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Mountain Man:山好きなエンジニアがアルプスの頂で挑んだ水力発電所

トーマス・ケルナー

スイス南部にそびえる雄大なマッターホルンのふもとで育ち、昨年もその鋭い頂上まで登り切ったアレックス・シュヴェリー(Alex Schwery)は、どんな山を目の前にしてもそう簡単に怖気づくことはありません。しかし、そんな彼でも2000年代半ばのある寒い日、幅の狭いアルプスの渓谷で立ち往生し、文字通り震え上がった経験があります。

その日も凍えるような天候でしたが、シュヴェリーと彼の同僚たちはそれ以上に緊張していました。チューリッヒから2時間ほどの場所にある小さな街リンタールで、地元の電力会社がとある開発を計画していました。それは花崗岩でできている山の地中2マイル(約3キロ)で行う水力発電プラントの開発で、欧州でも1、2を争う高い工学技術が求められる案件でした。

その発電プラントはシュヴェリーが立っていた場所からさらに高いところに位置する山並みの中に計画されました。2,000フィート(約606メートル:エッフェル塔の2倍近い高さ)の落差がある2つの大きな湖(貯水池)の間を導水管でつなぎ水を移動させるのですが、その発電システムは原子力発電所と同じくらいの巨大な電力を貯蔵できる施設としても機能するのです。1日で1GWの電力を供給することも貯めおくことも可能です。これは24GWhの電力に相当し、スイスの平均的な家庭100万世帯を1日以上まかなうのに十分な発電量となります。GEリニューアブルエナジーのハイドロパワーユニットのチーフコンサルティングエンジニアを務めるシュヴェリーは「従来のバッテリー方法ではこの発電容量を合理的に実現することはできませんでした。うまく機能しないのです」と述べています。

この問題を解決するために、シュヴェリーと彼の同僚はこの発電所に対し4基の独創的な可変速発電機を導入することを提案しました。可変速発電機は2つの機能を担い、水を汲み上げるポンプの機能と電力を作り出すタービンの機能を併せ持ちます。チームが設計した発電機は、電力会社の送配電網に余剰電力があるときに上部の湖へ水を汲み上げ、需要が高まった時のために位置エネルギーを蓄えておきます。電力需要が高まると、オペレーターは氷河から流れ出た青緑色の湖水を再び下部の湖まで導水路で落とし、位置エネルギーでタービンを回転させて発電します。「これは、私と同じように人の役に立ちたいと願う多くの人々が関わったチーム力の賜物です」とシュヴェリーは語ります。

リンタール水力発電所の「下部の貯水池」の眺め。この発電プラントはスイスアルプスの標高約1800mに位置しています。画像提供: GEリニューアブルエナジー: トップ画像: 昨年登頂したマッターホルンの頂上に立つアレックス・シュヴェリー。画像提供:アレックス・シュヴェリー。

揚水によって貯水池を蓄電池として活用し、エネルギーを蓄えるという概念は何十年も前から存在するものです。しかし、シュヴェリーが設計した発電機は敏捷性に優れており、電力会社は送配電網内の余剰電力量を正確にモニターし、上下の湖(貯水池)に蓄えた水を適切なタイミングで、上下どちらにも適切な量の位置エネルギーが確保できるように移動することを実現するものでした。つまり、需要が低下して余剰電力がある場合は上部の湖に水を汲み上げ、電力供給が不足しているときは水を下部の湖に落とします。このテクノロジーの全体的なサイクル効率、つまり「湖水が導水管を流れ落ちるときに水を『タービニング』することによって供給される電力と、上部の湖に水を汲み上げるために使用されるエネルギーとの比率」は80%にも達し、発電システムとしての技術的観点からはもちろんのこと、経済性の観点からも非常に優れたシステムでもあることを示していたのです。

問題は、この発電機がまだ設計図の上でしか存在していないことでした。シュヴェリーは振り返ります。「当時、雪が降り積もる中、私たちは現地に赴いて山々をじっと見つめましたが、もちろんそこには山がそびえ立つだけで、他には何もありませんでした。揚水してエネルギーを蓄えるという概念やアイデアはすべて頭の中で整理されてはいましたが、そのときは単なる研究プログラムに過ぎませんでした。ですが、次第に現実のものにしてみせるという意欲が湧いてきたのです。」

そしてついに、彼らはやり遂げました。007の映画に登場する悪役の隠れ家にふさわしいこの山奥の発電所には既に(注:2016年から)電力を貯蔵し、発電を行っています。ここリンタールでデビューしたスマートタービン発電機は、その後も近くではオーストリア、そして遠くではオーストラリアの電力会社からも受注を重ねてきました。「揚水発電は大量のエネルギーを貯蔵する最も効率的な方法で、両方向の制御、つまり発電も、送配電網からの余剰電力の吸収も共に調整できるのです」とシュヴェリーは言います。

