
モバイルサービス:スイスのエネルギー安全保障を支えるGEの卓越した「パワー・オン・ホイール(車輪がついた発電所)」
クリス・ヌーン
今年2月、GEガスパワーの独創的なTM2500エアロデリバティブ(航空機エンジン転用型)トレーラーマウント型ガスタービンがロシアの侵略で荒廃したウクライナに運び込まれました。現在、この「パワー・オン・ホイール(車輪がついた発電所)」はヨーロッパ大陸がかかえる侵略の余波を乗り切るための手立ての一つとなっています。各国は追加の予備電力を確保する必要にせまられているからです。
このたび、スイスのアールガウ州ビルアーにあるGEマニュファクチャリングセンターに設置された8基のTM2500からなる臨時予備発電所が最大250MWの電力を供給する準備が整いました。これにより、緊急時にはこの発電所がスイスの一般家庭約25万世帯分の需要に相当する電力を供給して急場をしのぐことが可能となりました。エネルギー資源に乏しいスイスは電力需要を満たすための輸入依存度が高く、この予備発電所は必要不可欠な保険としての役割もありますが、隣り合う各国もエネルギー上の課題に直面しています。
スイスのこの予備発電所は約半年で稼働の準備が整いました。2022年、ヨーロッパの天然ガス供給量減少や国内の水力発電による発電量が低下する一方で国内の電力消費量は増加したため、スイスではエネルギー安全保障の状況が悪化しました。そのため、同国政府は送配電をバックアップする対策が早急に必要になりました。GEガスパワーはこの要請に応え、2022年9月に国営のスイス連邦エネルギー局(The Swiss Federal Office of Energy:以下SFOE)と契約を締結しました。
実のところ、9月の契約締結からビルアーでの商業運転開始まではわずか26週間しかかかりませんでした。GEガスパワーのエアロデリバティブ ビジネス担当ゼネラルマネージャー、アマン・ジョシは次のように説明します。「これほど大規模な発電所を、これほど短期間でゼロから構築できるメーカーは、おそらく世界でGEだけでしょう。半年前、ビルアーのこの敷地は広々とした駐車場だったのです。」
スイスのビルアーにあるGEマニュファクチャリングセンター外観。トップ画像:設置され稼働中の8台のトレーラーマウント型TM2500ガスタービン。画像提供:GEガスパワー。 動画提供:GEガスパワー
スイスにおいて停電のリスクは避けなければならないものです。同国は標高が高く常に厳しい寒さと共にあります。また銀行部門をはじめとしたスイス経済は非常に影響力が大きいため、電力供給が一時的にでも不安定になることは許されません。そのような背景もあり、スイス政府は氷点下で電力需要が急増する冬期には、これまでも特に警戒を強めてきました。しかし、とりわけウクライナ紛争以降、激しさを増しつつある市場の混乱と電力輸入の不透明感の影響から脱却することを目指し、スイス連邦政府は2022年夏、決定的な対応策を取り入れることにしました。
頼もしいバックアップ
締結された契約条件に基づき、GEは2026年までGE製発電機をスイスの送配電網に接続できることになりました。ジョシはこの点に関し、次のように説明します。「この発電所は毎日、毎時間、電力を供給するわけではなく、まさに必要なときに稼働させる予備発電所なのです。」直近の冬は無事に乗り越えつつありますが、スイス当局は、寒波の際にのしかかる暖房関連の電力需要に警戒を続けています。
ビルアーにあるGEマニュファクチャリングセンターが予備発電所の設置場所として理にかなっていたのは、天然ガスのパイプラインや鉄道、変電所などが近隣にあることからも明らかです。エンジニア、技術者、およびサポートスタッフからなる立ち上げチームは約20名から始まり、トレーラーで運び込まれる巨大な発電機を受け入れるための準備に取り掛かりました。彼らは基礎工事、水タンク、燃料タンク、変圧器などの搬入、そして送電網への高電圧接続工事などを行いました。すべての準備が完了した後、GEは一基約32MWの発電容量を備えたTM2500を8基、搬入したのです。
「はじめは20人だったチームがすぐに70人、200人と増え、ピーク時には500人がプロジェクトに参加しました」とビルアーにあるTRPP社のプロジェクトディレクターであるウルリッヒ・ウィーバーは振り返ります。作業中は、広大な駐車場で数多くのクレーンやトレーラー、フォークリフトがひしめき合い、まるでコンテナ港のような賑わいを見せました。現場は住宅地にも近いため、GEのエンジニアは現地の厳しい条件を満たすため、優れた騒音低減システムを取り入れました。
騒音低減のための現場での主な準備の一つが、敷地外周を囲む防音壁の高さを8メートルから20メートルにかさ上げすることでした。これにより、騒音が「図書館レベル」のデシベル値まで低下したとジョシは言います。ウィーバーも次のように説明しました。「実際、現場からの騒音はほとんど感じられないほどでした。クリスマスが近いということもあり、地元の人々はタービンのテストがいつ開始されるか興味があったようです。しかし、そのころにはすでに運転が始まっていて、誰にも気づかれませんでした。」
ボーイング747、767、エアバスA310などにも搭載されているGEのCF6ジェットエンジンのテクノロジーから生まれ、トレーラーマウントの略である「TM」と命名されたTM2500タービンについて「その名の通りトレーラートラックに積載して迅速に移送できるうえ、数日で設置できます」とジョシは説明します。TM2500は、設置が完了すればわずか5分で稼働して出力の増減が可能になるので、燃料のムダな消費を抑えることもできます。また燃料の天然ガスが不足した場合でもさまざまな種類の燃料で運転が可能で、ディーゼル燃料のほかに水素やSAF(持続可能な航空燃料)などがより入手可能になれば、これらを混合してさらに多くの種類の燃料で運用することも可能です。「これはスイス政府の戦略にも合致することです」とジョシは話しています。
スイスが大規模な非常用発電所を建設するのは初めてのことでもあったにもかかわらず、GEガスパワーのマネージャーとしてジョシはスイス当局の対応に感銘を受けたと言います。「SFOEとスイス連邦政府、地方政府のみなさんに感謝しています。私たちは、このプロジェクトを成功させることができるとは思っていましたが、それには規制当局の承認と各レベルでの調整が早急に進むことが不可欠でした。彼らがそのすべてを迅速に進めてくれたらこそ、このプロジェクトは実現したのです。」