
小さくても高性能:GEは小型ガスタービンの需要拡大を見込んで北米の拠点を拡大
グレガー・マクドナルド
この10年で風力発電や太陽光発電は急速に普及し、いまや原子力発電を上回る電力を世界中で供給しています。しかし、クリーンエネルギーの運用には、風が吹かずブレードが回転しない時間帯や、太陽が沈んでいる夜間に電力供給をバランスよく行うための仕組みが求められます。そこで風力発電と太陽光発電の更なる普及を後押しする手法の一つとして、シンプルサイクル型天然ガスタービンが注目されています。ジェットエンジンのテクノロジーを転用した「エアロデリバティブ(航空機用エンジン転用型)」と称されるタービンは、小型で機動力に富むだけでなくモジュール式であるため、従来の天然ガスタービンのように発電所に固定設置する必要がありません。それどころか、シンプルサイクル型タービンは招集されたらライフルを持って1分で駆けつける「ミニットマン・ソルジャー」のように、風力や太陽光発電所、および蓄電施設にトレーラートラックで迅速に搬入が可能なうえ、すぐにサポート発電機として起動できる点が評価されているのです。
シンプルサイクル型タービンの代表となる2機種は、機動性に優れトレーラーにも積載可能なGE製TM2500と、現場で素早く組み立てられるようモジュール化されたGE製LM2500XPRESSになります。これらのガスタービンはいままでハンガリー北部のヴェレセギィハツ(Veresegyhaz)にあるGEガスパワーのサービスセンターで組み立てられてきました。ですが、特に北米でこうした機動性が高いタービンの需要拡大が見込まれることから、GEガスパワーは先日、増産のためにサウスカロライナ州グリーンビルの製造施設を拡張することを発表しました。GEは、グリーンビル・グローバル・テクノロジー・センターでTM2500とLM2500XPRESSの航空機エンジン転用型ガスタービンの生産ユニット数を拡充するために最大500万ドルを投資する予定です。
GEグリーンビル・センターのゼネラルマネージャーを務めるエドワード・ステファニクは次のように説明します。「GEは世界のシンプルサイクル型タービンセグメントの年間需要を、2020年の7.9GWから2030年には9.3GWに拡大すると試算しています。ヨーロッパに続き、北米にも製造拠点が設けられたことは喜ばしいことです。北米の電力の現状にフィットしており、大いに成長が見込まれます。」天然ガス発電所で固定設置されることが多い大型のコンバインドサイクル型ガスタービンとは異なり、これらのコンパクトなシンプルサイクル型タービンは、全長約50フィート(約15m)に収まり、迅速に起動や停止が可能な柔軟性が特長です。
ステファニクはまた次のようにも説明します。「これらのタービンが満たそうとしているニッチ・マーケットには『ピーカー(peaker)』のニーズも含まれます。つまり、多量の再生可能エネルギーが確保されてはいるものの、サポートが必要な場面に対応するニーズです。再生可能エネルギーの発電量を上回る電力需要がある場合、ピーカーとしてガスタービンを一定時間運転して電力を送出し、需要が落ちたら再びオフにするわけです。」さらに、その機動力を活かし、シンプルサイクル型タービンは自然災害などで停電した地域の電力供給の復旧にも活用できます。

約4,000TWhを発電する米国の電力業界のシステムにおいて、風力と太陽光はすでに全体の12%に当たる約480TWhを供給しています。この比率は2030年までに25%以上に急増すると試算されています。というのも、先日バイデン大統領は3,690億ドルを「気候変動とエネルギー問題への対策」に投じる条項を含む法案に署名し成立したからです。また、国際エネルギー機関(IEA)は太陽光発電を現在のところ「史上最も安価な電力」としており、その魅力的な経済性は、コスト管理の観点からも太陽光発電に蓄電池やシンプルサイクル型タービンを繋げることで可能となっています。例えば、コロラド州コロラドスプリングスの電力会社は昨年、老朽化した石炭発電所の設備を更新する際に、GE製LM2500XPRESSタービン6基を導入することで自社の送配電網に再生可能エネルギー由来の電力を受け入れエネルギー転換へ踏み出しました。今回の新たな気候変動対策法案は、電力会社規模のインセンティブをはるかに超え、再生可能エネルギー導入への強いインセンティブを持つ農村地域やニッチな都市部のマイクログリッド(地域の小規模な送配電網)にも深く恩恵が行きわたることを目的としています。つまり、こうした地域には、サポート役としてシンプルサイクル型タービンを導入するのに最適な状況が揃っているのです。
こうした需要増に対応するため、グリーンビルの拠点ではGEが全社的に取り組んでいるリーン方式を導入し、オペレーションにも「継続的改善」をもたらす「リーンライン」アプローチを採り入れています。しかし、ステファニクが説明するように、これは単に「より少ない投入量で同様の成果を出す」という意味ではありません。安全性、品質、納期、そしてコストなど、あらゆる側面を考慮した取り組みです。ステファニクは次のように説明します。「これは、円滑に業務を進め、そこから学び、不具合を減らすというすべてが揃った文化の賜物なのです。ベストプラクティスを採り入れ、問題が発生した場合には生産ラインを止め、その場で対処し、修正が実施されたことを確認してから生産を再開します。まるで外科医のように、生産担当者の周りには適切なツールが適切なタイミングで適切なポジションに配置され、複雑な手順が加わることもなく、お客様が求める付加価値のある製品に仕上げる環境を構築しているのです。」
今後、よりコンパクトなシンプルサイクル型タービンは世界の電力業界におけるトレンドの一部となることでしょう。マイクログリッド、事業者用向け屋上太陽光発電・蓄電池システム、さらには小型モジュール式原子炉でさえも、企業や電力会社がより地域に根差した考え方を採り入れるにつれ、さらに注目されるようになっています。これまで発電事業者は歴史的に常により大きなものを構築することを目標にしてきました。しかし、時には格言の通り「スモール・イズ・ビューティフル」となるでしょう。