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ようこそ、水素社会へ:自然界一豊富な元素でCO2排出量削減に取り組む米国の発電所

ブレット・ネルソン

低炭素社会へのエネルギー革命がオハイオ川のほとりで始まっています。今年秋、オハイオ州ハンニバルに設置される大型のGE製新型ガスタービンは米国40万世帯に十分電力を供給可能な485MWの発電容量があり、天然ガスと水素の混合ガスを燃焼して運転する予定です。この新しい発電所は、フォートレス・インベストメント・グループ(Fortress Investment Group)とGCMグロブナー(GCM Grosvenor)のプライベートエクイティ企業2社によって設立されたビジネスユニットであるロングリッジ・エナジー・ターミナル社(Long Ridge Energy Terminal)が運営し、米国初となる水素とガスの混合ガスを燃焼する大型ガスタービンを設置する予定で、CO2排出量削減に取り組んでいる電力業界にとって新たなマイルストーンとなります。「コンバインドサイクル・ガス発電プラントの多くが今後は水素に移行するでしょう」とロングリッジ・エナジーの社長を務めるロバート・ホーリー(Robert Wholey)は予想しています。

米国の各電力会社はこれまでに、石炭火力発電所を閉鎖および休止することでCO2排出量を削減に向けて大きく方針転換しています。米国エネルギー情報局によると、天然ガスと、太陽光、風力などの再生可能エネルギー源の出現により、電力業界のCO2排出量は2007年のピークに比べて3分の1まで削減されました。さらに今後もCO2削減目標を達成するために、多くの電力会社が注目している新しい燃料源が、水素です。

なぜなら、宇宙で最も豊富な元素である水素は酸素と混合して燃焼させると、最新のガスタービンをCO2排出量ほぼゼロで動かすことができるのです。

上部画像:ロングリッジは米国初の水素燃焼専用の発電所になります。画像提供:GEガスパワー。トップ画像:水素発電という日が昇りつつあります。太陽自らの組成も、宇宙一豊富な元素である水素が91%を占めます。画像提供:ゲッティイメージズ。

ガスタービンは、新設機か改造・レトロフィット機かに関わらず、水素と天然ガスを混合出来る仕様に移行することで、発電業界の水素利用促進に貢献します。たとえば、75基以上のGE製Fクラス及びEクラスの航空機エンジン転用型ガスタービンも、主に製鉄所や製錬所からの廃ガスである水素または水素に近い燃料で既に600万時間以上の運転実績を有しています。「こんなことがすでに今日もできているのです」と脱炭素化への最速の方法に関するホワイトペーパーを自身のチームが発表したGEガスパワーのブライアン・グートネック(Brian Gutknecht)は語ります。

また、天然ガスと水素を燃料とする発電所は、比較的機敏に出力を調整できるため、より多くの再生可能エネルギーを発電ミックスに取り込みやすく、風が吹かず、日差しもない時に起こる需給ギャップの平準化に役立つのです。

とは言うものの、水素革命は一夜にして起こりません。この元素は豊富にあるかもしれませんが、炭素や酸素などの他の物質と結合しやすいことから、高純度化は未だにコストがかかります。天然ガスのコストが米国では100万BTU(British Thermal Unit:英国熱量単位)あたり2ドルから3ドル、欧州ではその約2倍であるのに対し、水素は製造方法にもよりますが、100万BTUあたり10ドルから60ドルにもなります。

水素には燃えやすいという特性もあります。その火炎は毎秒約300センチメートルもの速い燃焼速度で広がり、天然ガスの火炎の10倍の速さにもなります。水素の火炎はその燃焼速度のままタービンの燃料ノズルに向かって逆火を引き起こし、機器に損傷を与えることもあります。これは、燃焼器内の「火炎保持」と呼ばれる厄介な現象で、GEはタービンの燃焼システムを改良することで対処しました。GEはさまざまな燃焼システム構成を備え、そのうちの数種は火炎保持現象に対してより優れた耐性を持ちます。この技術は最新のDLN 2.6e燃焼システムにも装備され、水素と天然ガス50%(体積比)ずつの混合物で動作する性能を備えることから、HAなどのGEの最新かつ最大のタービンの燃焼システムとして使用できます。

発電所用地としても、ロングリッジは最適な場所です。新発電所の一帯は塩分を含む地層があり、低炭素発電を行うために必要な大量の水素を貯蔵する地下空間を確保するのに適しています。

