
ビンの中の稲妻:電力貯蔵を変貌させるコンテナ
ジョアナ・ウェリントンは、一見すると輸送コンテナのようなものの横に立っています。しかし彼女の安全ゴーグルが、これが普通のコンテナと違うことを示しています。内部を見ると、多くのバッテリーと高性能な電子機器が並んでいます。このコンテナは、これまでで最もエネルギー密度が高い蓄電ソリューション「GEレザボア」の試作品であり、ここに積まれているのは電力なのです。
2016年以来、ウェリントンは、ニューヨーク州ニスカユナにあるGEのグローバル・リサーチ・センターで、電力貯蔵開発リーダーとして働いてきました。彼女は科学者と技術者から成るチームを率いて、電力貯蔵の未来を再考し、送電網の仕組みを変革する取り組みを行っています。
完成時のGEレザボアは、26トンのリチウムイオン電池、電子機器、環境制御装置で構成され、総電力容量は4メガワット時(MWh)となり、これらすべてが20 × 8平方フィート(キングサイズベッド4台分に相当)のコンテナに組み込まれています。これは、アメリカの135世帯に終日供給するのに十分な電力です。
では、誰がこのように大規模な蓄電池を必要とするのでしょうか。
「電力貯蔵というのは、万能なスイスアーミーナイフのようです。これによって新しいソリューションをたくさん思い描くことができます」(GE ジョアナ・ウェリントン) 画像提供:GE
電力革命
つい最近までは、誰も必要としていませんでした。事実、数年前まで電池と言えばテレビのリモコンに使う単3電池でした。しかし今ならリチウムイオン電池を思い浮かべるでしょう。ノートパソコンやスマートフォンに内蔵され、常に充電を必要とするやっかいな電源のことです。
しかし電池は、家電機器の電源として使用されるようになるずっと前、電気に関する初期の科学的研究を大いに活気づけました。電池にまつわる物語は、イタリアの科学者アレッサンドロ・ボルタが活躍した1800年に始まります。食塩水に紙を浸し、それを2種類の金属で挟むことで、ボルタは安定した確かな電流を初めて発生させました。このボルタ電堆は、史上初の電池となったのです。
ボルタの発明に影響を受け、数え切れない程多くの科学者と職人たちが電気の性質や用途の可能性について研究するようになりました。次の半世紀には、ボルタのオリジナル設計をもとにした電池の活用により、水の元素組成の発見、初の人工灯の開発、初の電動機への電力供給が実現しました。起業家たちは電源としての電池の実用化を目指しましたが、その道のりは困難でした。電池駆動式の自動車、機関車、船舶をつくろうという初期の取り組みは、みじめな失敗に終わったのです。
1837年の電信の発明により、ついに電池が実用化されました。19世紀半ばになると、世界中の電信技師たちは日々配達される電池を電源として使用し、巨大な通信網を通じて電報を打っていました。電灯の電源にも、このような「配達」システムが利用されていたようです。
1882年、エジソンの中央発電所「パール・ストリート・ステーション」開設により、この仕組みは終わりを迎えました。パール・ストリートの開設以来、世界中の電力系統は需要と供給が瞬時に一致するよう設計されています。それでも、エジソン自身は蓄電池を組み込んだ送電網の構築を考えていました。1879年、有名な白熱電球の特許を取ったのと同じ年に、エジソンは電力利用者の家庭や職場に2つの蓄電池を設置するシステムを考案しました。これにより、一方の蓄電池が電気を供給している間、もう一方の蓄電池は中央発電所から充電できるようになったのです。
しかし、このシステムはエジソンの期待に添うものではありませんでした。1893年、彼は取材記者にこう言っています。「私個人の意見としては、この蓄電池は見かけが立派なだけで、仕組みは電池会社による詐欺のようなものです。科学的に見て、蓄電に問題がないとしても、商業的にはご想像通り全くの失敗です」
