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天然ガスから水素へ:オーストラリアの水素ハブ計画を支援するGE、輸出も視野に

ウィル・パルマー

1836年、チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)は調査探検船ビーグル号(The HMS Beagle)の歴史的な2度目の航海に同行し、道中オーストラリアを訪れました。ダーウィン自身はオーストラリア大陸の北海岸には上陸しなかったものの、続く3度目の航海でビーグル号は現在のノーザンテリトリー(The Northern Territory)の沿岸を調査しました。そのとき船長は「進化論の父」ダーウィンに敬意を表し、入り江のひとつをポートダーウィン(Port Darwin)と命名しました。現在、沿岸都市ダーウィン市はノーザンテリトリーの州都にもなりましたが、人類のための新たな進化、つまり脱炭素エネルギーという未来への移行という新たな進化の一翼を担う拠点にもなっています。

今年9月、オーストラリアのモリソン首相は1億5,000万豪ドル(約125億5,500万円)を拠出し、国内7か所に工業用クリーン水素ハブを展開することを発表しました。すでにLNG(液化天然ガス)の輸出大国であるオーストラリアは、特に化石燃料からの脱却に向けていち早く行動しているアジア諸国に向け、グリーン水素でも一大供給拠点になりたいと考えています。ダーウィン市は豊富な日照量と風力環境のポテンシャルが評価されていることから、今回発表された水素ハブの拠点に含まれています。

最初のステップとして、オーストラリア連邦政府は国内産業をより活性化させる意向です。「水素を輸出できるようになるまでにはどうしても時間がかかるので、まずは国内で水素を使い、その国内需要に基づく産業を育成する方がより早い道筋になります」とGEオーストラリアのCEOを務めるサム・マレシュ(Sam Maresh)は説明します。

このことにより、GEはノーザンテリトリー政府が保有する電力会社テリトリー・ジェネレーション社と提携し、ダーウィン市の対岸に位置するチャネルアイランド発電所にTM2500航空機エンジン転用型ガスタービンを配備しました。TM2500はトレーラートラックに積載(Trailer-Mounted、型式名「TM」の由来)可能なタービンで、その心臓部を担う技術はボーイング747機に搭載されるCF6ジェットエンジンに由来します。また、このタービンは天然ガス、または天然ガスと水素の混合ガスを燃焼して発電することもできます。さらに、同タービンはコールドスタートから10分以内にフルパワーまで出力し最大32MWまで発電できるため、電力需要が急増した際のバックアップ電源として「橋渡し」の役割を担う場合にも最適です。

このタービンは、24時間安定した発電が難しい太陽光発電や風力発電の利用拡大を目指す電力会社にとっても最適な橋渡しとなります。「ノーザンテリトリーの送配電網に再生可能エネルギーで発電された電力がより多く接続され、たとえば電力需要のピーク時に太陽が雲に隠れ再生可能エネルギーによる出力が急低下するような場合でも、TM2500は極めて迅速に起動し、需要のピークと底を平準化するような発電ができるようお手伝いができるのです」とマレシュは語ります。

TM-2500航空機エンジン転用型ガスタービンは、オンデマンドで32MWの発電量を確保することができます。画像提供: GEガスパワー。トップ画像提供:ゲッティ・イメージズ

TM2500タービンは世界中で300基ほど配備されていますが、発電用燃料として水素を利用する点でノーザンテリトリーでのプロジェクトは特別です。宇宙で最も豊富なガスである水素の実証試験を実施する場としてノーザンテリトリーがふさわしいとされる理由はたくさんあります。第一に、オーストラリア政府が「技術投資ロードマップ(2020年9月発表)」の中で、水素を優先すべき技術と位置付けている点、次いでノーザンテリトリー政府が発表した「再生可能水素マスタープラン」の中で将来的に37億豪ドル(約3,104億円)の経済効果と2,500人の新規雇用の創出が見込まれるとしている点などが理由として挙げられます。

このプロジェクトは、ノーザンテリトリー政府が2030年末までに再生可能エネルギーによる発電比率を50%にするというコミットメントの達成も後押しすることになります。一方で、民間資金による再生可能エネルギーへの投資も盛んにおこなわれています。その好例が「世界初の大陸間送電網」と銘打たれたサン・ケーブル・プロジェクト(The Sun Cable project)で、オーストラリアの太陽光発電で生み出した最大20GWの電力を海底ケーブル経由でシンガポールに輸出する計画です。このプロジェクトを可能にしているのがノーザンテリトリーの太陽光発電と風力環境のポテンシャルの高さですが、太陽光についてはノーザンテリトリーではすでに6軒に1軒の家庭が屋根にソーラーパネルを設置していることからもそれが分かります。さらには、いわゆる「グリーン水素」とよばれる地域の再生可能エネルギーを利用して水を電気分解し水素を製造する事業の将来性も期待されています。

2022年にダーウィン市郊外のチャネルアイランド発電所で運転を開始する予定のTM2500タービンは、始めは天然ガスを使って22MWを出力する予定ですが、十分な量の水素が調達されるようになれば、最大で体積比75%の水素を混合して運転することができるようになるとGEガスパワーANZのセールスマネージャーを務めるマーク・ベンジャミン(Mark Benjamin)は説明します。

今年、オーストラリアで発表されたもう一つの大きな水素関連プロジェクトは、シドニーの南に位置するタラワラ(Tallawarra)B発電所です。この発電所はGEの9F.05型ガスタービンを動力源とし、約316MWを迅速に発電することが可能な上、2023年に稼働停止予定である近隣の石炭火力発電所が発電していた1.7GWの発電容量を部分的に肩代わりする役割も果たします。

チャネルアイランドのプロジェクトは、GEがノーザンテリトリーの電力会社から最終的に受注を見込む6から7基のTM2500タービンのうちの最初の1基になります。したがってこのプロジェクトは発電出力だけ見ると水素事業としては比較的小さな一歩にすぎないものですが、マレシュにとっては今後の方向性を示す大きな歩みとなります。「オーストラリアにとって、水素経済の構築における道筋はガスタービンとともにあります。これらのガスタービン群は、少量でも高混合比でも水素を混合して運転することができるため、“水素産業をどのように発展させるか”という課題に対し電力会社や政府当局が機敏に対応することができるのです」とマレシュは語ります。

それぞれのTM-2500タービンは任務を完了すると再びトレーラートラックに積まれ、次にバックアップ用電力が必要な地域や、送電網や需要の変化に合わせて再生可能エネルギーの利用を推進したい地域に移動することができます。ベンジャミンは次のように語ります。「今回のプロジェクトは、GEの航空機エンジン転用型ガスタービンによる水素と天然ガスの混焼を目指している多くのプロジェクトの一つです。これらのガスタービンユニットは、運用面でも燃料の多様化の面でも優れた柔軟性があるため、エネルギー転換の道筋を描くことにも役立つのです。」

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