
HAガスタービンが新たな高みへ―記録破りのガスタービンが累計運転時間100万時間を突破
ウィル・パルマー
マレーシアには他の東南アジア諸国と大きく異なる点があります。人口は1970年から3倍の3,300万人に達した一方で、GDPはこの間に100倍近く増加しました。成長することは良いことではあるものの、国民に十分な電力を供給しながら、CO2や大気汚染物質の排出削減を進めるには独創的な工夫が必要です。
今年初め、ジョホール海峡をはさんでシンガポールの対岸にあるマレーシア・ジョホール州で、同国の大手電力会社であるSouthern Power Generation社(SPG)のTrack4A発電所が稼働を開始しました。Track4A発電所は、世界最大級かつ最高水準の発電効率を誇るGE 9HA.02ガスタービンが初めて商業運転を開始した天然ガス火力発電所です。
「High-efficiency、Air-cooled(高効率、空冷)」に由来するHAガスタービン群にはGEの材料工学、熱力学、タービン・エンジニアリングの最新技術が盛り込まれています。発電所の効率とは、燃料からどれだけ電力を取り出せるかを示す指標です。例えば石炭火力発電所の最大発電効率は約47%と示されます。発電効率の改善には多くの困難が伴い、ほんの10年前でも、稼働中の発電所で発電効率60%を実現できたものはなく、発電効率を1%改善するには優に10年はかかるというのが長らく業界の常識でした。ですが、2014年に登場したGEのHAガスタービンのテクノロジーは、驚異的な頻度で常に発電効率の記録を更新し続けています。例えば蒸気タービンがガスタービンから回収した熱をも発電に利用し、さらに発電容量を増やすコンバインドサイクルモードを搭載した9HAの初号機を設置したフランスの発電所は、2016年に発電効率を一気に62%まで更新しました。その後まもなく日本でも7HAを設置したコンバインドサイクル・ガス発電プラントが63%超を実現しました。そして今年、マレーシアのTrack4A発電所には、このGEの高効率ガスタービン9HA.02が設置されたのです。このマレーシアの発電所はPOWER MAGAZINEが選ぶ「2021 Plant of the Year」やDiesel & Gas Turbine Worldwideが選ぶ「Power Plant of the World」に選定されるなど高い評価を得ています。

HAガスタービンは、米国や日本などで運用される60Hz交流方式の送電網で使用される7HA製品群と、欧州の50Hzの国々で使用される9HA製品群で構成されますが、今年7月GEガスパワーは2014年から7年を経て、このたび50社目となる顧客からタービンの受注を獲得したことを発表しました。現在20カ国で運転されているこれらのタービンの発電容量は26GW以上にのぼります。また、全世界での累計運転時間は100万時間を突破しました。
発電効率を1~2%ほど改善したところで大したことはないと思う人でも、次のフロリダの事例を見れば考えが変わるかもしれません。2019年にフロリダ州の発電所では従来型からGEのHAガスタービン2基に交換し運転を開始しましたが、それ以来、天然ガス1立方フィートあたりの発電量が0.4%増加したのです。これは金額ベースで年間100万ドル相当の燃料費を節約したことになります。天然ガス価格がはるかに高いアジア諸国では、このようにタービンを入れ替えることにより、電力会社が年間400万ドルもの燃料費節減できる可能性も出てくるのです。
このように、発電効率を改善することは環境の観点からも良い影響をもたらします。HAガスタービンのような新たなテクノロジーを導入することで、各国とも旧式の石炭火力発電設備を廃止し、より高い水準での再生可能エネルギー創出へと移行することが可能になります。GEのHクラス・ガスタービンは天然ガスに最大50%(体積比)の水素を混合して燃焼させることもできます。またGEのHクラス・コンバインドサイクル発電プラントは、今後CO2排出量を最大95%削減できる燃焼後回収システム(post-combustion capture system)と組み合わせて運転できる可能性も持ち合わせています。
そして、このようなCO2削減方法を積み重ねることは大きな成果をもたらします。昨年、GEは2030年までに自社の事業活動におけるカーボンニュートラルを実現することをコミットしました。また、7月上旬に発表したGEのサステナビリティ・レポート2020年版では、さらに踏み込んだ目標として販売した製品の使用によるスコープ3(Scope 3)排出量も含めて、2050年までにネットゼロを実現することを掲げています。
HAテクノロジーが持つもう一つの利点はその即応性です。HAガスタービンは優れた燃料・空気混合システムにより、排出規制を遵守しつつピーク時に比べて15%〜33%程度まで徐々に負荷を下げた運転も可能にしています。これはターンダウン運転(turndown)と呼ばれ、気象状況に影響されやすい再生可能エネルギー由来の電力に依存する割合が高い国では特に重要な機能となります。風力や太陽光がフル稼働できない場合、あるいは熱波による気温上昇で電力需要が高い場合でも、HAタービンは30分で起動することが可能なため、不足する電力を迅速に補うことができます。
GEガスパワーの大型ガスタービン製品管理責任者を務めるアミット・クルカルニ(Amit Kulkarni)は次のように述べています。「ガスは再生可能エネルギーを補完するのに最適なエネルギーです。GEは業界のトップランナーとしてHクラスタービンを開発するとともに、発電事業者が直面するエネルギー転換への対応をお手伝いしていきます。こうした取り組みをとおして、GEは現在必要とされる信頼性の高いサステナブルな電力の提供と、これから必要とされる技術の開発を目標に努力を続けてまいります。」