
RISEはいかにして生まれたか:歴史の転機を招いたCFM、その数十年にわたるイノベーションの裏側
メアリー・L・デュディ
1941年、米国政府はGEに同国初のジェットエンジンの開発を依頼しました。その当時の連合国の防衛力、産業界の協力体制、技術開発力、そして経済成長力は危機に瀕していましたが、GEは翌年、ジェットエンジンを完成させ、約束を果たしました。
それから80年以上経った今、GE Aerospaceは新たな時代の幕開けとなる瞬間にふたたび直面しています。気候変動が世界中のコミュニティや経済に影響を及ぼす中、航空宇宙産業はまるで地殻変動のような変化の真っ只中にあるからです。
気候変動が及ぼす課題に対応するため、2021年、GE Aerospaceとサフラン・エアクラフト・エンジンが50:50で共同出資している合弁会社であるCFMインターナショナルは「RISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engines)」プログラムの立ち上げを発表しました。CFM RISEプログラムの掲げる目標は、従来のジェット燃料を使うジェットエンジンの中で、現在最も高効率なタイプと比較しても燃料消費量を20%削減し、CO2排出量も20%削減するというものです。エンジン効率の向上は、航空産業が2050年までにCO2排出量をネットゼロにするという、より大きな目標を達成するための鍵ともなります。
GE Aerospace先端技術担当ゼネラルマネージャーを務めるアルヤン・ヘーゲマン。画像提供:GE Aerospace トップ画像:CFM RISEオープンローター設計コンセプトのプロトタイプ。画像提供:CFMインターナショナル
サステナビリティという観点からいえば、これは大胆な目標です。しかし、GE Aerospace先端技術担当ゼネラルマネージャーを務めるアルヤン・ヘーゲマンは最近、「我々が正しい側にいるかどうかは歴史が判断するだろう」と発言しています。
現時点においても緊急性が高いCFM RISEプログラムは、何十年もかけてその基礎が築かれてきました。オープンローターエンジン・アーキテクチャ、カーボンファイバー複合材、セラミックマトリックス複合材、アディティブ・テクノロジーなど、プログラムの核となるイノベーションに富んだ各テクノロジーとも、長年にわたる綿密な研究、テスト、検証の積み重ねがもたらした成果なのです。
今後のCFM RISEプログラムでも活用され、過去の先進技術の中でも特筆される技術の一つが可変ピッチエンジン設計です。可変ピッチファンブレードが初めて試作されたのは、1978年にGEがNASAと協力したQCSEE(Quiet Clean Short-Haul Experimental Engine)計画においてエンジンを開発した時に遡ります。QCSEEエンジンは当時としては前例のない11:1の超高バイパス比エンジンとして開発されました。このバイパス比が意味するのは燃焼室を通過する空気1単位に対して11単位がエンジンを通過するということです。(バイパス比とは、ローターまたはファンが発生させる推力と、ローターを駆動するのに必要なエネルギー量の関係を表します)。QCSEEエンジンの11:1のバイパス比は、当時としては高効率でした。
1978年、GEとNASAが開発した超高バイパスエンジンであるQCSEEエンジン。画像提供:GE Aerospace
RISEプログラムの核となる技術的イノベーションとして挙げられるのが1980年代にGEとサフランが初めて開発した「アンダクテッドファン(unducted fan)」としても知られるオープンローター・アーキテクチャです。オープンローター技術という名称は、ローターを覆うケースがないことに由来しています。この構造により、エンジンは従来のターボファンで得られる速度と性能を犠牲にすることなく、燃焼効率をさらに向上させ、CO2排出量を削減することができます。1988年のファンボロー航空ショーで実験エンジンであるGE36が初めて展示され、完全に露出した互いに逆方向に回転する2組のファンブレードが話題を呼びました。
CFM RISE プログラムが展開するシングルステージ、可変ピッチ、固定式のアウトレットガイドベーン付きデモンストレーターエンジンは、GE AerospaceとサフランがQCSEEエンジンおよびGE36の実験エンジンプログラムで開発したイノベーションをベースにしています。前方に位置する1組の可変ピッチファンブレードが回転する間、2組目のアウトレットガイドベーンが気流を導くのに役立ちます。
GEとサフランが1980年代に開発したGE36エンジン。画像提供:GE Aerospace
RISEプログラムでこの技術をさらに発展させるためにGE Aerospaceが行った努力について、ヘーゲマンは次のように指摘しています。「(オープンローターエンジンが)どのように動くかを理解するための精度と能力が私たちにはあります。また、私たちは全体的な設計もさらに最適化することができました。そのため、性能目標だけでなく排気騒音目標も同時に達成でき、より小さな直径の固定式アウトレットガイドベーンを備えたシングルステージファンの開発に進むことが可能になりました。」
こうして開発されたオープンローターエンジンは燃料効率が向上し、排出ガスが低減され、低騒音で、ターボファンの回転速度も増加しました。ヘーゲマンはこの成果について次のように説明します。「重要なのはバイパス比でした。つまり、物理の法則がものを言い、その通りになるわけです。ローターの周りにダクトがあると、ファン駆動時にこの水準の効率を得ることができないのです。」
こうしてオープンローター技術を採り入れた実験用エンジンのGE36は大幅な燃料節減を実現しました。ですが、1980年代後半には燃料価格が大幅に下落したことから開発は中止に追い込まれました。その後も同エンジンが商業的に使用されることはなかったものの、このエンジンが開拓した技術は、その後30年にわたって航空機開発のパイオニアとなりました。例えば、炭素繊維複合材ファンブレードは、GE90、GEnx、GE9XなどのGE Aerospaceの高バイパス比ジェットエンジン群の誕生につながりました。これらのエンジンは、ボーイング777、787ドリームライナー、777Xの搭載エンジンにも選定され、航空機メーカーが高効率な双発長距離ジェット機を開発し、製造することに貢献したのです。
