
航空会社のニーズにリーン方式で応えるGEのオンウィングサポート
ジェイ・ストウ
シンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港の南端に位置し、約6,400㎡とサッカーコートと同じくらい広大なエンジン工場内では、GE Aerospaceの整備士と産学協同の大学生グループがGEnxエンジンの周りに集まっていました。エンジニアがプロトタイプの超音波レンチの使い方のデモンストレーションをしているのです。メカニックらが覗き込んで観察するなか、エンジニアは振動レンチを動作させて専用の特殊ボルトを緩めます。ボルトは慎重に扱わないとエンジンの燃焼ケース内のパーツを損傷する可能性があります。このパーツは米ドルで6ケタ(日本円で1千万円以上)ある高価なものなので「ボルトを緩めるときは細心の注意が必要です」とサイトリーダーを務めるニック・ヤヌッチは語ります。
ここで働くメカニックたちは、シンシナティ郊外にあるGE Aerospaceのオンウィングサポート(On Wing Support:機体にエンジンを搭載した状態での整備、以下OWS)施設で航空機エンジンの整備を担うチームメンバーです。OWS施設はお客様の保有機のエンジンメンテナンスと修理を担うためにロンドン、ドバイ、ソウル、上海など世界中に8カ所展開されており、シンシナティもその1つです。各地の整備チームが何よりも重視するのは、優れた安全性と保守サービス品質を確保した上で、迅速な対応力も発揮することです。修理の緊急度やレベルに応じて、一部のチームメンバーは工場内でオフウィング(off-wing:機体からエンジンを外した状態)でエンジン整備を担い、他のメンバーは現場に赴き、オンウィングのエンジン整備を担当します。
ヤヌッチはOWSチームに所属する航空整備士(A&P:Airframe and Powerplant)資格を保有しているメカニックについて次のように語ります。「私たちは自分たちの任務とそのやり方にプライドを持っています。しかし、多くの人は私たちの存在すら意識することはないでしょう。」
作業区画に吊り下げられたGEnx エンジンを下へ下ろす技術者たち。トップ画像: GEnxエンジン 画像提供: GE Aerospace
頻繁に空を飛ぶ乗客にとってはそうかもしれませんが、航空会社にとっては欠かせない存在です。AOG(Aircraft On Ground:航空機が地上にいる状態、つまりトラブルがおきて飛べない状態)が発生したときに、航空会社が真っ先に連絡するのはOWSです。実際、前週もヤヌッチは数時間の予告だけでメカニックチームをパリに急遽派遣した一方、お客様である航空会社のエンジンを修理するために別のチームをシカゴに送りました。またエンジンに鳥が吸い込まれ「ドロップ&スワップ」(故障したエンジンを新しいエンジンに換装すること)を実施するため、メキシコにもチームを送るよう要請されました。数週間後には別のチームをスイスに送り出す予定です。
ヤヌッチは次のように語ります。「航空会社は私たちに連絡して『乗客を目的地まで送り届けるために、早くこの機体を地上から離陸(off the ground)させてほしいんだが、誰か寄越してくれないか?』と要請してくるのです。その場合、ギアボックス、燃料ノズル、ダクトなど、エンジン外部のコンポーネントを交換することで対処することがよくあります。特にon the aircraft(飛行機に取り付けられている状態)の作業が可能な場合には、修理より交換を行います。そうすれば、お客様の航空機を早く飛び立たせることができますし、限られたオーバーホール区域のスペースを塞ぐこともなくなります。私たちのチームの専門知識は誰にも負けないと自負しています。」
このシンシナティの最新の修理施設はGEのOWS ネットワークの中でも最大級の規模を誇る施設の1つであり、驚異的なペースで拡張してきました。2019年、ここでは56人の技術者とCVGに所属するサポートスタッフが、6つのエンジンベイとブリッジクレーンを備えた約3,700㎡の施設で作業していました。その後、2020年1月に約6,400㎡に拡張された現在の施設がオープンし、GEnxとGE90を中心としたワイドボディ航空機向けエンジンを主に扱っています。現在世界最大の民間航空機ジェットエンジンであるGE9Xにもまもなく対応する予定です。言い換えれば、この最新の修理工場のすべてがより大きく、広いことを意味しています。10の大型エンジンベイ、4つの小型エンジンベイ、4基の垂直昇降エンジンリフト、18輪の巨大トレーラーも出入りできるサイズのガレージドア、さらには「世界最大のフォークリフト」と冗談交じりに言われるものまですべてがより大きくなっているのです。
「ロブスターポット」の1つでエンジンを整備する2人の技術者。画像提供: GE Aerospace
工場の規模を拡張した際、新しい施設がリーン方式の原則に沿って建設されるようマネージャーたちは検討を重ねてきました。GEの変革を推進する原動力であるリーン方式は、製造、保守サービス、その他の業務をより効率的にするための、継続的な改善にフォーカスを当てていることが特長です。その一例は、このシンシナティの施設のプロダクションリーダーであるロス・コールマンがリーンプロセスの専門家でもあることからも明らかです。コールマンは「ここではすべてがエルゴノミクス的にも健全です」と指摘し、チームの効率向上と疲労軽減に役立っていると述べています。
