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水素で空を飛ぶ:エアバスとCFM、水素燃料の実証実験でパートナーシップを締結

ウィル・パルマー

航空業界の脱炭素化に向けた開発が加速しています。今週、エアバス社とCFMインターナショナル社は、水素を燃料とする航空機エンジンの実証実験に向けたパートナーシップを締結したことを明らかにしました。

脱炭素化の技術開発には時間がかかるのが一般的ですが、今回パートナーシップを締結した両社はすぐに作業を始め、水素を燃料として使用した最初の試験飛行を2025年ごろに実施することを目標にしています。この実証実験がすべて計画どおりに進んだ場合、2030年代半ばには、フライト中にCO2を排出せずに乗客を運ぶ航空機が実現する可能性があります。

フランスに本拠地を構える航空機メーカーのエアバスは2020年9月、水素で航空機を飛ばす「ZEROe」プログラムと名付けられた計画を初めて明らかにしました。同時に、エアバスは水素を主要燃料とする3つのコンセプト機を発表し、ギヨーム・フォーリー(Guillaume Faury)エアバスCEOは次のように述べました。「これらのコンセプトは、温室効果ガス排出ネットゼロに向けた世界初の民間航空機の設計およびレイアウトの研究開発とその成長のための計画です。また、2035年までの就航を目指しています。」

CFMインターナショナルはGEとサフラン・エアクラフト・エンジン社が50:50で共同出資している合弁会社です。

水素は宇宙で最も豊富な元素で、燃焼してもCO2を排出しません。そのため、CO2排出を抑制するという人類の目標を実現するための有力な味方のひとつになると考えられ、長い間注目されているエネルギーです。

ジェットエンジンの燃焼器で水素燃料が燃焼する様子を示すレンダリング。トップ画像:今回の水素燃焼実証実験に用いられ、改良されるGE Passportエンジンの分解図。画像提供:CFMインターナショナル

しかし、水素を航空燃料として利用するために乗り越えるハードルは恐ろしく高いと言えます。GEアビエーションで水素エンジンシステム実証プログラムのリーダーを担うショーン・ビニオン(Sean Binion)は、そのハードルの高さを初期の宇宙産業が直面したものと似ていると捉えています。「技術開発という一面だけでなく、運用手法の確立、新しいインフラの構築、そして最後の難関となる製品の認証に至るまで、いずれも極めて現実的な課題が立ちはだかります。今回のように、課題解決に協力しようと意気込む各社のパートナーシップなしに乗り越えることは不可能でしょう」と彼は話しています。

GEアビエーションとサフラン・エアクラフト・エンジンの混成チームに集まったエンジニアはすでに100名を数え、さらに増える見通しです。彼らは実証試験に用いるGE Passportジェットエンジンの改良に取り組んでいます。その内容は、液体水素燃料の利用が可能になるよう、燃焼器、燃料システム、および制御システムを完全にオーバーホールすることです。エンジニア陣が試験用エンジンとしてPassportエンジンを選定した理由は、エンジンのサイズ、高度なターボ機能、そしてフライトプラットフォームに適した圧力と温度で動作することが挙げられます。

2025年ごろにテストフライトの段階に移行する際には、今回開発される改良型エンジンを世界最大の民間旅客機エアバスA380に搭載する予定です。その位置ですが、A380がすでに搭載している翼下のエンジン4基とは別に、胴体後部の上に独立して配置されます。この位置に搭載することで、改良型水素推進エンジンからの排ガスや排出物を、A380が元から搭載するエンジンの排ガスとは区別して検証できるようになります。

アビオ・エアロで水素プログラムの欧州システムリーダーを担うマッシモ・ヴァリアーニ(Massimo Varriani)は、「このプロジェクトの目的はこの技術を実証することです」と言い、完成したプロトタイプは、異なるサイズのエンジンや異なるタイプの機体にも拡張可能なものになると説明します。最終的には、エアバス社の「ZEROe」と名付けられたコンセプト航空機3種も含まれる見通しです。3種類はそれぞれターボファンエンジンタイプ、ターボプロップエンジンタイプ、そして近未来的なブレンデッドウィングボディタイプです。さらに「重要なのは、水素だけを燃焼させるエンジンで飛行できること、航空機の機内に水素を貯蔵・搭載できること、そして水素燃料をその特性を踏まえてエンジンに供給できることを実証するのです」とヴァリアーニは説明します。

