
次世代航空機エンジンGE9Xを支える日本発の炭化ケイ素連続繊維 – 量産体制へ向けて富山に工場を新設
2020年にも導入が予定されている、ボーイング社製の次世代型航空機B777Xに搭載される航空機エンジン「GE9X」は、GEの歴代エンジンのなかでも推力あたりの燃費効率が最も高く、現行モデルに比べ燃料消費を大幅に削減できます。具体的には、燃費効率が現行のB777-300ER型機に搭載されているGE90-115Bよりも10%改善されており、2020年に運航するどんなワイドボディ機よりも5%上回る設計になっています。
この燃費効率を向上させるために、GE9Xには、GEが誇る様々なテクノロジーを応用しています。そのなかのひとつに挙げられるのが、セラミックマトリックス複合材料(CMC)。CMCは、金属合金の3分の1という軽量でありながら、強さはその2倍。そして、航空機エンジンの燃焼温度である1500°Cでも燃えないという耐熱性を備えていることから、航空業界では「夢の素材」とも呼ばれています。
CMCは、炭化ケイ素マトリックスに、炭化ケイ素連続繊維を組み合わせて出来ています。
GEアビエーションは、そのCMCをエンジンの高温部である、高圧タービン部に位置する18枚の第一段シュラウドをはじめ、第一段および第二段ノズルや燃焼器ライナーの内側と外側にも採用する予定です。「これにより、2%の燃費効率アップにつながる」と、GEアビエーション副社長のサンジェイ・コレアは言います。
GEアビエーションと仏サフラン・グループの合弁企業であるCFMインターナショナルの最新型エンジンLEAPは、すでに高圧タービンの第一段シュラウド部分にCMCを搭載しています。LEAPが搭載された航空機A320neoは、トルコのペガサス航空によって運航されているほか、マレーシアの格安航空会社、エア・アジアへの納入も完了しています。
来年にはLEAPを搭載したB737MAXも運航が開始される予定で、今後1万500台を超えるLEAPエンジンが世界の空を飛ぶことが想定されています。また、GEアビエーションはすでに700台以上のGE9Xを受注しています。
夢の新素材、CMCの活躍場所は航空機エンジン以外へも広がろうとしています。
GEパワーは、いま開発を進めている新型ガスタービンなどでCMCを適用する可能性について模索しています。これが実現されれば、エネルギー分野での燃料効率の向上にも大きな貢献になるでしょう。こうして増大するCMCの需要に応えるためには、さらなる生産能力が不可欠です。
2016年6月、GEは、米国アラバマ州のハンツビルにCMCの製造工場を建設すべく鍬入れ式を行いました。ここには2つの工場を建設する予定で、ひとつはCMCの素材である炭化ケイ素連続繊維の生産を行い、もうひとつの工場では、この素材に独自コーティングを施しそれらをマトリックス状にするためのCMCテープを製造します。2019年には、両工場のフル稼働体制が整う予定です。
これまでにもお伝えしてきましたが、炭化ケイ素連続繊維(SiC)は、日本カーボンの研究者による長年にわたる開発努力によって生み出された賜物で、現在、商業用として量産できるのは、富山県に拠点を持つNGSアドバンスト・ファイバーのみとなっています。
NGSは、日本カーボン(N)、GE(G)、そしてサフラン(S)の略称で、3社の出資のもと、炭化ケイ素連続繊維の生産体制を整えるために、2012年に設立されました。これまでは年間1トン体制で生産してきましたが、第二工場の稼働により、年間10トンの生産が可能になります。
NGSアドバンスト・ファイバーに新設された第二工場
写真左より、GEアビエーションのサンジェイ・コレア副社長、日本カーボンの伊東郁夫社長、
サフラン・セラミックのマーク・モントドン最高執行責任者
竣工式には、富山県の石井隆一知事をはじめ、地元関連企業や
NGSアドバンスト・ファイバーに出資する企業の代表者などが100名ほど参加した
第二工場は、来年後半から、炭化ケイ素連続繊維の本格的な量産体制をスタートさせる計画で、2019年の4月にも稼働がスタートする米国ハンツビルの工場と合わせて、合計20トンの生産体制を整える見通しです。
富山県の石井知事(左)と握手するNGSアドバンスト・ファイバーの武田道夫社長
富山県の石井知事も、「先駆的な夢の素材であり、今後の飛躍と発展に期待する」と話している通り、炭化ケイ素連続繊維、そして、CMCのさらなる使用用途の拡大に注目が集まっています。