健全性を示す好例が、4基の垂直昇降エンジンリフトです。以前の工場では、エンジンを垂直に立てて作業する際、技術者は周りに組まれた足場を何度も昇ったり降りたりしなければなりませんでした。「骨折り損のくたびれ儲けでした」とコールマンは言います。しかし、現在同じ作業を行う際、エンジンは、その形状がロブスターを捕るカゴに似ていることから「ロブスターポット」と呼ばれる堅固な金属製ホルダーに垂直に固定され、適切な位置にエンジンを移動させるにはスイッチ一つでできるようになりました。エンジンの位置を変える間、技術者自身はそのままの場所で待機できます。また、ロブスターポットはさまざまな直径のものが用意され、整備するエンジンのサイズに合ったものが使用されます。合わせて、床のプレートもピットの開口部を覆うように調整することができます。こうすることで、部品や工具の落下を防止できるほか、技術者ができるだけエンジンに近い位置で作業できるようになりました。「大きな進歩ですよ」とコールマンは言います。
サイトリーダーのニック・ヤヌッチとプロダクションリーダーのロス・コールマン。画像提供:GE Reports
リーン方式の効果が工場内に浸透するにつれ、変化が次々とおこり、大幅な業務改善にもつながりました。ことし2月、コールマンはチームを率いてバリューストリームマッピングの演習を実施し、修理工程のどこで遅れが生じているのか、工場全体のターンアラウンドタイム(以下TAT)を短縮するためにはどのような解決策があるのかを検証しました。検証の際にフォーカスが当てられたのは工程のゲート1(エンジンの分解)とゲート2(部品の発注と再組立)です。検証の結果、従来は平均15日間、あるいはそれ以上かかっていた分解時間を10日未満に短縮することで、技術者は部品の発注や修理、エンジンの再組み立てに割く時間をより確保しやすくなるうえに、TAT全体を大幅に短縮できることがわかりました。「エンジンの分解が7、8日で済むようになれば、私たちは次の作業をより早く始められます。これは皆にとって大きな恩恵となります」とコールマンは語ります。
では、そのエンジンの分解時間を短縮するためにはどうするか。技術者らが導き出した改善策はとてもシンプルなものでした。工具庫や従業員の作業スペースをもう一度整理すること、毎日のミーティングで技術者らが進捗状況をアップデートし、遅れがあれば注意喚起すること、より透明性の高いコミュニケーションを図ること、部品パイプラインの詰まりをできるかぎり解消することなどが挙げられました。これらはいずれも即効性がありました。2022年第1四半期に、この工場では4基のエンジンを修理して出荷しました。しかし改善の結果、今年はほぼ同じチームで同じ第1四半期中に10基のエンジンを修理して出荷することができたのです。
作業中の技術者。画像提供:GE Aerospace
ヤヌッチとコールマンが互いに協力してきたこと、それは目標を設定し、その達成に向けチームメンバーをサポートし、チームにチャレンジする心を浸透させることでした。ヤヌッチは次のように語ります。「真のリーン方式のマインドセットとは、人にフォーカスを当てることです。必ずしも常に変革的なカイゼンが必要なのではありません。むしろ技術者として、またバリューを生み出す人間として『私がどのようにあなたをアシストすれば、目標に到達させることができるのか』ということが重要なのです。」
そのために重要なことは、「私たちがチームメンバーを自律した働き手として認める」ことである点もコールマンは強調しました。
このような協力し合う気持ちが、工場内の仲間意識をさらに高めています。米国海兵隊で22年間さまざまな職務に従事してきたコールマンは、GEベテランズ(退役軍人)ネットワークのメンバーでもあります。退役軍人墓地の清掃や献花などの活動をはじめ、ゴルフのグループレッスンなどの企画にも携わっています(コールマンは、退役軍人や現役軍人にゴルフを指導する全米プロゴルフ協会が運営するプログラム「PGA Hope」のアンバサダーも務めています)。
ただでさえ短い納期を求められる修理をさらに迅速化し、緊急度が増すばかりのOWS要請への対応力をさらに高めるための努力には終わりがありません。ヤヌッチはシンシナティの修理工場はほんとうの進歩を遂げたと実感しています。なぜなら、チームは2022年以降、GEnxエンジンのTATを40%以上短縮することに成功しているからです。
ヤヌッチは次のようなエピソードを話してくれました。「先日、ある技術者が『このエンジンを35日で仕上げたいのだが、こういうことが必要で、確保してほしい部品はこれです』と伝えてきたのです。こうした対話が可能なのは、技術者らの成熟水準の高さを示すものであり、私たちが全社横断的に展開しているアカウンタビリティそのものでもあります。また、このことは彼らが現場のお客様にとってはGEの顔であるという事実から来ています。プロダクションリーダーのコールマンには、お客様から『また来てくれないか。あなた方は素晴らしい』というメールがいくつも届きます。このようなお言葉をいただけるのは、この工場とOWSの実績が評価されている証拠であり、私たちは何よりも誇りに思います。」