機内に水素を搭載して飛行するためには、もうひとつの大きな技術的課題である「温度差」も克服しなければなりません。水素はもともと気体として存在するため、仮に気体のままジェット機の飛行に十分な量の燃料として搭載するとなると、機体よりも大きな貯蔵スペースが必要になってしまいます。そのため、液体の状態で貯蔵する必要があり、マイナス253℃程度の極低温まで冷却しなければならないのです。その液体水素を気化させて燃料にするわけですが、これが意味するのは、気化する際にエンジンの特定の部位によっては約816℃もの温度差が生じる可能性があるということです。

そうした課題も織り込んだ開発は簡単ではありませんが、開発チームは課題を乗り越えられると確信しつつ、ビニオンは次のように語ります。「CFMはパートナー企業と協働して空の旅の脱炭素化に取り組んでいます。各チームはこのプロジェクトの成功に情熱を注いでおり、エキサイティングで技術者冥利に尽きる経験を味わっています。私たちはサステナブルな新しい空の旅のカギとなる技術を具体的に生み出し、開発を進めているのです。」

2021年10月、Air Transport Action Group(ATAG:航空業界のサステナビリティを推進するグローバル連合)は、2050年までにCO2排出量をネットゼロにするという世界の航空業界におけるコミットメントを確認し、それを実現するためのテクノロジーの開発に協力することを発表しました。CFMとエアバスは、この取り決めに署名した企業として、近年、意欲的な計画を次々と展開しています。

その一例としては、2021年6月に発表されたCFMのRISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engines)プログラムがあります。これは、従来のジェット燃料を使うジェットエンジンの中で現在最も高効率なタイプと比較しても、燃料消費量を20%以上改善し、CO2排出量を20%以上削減するエンジンを開発することを目指しています。そのうえ、今回のCFMとエアバスによる水素燃焼実証実験の一環として開発される新たな水素テクノロジーを使用可能な構造にすることで、飛行中のCO2排出量をゼロにすることを想定しているのです。

一方、再生可能なバイオマスや廃棄物から作られるSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の利用も本格的に始まっています。昨年10月、エティハド航空は既存の技術も数多く活用した上でSAF混合燃料を使ってロンドンからアブダビまでの長距離フライト(約5,500km)を行いました。そして、このフライトのCO2排出量を2019年の同条件のフライトに比べて72%削減することに成功しました。さらに昨年12月には、ユナイテッド航空がボーイング737 MAX 8が搭載するCFM LEAP-1Bエンジン2基のうち1基にSAFを100%使用し、乗客を乗せた飛行機として世界初のフライトを運航しました。

とはいえ、航空各社が保有機で水素を利用するには、より多くの水素を生産するための協調的な取り組みも必要です。水素を生産するために使用する電力が風力や太陽光などに由来する場合、再生可能エネルギーのさらなる活用につながります。幸いなことに、GEガスパワーのタービンは水素利用に関してすでに長年の実績を誇っています。GEガスパワーのタービンは、最近の実証プロジェクトで利用されているグリーン水素も含め、天然ガスと水素の混合燃料で800万時間以上の稼働実績を積み上げているのです。これらのプロジェクトで得られた知識や経験は、GE社内だけでなくパートナーシップとの事業でも培われ、共有されています。この積み重ねがあるからこそ、楽観的に今後の見通しが立てられるのだとビニオンは話しています。

CFMインターナショナル社長兼CEOのガエル・メフィスト(Gaël Méheust)もこれに同意し、次のように述べています。「私たちCFMやその親会社、そしてエアバスの能力と経験を結集することでドリームチームができました。水素活用推進システムの実証試験も成功することでしょう。」

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