
実用化へ一歩前進:ロングアイランドで実証されたグリーン水素の明るい未来
ウィル・パーマ―
2021年夏、ニューヨーク州電力公社(The New York Power Authority、以下NYPA)はロングアイランドのブレントウッド発電所で天然ガスからグリーン水素と天然ガスの混合燃料に入れ替えて混焼する実証実験プロジェクトを実施すると発表しました。混合燃料に含まれるグリーン水素の濃度を変えながらテストを繰り返し、燃焼システムがどのように反応するか記録して、濃度の違いが温室効果ガスの排出にどのような影響を及ぼすかを検証してきましたが、先月末に公開された結果はきわめて有望なものでした。
この春、グリーン水素が5%から40%混合された燃料を用い、GE製LM6000タービンで数週間かけて行われた実証実験では、水素の増加とCO2排出量の減少との間に明確な相関関係があることが実証されました。14%から35%の間でCO2排出量が削減され、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、アンモニアも排出基準値を下回りました。
この実証実験は、NYPAやGE、電力研究所(Electric Power Research Institute、以下EPRI)と、エンジニアリング企業のサージェント&ランディ社(Sargent & Lundy)、グリーン水素のサプライヤー企業であるエアガス社(Airgas)、配管などの資材や設置サービスを提供するフレッシュ・メドウ・パワー社(Fresh Meadow Power)との協力で行われました。
「私たちEPRIは低炭素資源イニシアチブというプログラムを掲げ、CO2排出ネットゼロの未来をサポートするためにエネルギー技術に関する様々なポートフォリオの活用を加速しています」とEPRIのエネルギー供給・低炭素資源担当副所長であるネヴァ・エスピノザ氏は述べています。「産業界と政府が革新的なエネルギーソリューションを模索する中、NYPAの水素混合デモンストレーションは、ここニューヨーク州のみならず、世界にとって新たな選択肢となることを意味しています。」
GE製航空機転用型ガスタービンは最大で85%の水素混合比率で稼働する一方、HAクラスの大型ガスタービンの一部は最大50%の水素で稼働します。先日、米国エネルギー省はGEに660万ドルを供与し、GEのFクラスタービンを改造し水素を含む混合燃料で稼働させる実証実験を行いました。世界を見渡せば、水素を含む混合燃料で稼働するGE製タービンは20か国にわたる100以上のお客様に提供され、稼働時間は800万時間以上を記録しています。
「GEは、水素および同様の低BTU燃料を扱う最も経験豊富なガスタービン機器メーカーとして、NYPA、EPRI、その他多くの企業と協力してこの重要な実証プロジェクトを実現できることを誇りに思っています」とGEガスパワーの社長兼CEOであるエリック・グレイは述べています。「グリーン水素実証プロジェクトのような取り組みは、信頼性が高く手頃な価格の電力を提供しながら、発電からのCO2排出量を削減する上で水素が果たす重要な役割を検証するために不可欠です。」
ほとんどの水素はメタンの水蒸気改質によって生成されています。つまり天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を圧力と熱の下で水蒸気(H2O)と反応させ水素(3H2)と一酸化炭素(CO)を生成します。一方、グリーン水素は電気分解によって生成されます。このプロセスでは、再生可能エネルギーから得られた電気が水(H2O)を分解し、酸素(O2)と水素(H2)を生成します。このように、グリーン水素プロセスはCO2を排出しない再生可能電力と、炭素を含まない水を使用することで、CO2の排出をゼロに抑えます。
水素は、米国および他の国々の電力会社による脱炭素化計画において重要な位置を占めるようになってきています。ことしの春、オハイオ州ハンニバルにある485MWのロングリッジ・エナジー・ターミナル社は、水素とガスの混合燃料で発電する実証プロジェクトを開始しました。この施設ではGE製の巨大な7HA.02ガスタービンを使用して、米国40万世帯分の消費電力を賄うことができます。ロングリッジ社は、はじめは5%の水素と天然ガスの混合燃料を利用して低炭素電力を提供し、将来的には100%の水素を利用する発電所に転換していくことを目指しています。
「ロングリッジ社やNYPAのブレントウッド発電所などの実証プロジェクトは、ガスタービンがすでに水素と天然ガスの混合燃料で動作すること、さらにはCO2排出量の削減を可能にしているという事実を示しています」とGEガスパワーの技術ディレクターに就任したジェフリー・ゴールドミアは述べています。また、NYPAプロジェクトにおいては、ブレントウッド発電所で発電ピーク時に「ピーカー」として動作するLM6000のようなガスタービンが信頼性の高い配電網を維持すると同時に、CO2排出量の少ない電力を供給できることも強調しています。さらに、ゴールドミアはこの実証実験での排出ガス量の結果も同様に重要であると述べています。「水素と天然ガスの混合で運転することで得られるCO2排出量の削減は、ガスタービン運用の柔軟性向上により、長期的な利益をもたらす可能性があります。」
NYPAのビジョン2030のロードマップは、ニューヨーク州が2035年までにCO2排出ゼロを達成できるように、低炭素から排出ゼロに至るまでのテクノロジーを示しています。さらに同州の長期的脱炭素化戦略は、2040年までに電力部門における温室効果ガスのネットゼロ排出達成を目指しています。
ジャスティン・E・ドリスコルNYPA社長代行兼CEOは次のように述べています。「電力部門の脱炭素化には、新しい技術やさらなる再生可能エネルギー資源の活用を含む、協調的で多面的なアプローチが必要になります。このたび、私たちNYPAは水素研究の結果を業界内外の皆さんと共有できることを嬉しく思います。そして、私たちの重要な知見が、脱炭素化へ大きく貢献することを期待しています。」
上部画像:ブレントウッド発電所 画像提供: ニューヨーク州電力公社(NYPA)