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スピードが決め手:実現しつつあるアディティブ製造の大きな可能性

金属加工法を考案する仕事に従事して来たウィリアム・カーターは、青銅器時代からやって来た鍛冶屋がGEの最新技術を目の当たりにしたらどう反応するのかと想像することがあります。時空を超えてやって来た鍛冶屋は、タービン・ブレードやその他の大型金属品目を鋳造するために使用するワックス模型やセラミックス金型のことは難なく認識できるでしょう、とカーターは述べています。一方、コンピュータで制御されたレーザーが金属粉末の層から複雑な物体を魔法のように作り出す様子を見る鍛冶屋を想像するとクスッと笑ってしまいます。「彼にとっては、私たちが燃える泥から部品を作っているように見えるでしょうね」

GEリサーチの技術者で、米国において45の特許を取得し、75の技術刊行物を出版しているカーターは、DMLM(直接金属レーザー溶融)方式が登場した頃から従事しています。DMLMは、アディティブ製造または3Dプリンティングとして現在知られている分野の特に有望な技術です。 今注目を浴びている彼の技術が直面する課題を考えると、この時空を超えた空想話は彼の謙虚さと楽天主義の両方を反映していると言えるでしょう。「インベストメント鋳造は5,000年もの開発期間を経ています」と、職人が蜜蝋型を使って宝石、装飾品、武器、道具を鋳造していた時代に言及しつつ、カーターは述べています。「アディティブ製造は誕生から30~40年しか経っていませんから、急いで追いつく必要があります」

現在の技術のルーツは1980年代半ばまで遡ります。当時、テキサス大学オースティン校の学部生だったカール・デッカードが、レーザーを使ってプラスチック粉末からシンプルな構造物を製作するという初めての実験を行いました。

デッカードの装置は素朴なものでした。コモドール64コンピュータを使い、初期のCADをもとにレーザーの光路を作成し、プラスチック層を重ねることで小さな物体を製作しました。(アディティブ製造はすべて、このように薄い材料の層を積み重ねて物体を製作します) デッカードが考案したSLS(粉末焼結積層造形法)と呼ばれる革新的な工程は、当時博士号を取得したばかりの、GEリサーチに勤務していたウィリアム・カーターの目に留まりました。

最上部画像: 3Dプリントされた燃焼器の横に立つウィリアム・カーター(右)と共同研究者のマーシャル・ジョーンズ。
彼らの最新の試作プリンタは、直径1メートル・高さ1メートルもの大きな金属部品を3Dプリントすることができます。
これに対して、テーブルに載るサイズだった彼らの最初のマシンで製造していたのは3x1x1インチのサンプルでした。
最上部画像提供:GEリサーチ。上部画像:ウィリアム・カーター提供。


それは、すぐにカーターの想像力を掻き立てました。彼は、全米発明家殿堂入りが決まっていたGEリサーチの技術者でレーザーの専門家であるマーシャル・ジョーンズと組み、上司に大胆な考えを売り込みました。「デッカードが提唱するプラスチックを使うという発想を取入れつつ、代わりに金属から物体を作ってみてはいかがですか」

カーターとジョーンズの思惑どおり、アディティブ製造で金属部品を作成することで非常に高品質なプロトタイプを製作することができましたが、根本的な問題も明らかになりました。金属粉末を積み重ねて固体物体を作るレーザーの集光面積が非常に小さい(通常、1ミリメートルの10分の1程度)ため、たとえ小さな物体を作る場合でも膨大な時間がかかったのです。「この工程は苦痛なほど低速でした」とカーターは述べています。「しかし、非常に大きな可能性を感じました」

初期の実験に関する論文を執筆した後、ジョーンズはレーザー開発に集中し、カーターは金属加工に関する別の研究に戻りました。この業界での開発は続けられ、2010年代半ばまでには、他の多くの技術者や経営者たちがこの新技術の可能性を信じるようになりました。 GEは先陣を切って、提携、買収、投資など一連の取引を行うことで対応しました

カーターは3Dプリンティングへの情熱を捨てることができず、開発現場に戻り、より大きなサイズの部品をより高速に作ることに心血を注ぎました。 最近の成功例の1つが、ジェット・エンジン向けの燃焼器ライナーの製作です。燃焼器ライナーとは、エンジンの高温部に流れる冷却空気を制御する部品で、たくさんの空気取入穴が空いています。新しいアディティブ工程により、トンネルの集合体として取入穴を再設計することが可能になり、これまで金属を通して空気を到達させるのに苦労していた地点まで空気を送ることに成功し、性能と効率性を向上させて新たな境地を切り開きました。



GEアビエーションパワーヘルスケアの各事業で3Dプリンティングは使用されています。アビエーションでは、
技術者たちはアディティブ製造と呼ばれる技術を活用し、従来手法だと
800個にもなる部品点数を、
たった
12個のプリント部品まで削減しました。
画像提供:クリス・ニュー。
GEレポート向け @seechrisnew


カーターが現在関わっているGEリサーチとローレンス・リバモア国立研究所が共同で実施するプロジェクトは、2015年始めに開始しました。 空軍研究所からの資金を受け、当プロジェクトは3Dプリンタを制御するオープンソースのソフトウェアを作成し、これによって研究者たちは金属溶解工程において市販ソフトウェアよりも高い制御性を実現できるようになりました。

カーターは現在、共同研究の最終段階に取り組んでおり、プリンティング工程の速度を再度向上させることを目標とする作業システムを構築しています。 一般的に、速度の向上は、使用するレーザーの数を増やす、より強力なレーザー光線を使用してより厚い金属層をより速く溶解する、工程を調整して既にあるレーザーに対してより効率的な光路を見つける、という3つの方法で実現します。

残念ながら、安易な解決法は新たな問題を生み出します。カーターはこう説明します。「これまで芝生に丁寧に水を与えていたところに、消火用ホースへ切り替えたとしたら、違う結果になるでしょう。単純に強力なレーザーに切り替えた場合も、同様のことが起こります」

この問題に対処するため、カーターはリバモアのマーニヤイボ(イボ)・マシューズとチームを組みました。イボは、金属粒子が溶解する「溶融プール」にレーザーが当たった際に何が起こるかを探るため、毎秒最大1,000万フレームで撮像できるカメラを利用しました。

膨大な出力光が小さな面積に集中するため、金属原子が極めて小さなジェット気流で飛び散り、これによって隣接する気体が加熱されて金属粉末を吸引し、その範囲に飛散します。 飛散した金属粒子がレーザーの光路に堆積すると問題が発生します。これらの金属くずが影を差すほど大きくなることがあり、そうなるとレーザーがその下にある点を溶接できなくなるのです。

カメラのおかげで問題を理解できたものの、そこから解決策の発見にはまだ至っていないことをカーターも認めています。 現在のところ修正手段はありませんが、いずれ見つかるだろうと彼は自信を持っています。

1990年代始めの頃の実験を振り返り、彼は同じように感じていたと述べています。 「当時私たちは、『必要なのは製造速度を上げることだけだ』と真剣に考えていました。 製造速度の2桁向上(100倍の高速化)を目指しました。そして、これらの年月をかけてそれが実現したのです」

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