「あの20フィートの輸送コンテナの蓄電容量は、ほんの数年前であれば70フィートの建物を建てる必要があったでしょう」とGEのジョアナ・ウェリントンは述べている。画像提供:GE
再生可能エネルギーの好機
時代が1世紀ほど進むと、再生可能エネルギーの発電における画期的な進歩により、送電網規模の電力貯蔵がようやく人々の関心を集めるようになりました。太陽や風といった再生可能エネルギーの価格は大幅に下落し、その上、これらのエネルギー源は温室効果ガスをほとんど排出しません。当然ながら、米国では再生可能エネルギー源から生み出された電力のシェアが急速に拡大し、2016年から2017年までの1年間だけで15パーセント上昇しました。
とはいえ、再生可能エネルギーに問題がないわけではありません。風力発電施設や太陽光発電所の出力を電力生産者が緻密に制御することは不可能で、風が吹いているとき、太陽が照っているときにだけ稼働します。しかし、電力需要が低いときに太陽が照っていると、電力生産者はソーラーパネルを送電網から切り離さなければなりません(出力抑制のため)。このような変動性があることから、電力生産者は予期せぬ短期的な需要急増に備え、天然ガスタービンなどの従来型の発電施設を稼働し続けなければならず、発電することなく燃料を消費することを余儀なくされるのです。
電力貯蔵の可能性を実現する
近年のリチウムイオン電池技術の進歩は、送電網規模の電力貯蔵の実現に必要な最後のパズルピースと言えるものでした。先ほどのグローバル・リサーチ・センターでは、ウェリントンがレザボアの試作ユニットを指し、こう言って微笑みます。「あの20フィートの輸送コンテナが持つ蓄電容量を満たすためには、ほんの数年前であれば70フィートの建物を建てる必要があったでしょう」
レザボアのチーフ・エンジニアであるケン・ラッシュは、グローバル・リサーチ・センターが開発工程に与えた影響を強調します。レザボアチームは、設計工程でパワーエレクトロニクス、エッジコンピューティング、マテリアル・サイエンスの専門家と共に取り組みました。「このような頭脳集団の協力を得られたことは、私たちにとって非常に素晴らしい機会でした」と彼は言います。
GEは、レザボアを送電網に統合することによって、断続的に発生する再生可能エネルギーを「常時再生可能」にできることを期待しています。かつて需要低下時に出力抑制を行っていた電力は、レザボアに蓄電することができ、需要がピークに達すると放電されます。
未来を見据えるGEの科学者たちは、レザボアによって現在の送電網を改善する方法をすでに模索しています。昨年、南カリフォルニア・エジソン社(SCE)とGEは世界初のモデルを公開しました。追加の蓄電池を設置することで、SCEは燃料を必要とせずにタービンをスタンバイモードにしておくことができるようになりました。需要が急増すると瞬時に予備蓄電池から電力が供給され、タービンが素早く回転します。レザボアの新技術は、これらのハイブリッドシステムを改善するものです。
GEパワーのエナジー・ストレージ事業部のCEOであるロブ・モーガンによると、レザボアは「より安全で、高密度、高効率、長い寿命」という、電力生産者向けのシンプルなソリューションです。厳密に言うと、他の送電網規模の蓄電ソリューションに比べて効率が5%良く、費用対効果は10%改善します。内蔵されているパワーエレクトロニクス機器は、電池寿命を最大化し、確実に安全な動作をするよう設計されています。そのモジュール設計により、電力生産者は技術の進歩向上に合わせてバッテリーをアップグレードすることができます。専有面積が小さく、接続すればすぐに利用できるため、電力源近くに貯蔵することも可能です。
ジョアナ・ウェリントンにとって、これは始まりに過ぎません。「電力貯蔵というのは、万能なスイスアーミーナイフのようなものです。これによって新しいソリューションをたくさん思い描くことができます」と彼女は言います。