
大きいことはいいことだ ― GE、世界最大の洋上風力向け風力タービンを発表
ヴィンセント・シェリングスが今から20年も前に風力タービンの設計を始めたとき、どれくらいまで大きなタービンをつくることができるだろうかと同僚話し合ったことがあります。「風車の直径100メートルで3メガワットまでが限界でした。」とヴィンセントは当時を振り返りました。「でも、それすら途方もなく大きなサイズでした。」
シェリングスはこの製造可能なタービンの大きさについて問い続けてきました。彼は今、GEリニューアブルエナジーで、子どもの頃から想像を巡らせてきた世界最大の風力タービンの開発チームを率いています。この巨大な風力タービンは基礎部分から羽根の最上部まで260mの高さがあり、これは超高層ビルで有名なニューヨークのロックフェラーセンタービルよりも1m高いのです。風車の直径は220mで、ブレード(羽根)の長さはアメリカンフットボールのグラウンドと同じ長さになります。
海上150mの高さにある風力タービンには発電容量12MWにもなる発電機が備わります。これは16,000世帯に電力を供給することが可能で、北海の典型的な風況に基づくと年間67GWh発電し、これは現在の洋上風力の発電性能を45%上回ることとなります。「実現可能だと考えられる最も大きな直径はどれくらいだろう、さらにもっと大きくできないか」と。シェリングスはいいます。「技術の点からはかなり厳しいのですが、可能だと考えています。この様な大きさのタービンは他にはなく、しかも私たちの競争力を大幅に高めることになるでしょう。」
現時点で、世界に存在する最も大きな風力タービンの直径は180mですが、これは試作機です。稼働しているタービンの直径は164mで最大9.5MWを発電します。「私たちは競合を一気に飛び越えようと決断したのです」とシェリングスは語ります。
大きさはとても重要です。大きな風車があればより多くの風をつかまえることができ、業界で呼んでいる、いわゆる「キャパシティ・ファクタ」を高めることができます。キャパシティ・ファクタとは設置された場所で、ある特定期間、フルに発電する量に対して、風力タービンが発電可能な割合を示します。GEのHaliade-Xの場合、「キャパシティ・ファクタは63%になり、これは競合機に比べて5ポイントから7ポイント高い数値になります。」とシェリングスは言います。「基本的にはキャパシティ・ファクタ1ポイント向上で100メガワットにつき、お客様には700万ドルの追加価値をもたらすのです。」
メリットは他にもあります。この新しい12メガワット風力タービンの設計によって、事業者はウィンドファームに設置するタービンや敷設するケーブルを少なくし、建設やメンテナンスの費用だけではなく、投資額を減らすことができ、より早く投資を改修できるでしょう。「洋上風力ファームを建設するために入札が実施された場合、キロワット時当たり、最も安価な入札を出すことができるでしょう。」とGEリニューアブルエナジーの洋上風力部門CEOのジョン・ラベルは述べました。ジョン・ラベルのチームは2021年に出荷を開始するHaliade-Xを導入し、数年の間に風力ファーム建設計画があり、興味をもっているお客様にすでに提案を開始しています。「私たちはこうした入札事業者を対象顧客とし、顧客に競争力をもたらす提案を行うよう心掛けています。この点ではお客さまとは正にWin-Winの関係にあるのです。」
洋上風力は最も急速に成長を遂げる再生可能エネルギーの領域です。「この産業は当初、洋上風力として17GWを設置するために20年以上を費やしました。」とGEリニューアブルエナジー社長兼CEOであるジェロム・ペクレシェは述べています。「今日では、この先12年間で90GW以上の導入が予測されています。今後、展開できる技術によって、より安価な電力が提供可能になるからです。このHaliade-Xは発電コストの新しい基準となり、洋上風力の成長をさらに加速させるでしょう。」
