとテストチームがお互いに協力を惜しみませんでした。このような素晴らしいテクノロジーを1つのパッケージとして安全かつ予定通りに納入できたことは私たちが一致団結して目標を達成したことの証であり、FPLのこの発電所は発電能力の安定性やCO2排出削減能力、そして高い信頼性が確保できるでしょう。」