
イン・ザ・マネー:フロリダ州の企業がGEの最新ガスタービンで3億米ドルを節減
今から1世紀以上前、エンジニアのサンフォード・モスがGE初のガスタービンを開発したとき、事は計画通りには進みませんでした。このガスタービンは燃料を食う割に、出力が小さかったため、モスは設計を棚上げするしかありませんでした。しかし、第一次世界大戦が勃発すると、米国の航空諮問委員会(航空宇宙局[NASA]の前身)が、このガスタービンに目をつけました。この装置を利用し、航空機のエンジンに過給して出力を上げれば、制空権を手にすることができると考えたのです。この新たな応用法を機に、GEは航空産業という新たな事業に踏み出すことにもなりました。
モスの革新の精神はガスタービンと共に、GEのガス発電向け設備の製造・保全事業部門であるGEパワーで生き続けています。モスの画期的な発明から116年が過ぎた今、GEパワーのエンジニアたちは最新の研究と技術を活用し、コンバインドサイクル発電所の発電効率を64%以上に押し上げる可能性のある超高効率ガスタービンの開発に取り組んでいます。
では、64%とはどれくらいなのでしょうか?ほんの10年前には、発電効率が60%を超えるのは、音速の壁を破る、あるいは1マイル(1.6キロ)を4分で走ることと同じレベルの偉業だと考えられていました。しかし、2014年に状況は変わり始めます。GEが超高効率のHAガスタービンシリーズ(Hはhigh-efficiency=高効率、Aはair-cooled=空冷式を表す)を発売すると、新記録が次々と打ち立てられるようになったのです。
このシリーズで、GEは2つのモデルを開発しました。一つは米国などの60Hz向けの7HA、もう一つは欧州などの50Hz向けの9HAです。2016年、9HAガスタービンを初めて導入したフランスのEDFブシャン火力発電所が、送電端効率62.22%を記録し、世界最高効率を達成しました。その2年後には、7HAガスタービンを導入した日本の中部電力(現JERA)西名古屋火力発電所が発電端効率63.08%を達成しました。
この技術の最新モデルは「7HA.03」と名付けられ、さらに高いレベルを目指しています。GEは先頃、このモデルの最初の2基が、フロリダ州フォートローダーデール近郊にあるフロリダ・パワー&ライト・カンパニー(FPL)のダニアビーチ・エネルギー・センターに納入されると発表しました。この極めて効率の高いガスタービンは430MWの単体出力を誇り、これによってFPLは、天然ガス1立方フィート(0.03㎥)から発電できる電力がGEの先行機種7HA.02と比べて0.4%増え、年間100万米ドルのガス使用料を節減できる見込みです。(HAの排気エネルギーを利用する蒸気タービンと合わせれば、同発電所の発電能力は1,282MWに達し、これは米国の約100万世帯が必要とする電力に相当します)ガス価格が大幅に高いアジアでは、前の7HA.02型と比べて400万米ドル近くを節減できる可能性があります。
GEはプレスリリース内で、FPLの新発電所は「ライフサイクル全体を通して3億米ドル以上のコストを削減できるなど、FPLにとっても大きな経済効果があります。また、古い発電設備を更新することで、大気中への有害物質の排出量を大幅に削減することにもなります」と説明しています。
改良された7HA.03ガスタービンは、「ライフサイクル全体を通して3億米ドル以上のコストを削減できるなど、
顧客のFPLにとっても大きな経済効果があります。また、古い発電設備を更新することで、
大気への有害物質の排出量を大幅に削減することにもなります」とGEはいいます。画像提供:GEパワー
メリットは他にもあります。このガスタービンは、起動後わずか10分で定格出力に達するため、風が止んだり太陽が陰ったりして再生可能電力の発電量が急に落ち込んだときでも、すぐに不足を補うことができるのです。
なぜそのようなことができるのでしょうか?第一に、このガスタービンはGEのチタン製圧縮機ブレードの導入経験を活用することにより、吸込み空気量を増やして出力を高めることが可能になっています。さらに、性能向上、排出量低減、燃料柔軟性の向上を図るため、GE最大のガスタービン9HAで採用された燃料混合技術を導入しており、水素などの各種代替燃料を混合して運用することも可能です。
柔軟性は、近年、新たに重要視されるポイントでもあります。新型の混合システムにより、7HA.03は排出量規制に準拠した状態のまま、定格出力から30%まで出力を下げることができます。自動車のアクセルのように働くガスタービンを想像してみてください。制限速度が上がったときや、上り坂を走るときにアクセルを踏み込むと、車を動かすのに必要な出力とエネルギーが生成されます。一方、下り坂を惰性で下ったり、信号待ちでアイドリングしたりするときは、アクセルから足を外して、ガソリンの浪費などを防ぐ必要があります。この概念は「ターンダウン」と呼ばれ、GEの7HA.03はその限界を引き上げました。このような柔軟性は、送電網において間欠性のある再生可能電力の割合が高い市場で特に重要です。逆に言えば、風が止んだとき(あるいは電力需要が急増したとき)にガスタービンが素早く助けに入り、毎分75MW以上(前モデルに比べ25%増)の速さで電力を系統に供給することができます。
HA技術に関する最近のニュースは、7HA.03だけではありません。GEは先月、100基目のHAガスタービンを受注したとの発表も行いました。現在、世界中で40基のHAユニットが商用稼動し、18GWの電力(米国の1,350万世帯以上が必要とする電力に相当)を供給しています。GEのHAガスタービンは総運転時間が41万5,000時間を超え、これまでに18カ国の40社から合計100基の受注を獲得しています。