Haliade-xのような超大型の風力タービンを製造することはもちろん重要ですが、どうやって製造することができるのでしょう? このプロジェクトにおよそ4億ドルを投資してきたGEは2年前からそれについて模索してきました。ローターの直径が決定された後、シェリングスのチームは発電機の大きさとその両方を支えるタワーのサイズを計算することとなりました。
各段階ではそれぞれ独自の課題がありました。ただでさえ風車のブレードを大量に製造することはとても難しいのですが、その長さが107mにもなればなおさらのことです。シェリングスは「大変多くの手作業の工程があるため、機器1台のために約250名の作業員が必要です。材料を適切に取り扱うために適切な、あらゆる種類の足場や工具も必要になります。この巨大なブレードを作り上げるためには素材やツールを取り扱うために協調して協力ができる素晴らしいチームワークとそれを支える大勢のメンバーが必要なのです。」と述べています。
そこでシェリングスのチームはGEが昨年買収したデンマークの風力発電用ブレードメーカーであるLMウィンドパワーの専門スタッフと会議を重ねました。LMウィンドパワーは現在、最長のブレードを製造するためにまさに「商業化」をおこなっているところです。
次の課題は、ローターそのもののサイズです。「多くの風をつかめば、発電の観点ではいいことですが、反対にその強い風に晒しつづけても耐えうる構造としなければいけません」とシェリングスは言います。「ローターのサイズを大きくすれば、そこから得られる経済的なメリット以上に風力タービンのコストも上がってしまいます。」
そこでチームはこの問題を解決するため、タービンのデータを分析し、風が生み出す強い力を打ち消すことができるようなアルゴリズムをもつソフトウェアを活用した解決策を探りました。「私たちはタービンのピッチを制御するソフトウェアを利用し、それをタービン稼働中でも継続して利用しました。こうして私たちは、適切な構造体の大きさとそれにかかる負荷を正確に把握することができたのです。」
チームが設計の初期段階を迎えた頃、その設計内容を検証し、さらに向上させるために、GE社内を横断して多くのエンジニアに協力を仰ぎました。シェリングスはこのアプローチを「GEグループのベストメンバーによる開発」と呼んでいます。彼のチームはGEグローバルリサーチ(中央研究所)のリーダーでチーフテクノロジーオフィサーを務めるビック・アベイトと共同して様々な分野で設計チームをサポートできる専門家を社内で選りすぐりました。「基礎部分への荷重、空力特性や構造や重量計算などについて、GEグローバルリサーチの科学者と取り組んできました。」とラベルは述べています。「私たちはGEアビエーション、GEパワーやLMウィンドパワー、そしてその他のビジネスから専門家を招集し、レビューを重ねました。優れた専門的な知見をもつスタッフと一緒に協業をおこなってきたことで大いなる成果を挙げることができたのは素晴らしいことです。」
実際、エンジニアたちは遠く離れた場所で協業をしていました。今後もスペイン・バルセロナ、フランス・ナント、ドイツ・ハンブルグ、そしてヨーロッパやアメリカの様々な場所にいるエンジニアは設計をより完璧に近づけるために今後数ヶ月を費やし、部品試験を実施する予定です。GEは2019年の第二四半期に最初のタービン試験を完了予定です。
ジョン・ラベルはすでに先を見越して、例えば3Dプリンターを設計段階から取り入れて、コスト削減と性能向上を両立させるなど、最新技術を取り入れようとしています。GEアビエーションでは航空機エンジン全体を3Dプリンターで製造し始めています。GEアディティブは最大直径1mまで「プリント」できる金属3Dプリンターの試作機を開発・発表済です。「限界はないと考えています。今日の限界は2020年ではもはや限界ではなくなっているのですから。」とラベルは語っています。
ラベルは35年間に亘って発電所のための技術開発をおこなってきました。「私にとってはすべてがとても楽しく重要なものでした。中でも、私たちが住む世の中や、環境をよりよくすることは、家に帰って家族に話し、その家族と誇りを共有することができます。」
現在のHaliadeタービンは6MWの出力で、ドイツの巨大なMerkurウィンドファームで稼働予定です。