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内部を調べる:Sensiwormの複雑な動きでエンジンを機体から外さず検査可能に

クリス・ノリス

GE Aerospace Researchの新しいSensiwormは、ジェットエンジン内の奥深くを動き回り、入り組んだカーブや、でこぼこした表面も巧みに乗り越えます。エンジニアリングの驚異的な勝利というよりも、不気味なほど生命体に近いもののように見えますが、そう見えることは偶然ではありません。Sensiwormは文字通りgroundbreaking(画期的)な、地面(ground)に潜り込む(breaking)ミミズのようなロボット「Pipe-worm」をベースに、Aerospace Researchロボティクスチームが開発したからです。この新しいSensiworm(Soft ElectroNics Skin-Innervated robot wormの略)は、ミミズに着想を得た、空気圧で制御される「ソフトロボット」の強度と自律性を、航空宇宙サービスを手掛ける事業者の目、耳、鼻孔、指先として機能する長さ数インチのデバイスにもたらしました。

「この種の検査のためにこれまで使用されてきたツールといえば、ボアスコープでしょう。そうしたデバイスは紐のような構成のため、水を吸った麺を配管に通すように内部へ押し込む必要がありました」と説明するのはGE Aerospace Researchのプリンシパル ロボットエンジニアを務めるディーパク・トリヴェディです。彼はGEのソフトロボティック技術にこの数年間取り組んできました。Sensiwormは新たに開発された運動機能を利用して、自ら表面をグリップし、周囲を探索し、内部ネットワークをマッピングしながら自走します。最終的には、これによりオンウィング(機体にエンジンを搭載した状態)でのエンジンの稼働時間を長期化することが可能となり、メンテナンス時の所要時間を短縮できる可能性があります。

Sensiwormは、その名前が示すように、非常に応答性の高いセンシングモダリティを備えています。トリヴェディは次にように説明します。「何か物体に触れたことを感じ取ることができる電子皮膚を搭載しています。これにより、移動時に自らが触れた表面の状態を感じ取り、点検中や修理中に異常個所を検出することができます。」

なぜこのようなことができるのでしょうか?トリヴェディは、GE Aerospaceがハイブリッド・エレクトロニクスの技術革新を推進する業界主導の官民パートナーシップであるSEMI Flex Techと、アメリカ陸軍研究所の助成金と支援を受けて開発した「伸縮性のあるエレクトロニクス(stretchable electronics)」を高く評価しています。また、GE Aerospaceはニューヨーク州立大学ビンガムトン校のエレクトロニクス・エンジニアリング・センターや、高度な技術に関して商業および軍事パートナーと協力するオハイオ州を拠点とする研究開発企業UES Inc.とも提携しました。

Sensiwormは、弾力のある高導電性ポリマーが印刷された伸縮性のある電子皮膚で覆われています。トリヴェディは次にように説明します。「このロボットのカメラは伸縮性のある回路で接続されており、電子皮膚自体がマルチパラメーター共鳴センサーになっています。ビデオフィードの送信、周囲の探索、さまざまな周波数に同調など、多くのことを同時に実行できるということです。そのため、オペレーターが通常チェックするようなデータ、たとえばコーティングが剝がれた箇所、損傷した部品、電力や信号の送信具合をリアルタイムで検知し、データを提供することができます。」

Sensiwormロボット(この写真はそのプロトタイプです)は、将来オンウィングでの検査を可能にし、さらには修理も実施できるようになると構想されています。画像提供: GE Aerospace Research

とはいえ、非侵襲手術(体を傷つけないように行う手術)ですらSensiwormのようなテクノロジーは導入していないため、独自の課題を克服する必要があります。トリヴェディは次にように説明します。「第一に、ジェットエンジン内の過酷な環境を自らが把握する必要があります。ジェットエンジンは『非常に開口部が小さく、内部も複雑で狭く、入り組んでおり、しばしば天地逆の経路』を通らなければならないからです。第二に、自身の躯体が頑丈過ぎない性質を保持しなければなりません。『周りを傷つけないこと』が私たちにとって非常に重要な合言葉でした。ソフトロボットのプロトタイプには、曲げられない部品や硬質な部品が用いられていません。そのため、内部で詰まったり破損したりしても、エンジンを始動する際のリスクは最小限に抑えられるのです。」

航空宇宙関連サービスには潜在的に高い価値があるため、ソフトロボティクスなどへの投資が正当化され、結果として既存のプロセスを合理化できれば数百万ドルという単位でコストカットすることが可能となります。現時点では、メンテナンスチームは手動でボアスコープを操作する必要がありますが、手の届きにくい部品を検査するには限界があります。トリヴェディは次にように説明します。「その代わりに、Sensiwormにプログラムを施すことで、そうした箇所に到達し、その周囲を動き回って検査し、次の箇所に進むようにできるはずです。ゆくゆくは、目的の箇所の検査を自動化できるようになります。」

実際に、Sensiworm はオンウィングでの検査を可能にするだけでなく、最終的には修理を実行することも想定されています。トリヴェディはこのデバイスが、たとえば現在の技術ではエンジン部品の劣化を早める事象であるサーマルコーティングの欠落の箇所を検出するだけでなく、実際に新しいコーティングを付着させたり分泌させたりして、修理そのものを実行するような将来シナリオも想定しています。

 

「私たちが探究してきたことは正にこれなのです」とソフトロボット工学の数少ない先駆者の一人であるトリヴェディは語ります。彼がこの分野への第一歩を踏み出したのは、ペンシルベニア州立大学工学部の指導教官から、象の鼻ロボットの開発を任されたときでした。彼はつぎのように振り返ります。「当時は『ソフトロボティクス』という用語はありませんでした。それが今では、ソフトロボットに関するカンファレンスや、Soft Roboticsと呼ばれるジャーナル誌も発行されています。」GEでの最初の6年間を他の分野で過ごした後、彼は自分のルーツに戻ってきたと言えるかもしれません。

トリヴェディは、Sensiwormが匂いを検知して移動する様子を観察した、最近の経験を思い出します。実際のミミズがその環境をどのように移動するかを研究した後、彼のチームは化学センサーを一つのデバイスに組み込み、漏出した化学物質に向かって進む様を観察しました。「それは私たちが予想していたよりも、さらに生物学的な動きをしていました」と彼は語ります。ロボットワームは左に曲がり、次に右に曲がり、彼らが設定したガス漏れの発生源に到達するまで、指示がなかったにもかかわらず経路を探りました。彼は笑いながら「私たちは皆、ロボットが自ら進路を見つけ出す速さに感銘を受けました。でも実のところ、虫が這いまわるようで不気味にも見えましたよ」と語りました。

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