両方向の調整ができることは、送配電網の仕組み上重要な意味を持ちます。「送配電網は人類が創り上げた最大の産業システムです」とGEリニューアブルエナジーのグリッドソリューションユニットの最高技術責任者を務めるヴェラ・シルバ(Vera Silva)は言います。さらに、その規模の大きさに関わらず、電力の需要と供給が常につり合い、完全にバランスが取れている必要があります。そうでなければシステムは破綻してしまうからです。シルバは、電力会社は「スイス時計が時を刻むように緻密に送配電網を調整している」と述べ、ミリ秒単位で発電と需要のバランスをとり、電力供給を中断することなく予期しない事象も即座に吸収していると説明します。さらに「脱炭素社会の実現という意欲的な目標を達成するためには、送配電網を常に盤石にしておく一方、常に変化する発電需要と供給にも機敏に対応しなくてはなりません」と語りました。

加えて、シルバは風力や太陽光などの再生可能エネルギーの急速な成長について、大規模な発電が可能ではあるものの、天候に左右されやすく、必要な時に常に利用できるとは限らないという点を挙げています。蓄電施設としての役割も持つ揚水発電所の建設に取り組む国の一つであるオーストラリアで水力発電部門の営業責任者を務めるGEリニューアブルエナジーのマーティン・ケネディ(Martin Kennedy)は、揚水発電により「雨の日でも利用できる巨大バッテリーを創り上げることになるのです」と述べています。

かつては眠れない夜が続いた時期もあったとシュヴェリーは振り返ります。しかし、自分が手掛けた新技術によってリンタールの街に完成した発電プラントを初めて訪れたとき、彼は改めてその威容に圧倒されました。シュヴェリーはさらに次のように語ります。「アルプスに囲まれた湖、ダム、そしてその地中深くに設置された大聖堂のような発電機など、いずれもその壮大さに驚かされます。ですが、ただ大きいだけでなく、そこには私たちが創り上げた発電機という心臓部があります。この発電所は人体に似ています。人間に多くの臓器があるように、多くの機器がここにはあり、どれも重要ではありますが、とりわけ心臓に相当する発電機が適切に機能していないと、全体が支障をきたす可能性が高いのは人間と同じなのです。」

マッターホルンの頂上に立つシュヴェリー。「当時、雪が降り積もる中、私たちは現地に赴いて山々をじっと見つめましたが、もちろんそこには山がそびえ立つだけで、他には何もありませんでした。揚水してエネルギーを蓄えるという概念やアイデアはすべて頭の中で整理されてはいましたが、そのときは単なる研究プログラムに過ぎませんでした。ですが、次第に現実のものにしてみせるという意欲が湧いてきたのです。」と語りました。画像提供: アレックス・シュヴェリー。

連なる山々と大きな機械は二つあわせてシュヴェリーの活力になってきました。絵のように美しいリゾート地であるツェルマットとクラン・モンタナを擁し、まるでピラミッドのような威容を誇るマッターホルンがそびえるスイス南部のヴァレーバレーで、彼はハイキングやスキー、登山をしながら育ちました。彼の父親は建設会社を経営していたため、シュヴェリーは仕事中の父親を訪ねることも多く、建設機械もよく目にしていました。「このことが今の私につながっているのでしょうね」と彼は言います。

その後、彼はスイスの名門大学のひとつであるスイス連邦工科大学ローザンヌ校(École Polytechnique Fédérale de Lausanne)に進学し、電気工学を学びました。3年生になり専攻を決めるとき、彼は自分の想いを大切にしました。「ほとんどの人は情報・通信工学専攻に進みましたが、私にとっては机上の空論のように思えました。それよりも私の直感に訴えるものが機械いじりにはあったのです」と彼は言います。

そんな機械への愛着が、機器を制御する新たな手法を探し求めていた彼を博士号取得へと導きました。「私は主に自動車やロボットに関する特殊かつダイナミックな動作制御に取り組んでいました。とりわけその中でも速度を自由に変えられるものに興味を持ちました」と彼は振り返ります。その可変速こそが後年、彼が新型ポンプタービンの電気システムを設計することに役立った研究分野でした。

1990年代後半に彼が現在のGEハイドロパワーで働き始めた頃には、揚水発電技術はすでに成熟しており成長の余地がない技術であると見なされていました。そのため、電力会社が適切な水準の電力を貯蔵または発電し、揚水発電の効率を高めることができる可変速発電システムに注目していた人はほとんどいませんでした。「『いまさら何か新しくやることがあるのかい?』」と言われたこともありました」とシュヴェリーは言います。

こうしてシュヴェリーたちの努力は実を結びました。そして、その証はアルプスの山奥に確かに存在しています。

シュヴェリーは絵のように美しいリゾート地であるツェルマットとクラン・モンタナを擁し、まるでピラミッドのような威容を誇るマッターホルンがそびえるスイス南部のヴァレーバレーで、ハイキングやスキー、登山をしながら育ちました。画像提供: ゲッティ イメージズ。

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