1995年に商用運航を開始したGE90エンジンは、軽量な炭素繊維複合材ファンブレードを採用した初の商用ジェットエンジンとして認証され、軽量化と燃料効率の大幅な向上を実現しました。それ以来、GE製ジェットエンジンは複合材ファンブレードをつかって2億時間以上の飛行時間を積み重ねています。(一口メモ:その後開発された派生型のGE90-115Bエンジンは、2002年に推力127,900ポンドを発生し、世界最強の民間航空機エンジンとして当時のギネス世界記録を樹立しました。その後、2019年にGEの次世代エンジンであるGE9Xがテストスタンドで134,300ポンドを達成したことでこの記録は塗り替えられました。)
GE90エンジンは1990年代半ばのモデルで、軽量な炭素繊維複合材ファンブレードを採用した初の商用ジェットエンジンとして認証されました。画像提供:GE Aerospace
しかし、より大きくて軽量なファンを開発することだけがエンジンの効率を高める唯一の方法ではありません。「ローターを少し大きくするに従って、ローターを覆うケーシングも大きくする必要があるため、空気抵抗も少しずつ増えてしまうのです」とヘーゲマンは指摘します。
そのため、CFM RISE開発チームはオープンローター設計と炭素繊維複合ファンブレードに加え、エンジンのコア部分、つまりコンプレッサー、燃焼器、タービンおよび燃料のエネルギーを効率的な回転運動に変換するその他のコンポーネントを保持するセクションの改良にフォーカスを当てています。そのために、CFM LEAPエンジンとGE9Xエンジンの両エンジン内部で実証されている画期的な素材、セラミックマトリックス複合材料(以下CMC)を採用しています。GE Aerospaceが過去10年間に開発したCMC部品の利点は、重量は鉄を使用した場合の3分の1に抑えられる一方、多くの先進的な金属超合金の融点を超える約1,316℃の高温にも耐えられることです。
さらに、CFM LEAPエンジンが2016年に運航を開始した際、民間航空機エンジンのホットセクション(高温部分)にCMCと金属3Dプリンティング技術で製造されたアディティブパーツが初めて採用されました。これらの部品は、従来から製造されている金属部品よりも軽量で強度が高く、耐熱性と耐損傷性に優れているため、前世代型に比べ、LEAPエンジンの燃費効率を15%向上させることに成功しました。
2016年に運航を開始したCFM LEAPエンジンは、民間航空機用ジェットエンジンのホットセクションにCMCと金属3Dプリンティング技術で製造されたアディティブ部品を初めて採用したエンジンです。画像提供:CFMインターナショナル
その後もLEAPエンジンから着想を得る形で、RISEプログラムに取り組むエンジニアたちは、よりコンパクトなエンジンコアを製造する手法を研究しています。2021年後半に発表されたNASAとの別の数百万ドル規模のパートナーシップを通じて、GE Aerospaceは熱効率を向上させるためのコンプレッサー、燃焼器、高圧タービン技術などの新しいジェットエンジンコア設計をテストし、成熟度を高める契約を締結しました。
昨年、GE Aerospaceは再びNASAと協力し、メガワット級、マルチキロボルト対応ハイブリッド電気推進システムにて、初めて約13,700mまでの高高度条件をシミュレートした条件下で動作させるテストを実施しました。GE Aerospaceは、電気モーターや発電機、コンバーターに関する専門知識を土台としつつ、ハイブリッド電気推進システムの開発に10年以上を費やしてきました。さらに、GE Aerospaceは今後5年間で総額2億6千万ドルが投じられるNASAの電動パワートレイン飛行実証(EPFD: Electrified Powertrain Flight Demonstration)プロジェクトの一翼として、ハイブリッド電気推進システムのテストを継続し、2020年代半ばまでに地上試験とテスト飛行を実施することを目指しています。さらにCFM RISEプログラムでは、オープンローターコンセプトにこのハイブリッド電気推進機能を融合することで、エンジン効率をより最適化し、CO2排出量を削減する予定です。
2016年、GE Aerospaceの電気モーター/発電機がテストスタンドに据え付けた11フィート(約3.35メートル)のプロペラに給電しました。画像提供:GE Aerospace
以上のような素晴らしいエンジニアリングのノウハウすべてを動かしているもの、それは気候変動です。民間航空機は急増しつつあり、近い将来、ナローボディ機が70%を占めるようになると見込まれています。そして現状の、世界のCO2排出量のうち、航空産業が占める割合は約2%です。
気候変動への対応が急務であること、正にこのことが、CFM RISEプログラムの開発力に喫緊性が求められると同時にエキサイティングであることの説明にもなります。ヘーゲマンも次のように説明します。「私たちは気候変動によって、例えば炭素ベースの燃料であれ、合成燃料であれ、バイオマス燃料であれ、あるいは水素のような完全な代替燃料であれ、燃料のコストが時間とともに上昇することは間違いないと考えています。したがって、燃焼効率の改善に投資することは、地球と次の世代にとって正しい選択であるだけでなく、事業者にとっても、これまで以上に経済的な差別化要因になってくることでしょう。」
RISEプログラムの背景にあるテクノロジーについては、こちらのタイムラインをご覧ください。また、パイロットでありYouTubeで人気を博しているペター・ホルンフェルト(Petter Hörnfeldt)氏のMentour Now!チャンネル内のオープンローターとRISEプログラムについての動画もお見逃しなく。GE Reportsではホーンフェルト氏についての記事を掲載しています。