送電網に電力を送ることに加え、ロングリッジの関連企業は1,600エーカー(約6.47㎢)の敷地に誘致する顧客への電力供給を計画しています。電力を大量に消費するデータセンターは有力な顧客になる可能性があります。たとえば、アルファベット傘下のグーグルは先日、2030年までに自社のすべてのオフィスとデータセンター向けに24時間いつでもカーボンフリー電力を利用すると発表しました。「データセンターが化石燃料を使用する発電所と長期購入契約を結ぶことはもはやないでしょう。それに比べ、当社の7HA.02ガスタービンは、発電所のゲートのすぐそばで水素を混合することができます」と前述のホーリーは語ります。

ロングリッジでは手始めに、全体のわずか5%の水素をタービンに供給する燃料ミックスに混合する予定です。ホーリーの今後の目標は「水素のみで稼働すること」で、到達すると年間最大160万トンのCO2排出量が削減されます。これは、米国の約16万世帯分のCO2排出量に相当します。しかし、水素混合比率を20%以上に高めるためには、GEのDLN2.6e燃焼システムが必要となります。

GEは米国エネルギー省と共同でこの燃焼システムを開発しました。従来の燃焼器が6つの大きなノズルを通して水素を取り込むのに対し、新型は数百の微小ノズルから水素を取り込みます。これにより、燃焼器に入るガスの流入速度が上がり、火炎が混合器に逆火を及ぼすことを防ぎます。「将来的には、ロングリッジ発電所が現在の燃焼システムの能力を上回る比率の水素混合を達成するために、それに応じたシステム・アップグレードが可能です。これがこのガスタービンの持つメリットで、いつでも変更が可能です。」とGEガスパワーのエマージェント・テクノロジー・ディレクターを務めるジェフリー・ゴールドミア(Jeffrey Goldmeer)は話します。

水素をめぐるもう一つの課題が、水素を十分に確保する方法です。ロングリッジでは、最初の数か月間は近隣の産業施設からのトラック輸送でガスを部分的に賄うことを計画しています。(もともと多くの工場では副産物として生成された水素をプラントで稼働するタービンに燃料として戻しており、その一部が融通されます。)しかし、ロングリッジの長期計画は「グリーン」な水素をプラントのすぐ近くで生成することです。ほとんどの水素は天然ガス(CH4)を圧力と熱によって蒸気と反応させ、水素、CO、CO2を生成する水蒸気メタン改質で取り出されますが、グリーン水素は電気分解によって生成します。このプロセスでは、再生可能エネルギーから得られた電気で水を分解し、酸素と水素を生成します。

しかし、このように分子レベルまでに分離するには、膨大なエネルギーが必要です。これこそが、ロングリッジの関連会社であるニュー・フォートレス・エナジー社が、より効率的な電気分解技術を開発しているイスラエルを拠点とする新興企業H2Proに最近出資した理由なのです。ニュー・フォートレスは2023年にロングリッジの敷地にH2Proのパイロットプラントを設置する予定です。

潤沢なオハイオ川の水資源と地下貯蔵へのアクセスに加え、効率的な水素生成プロセスが新たに生まれることにより、ロングリッジがいずれは「水素ハブ」と認識されるようになり、近隣の風力及び太陽光発電所が稼働不能なとき必要に応じて低炭素電力を供給することができるとホーリーは考えています。また、オフサイトの顧客が総合的なCO2排出目標を達成することに役立つよう、ロングリッジが送電網を経由して送電する「バーチャル電力購入契約」を交わすことも可能であるとホーリーは続けます。

風力発電と太陽光発電による余剰電力が発生した場合、たとえば晴天で強風が吹く日曜日の午後などに、余剰電力を活用して水を電気分解することもできます。この仕組みを利用すれば、事実上効果的な蓄電装置として水素を利用し、再生可能エネルギー事業者が設備を無駄に稼働することなく、エネルギーを貯蔵することにも役立ちます。

ホーリーが注目しているのは、10年前に太陽光発電設備のコストが低下したように、グリーン水素発電設備のコストが下がり始めていることです。一方で、水素インフラの開発を底上げするためのインセンティブ作りが進められている国もいくつか見受けられるようになりました。「社会が脱炭素化に取り組み、更なる投資を行うとき、その機運は低炭素経済と低炭素社会に向けた政府補助金やその他のイニシアティブと組み合わさり、大きな流れとなるのです」とGEのゴールドミアは述べています。

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