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より高く、より速く:GE 747フライングテストベッドエンジニアと空を飛ぶ

仕事として定期的にボーイング747のアッパーデッキに座り、シエラネバダ山脈を眺めながら空を飛ぶことはとても魅力的な業務でしょう。カリフォルニア州ビクタービルにあるGE Aerospaceのフライトテストオペレーションチームの主席エンジニア兼テストディレクターであるネイト・カンプスにとって、自らの業務も窓からの景色も飽きることはありません。

カンプスは次のように語ります。「これで給料がもらえるなんて信じられません。新開発のエンジンを世界で初めて空へ飛ばすことができるうえに、ハイキングで訪れるシエラネバダ山脈をまったく違う視点で空の上から見下ろすことができるのですから。空からこの景色が見られるのはこの仕事の特権だと思います。何度見ても美しいですね。」

カンプスが乗り込む747-400は通常の機材とは異なります。この747-400はGEのフライングテストベッド(FTB)機で、2010年以来GEが歴代の新型ジェットエンジンのテストに使用している空中実験室なのです(GEは以前、パンアメリカン航空が所有していた747-100をフライングテストベッドとして24年間運用していました。2018年、GEはテストベッドとしての役目を終えた747-100の最後のフライトをアリゾナ州ツーソンのピマ航空宇宙博物館に隣接する空軍基地に向けて運航し、同博物館に寄贈しました)。747フライングテストベッドの基地であるカリフォルニア州ビクタービルのフライトテストオペレーション(Flight Test Operations、以下FTO)センターはモハベ砂漠の端に位置しています。同FTOはオハイオ州イブンデールやピーブルズ、マサチューセッツ州リンの歴史あるエンジン製造施設と並んでGE Aerospaceのエンジン試験ハブの主要施設の1つとして機能しています。

「だからこそ、私たちはテストするのです」

新型ジェットエンジンが米国連邦航空局(FAA)から商用運航の認証を受けるには、実際の条件で厳密なテストを受ける必要があります。つまり、地上のテストセルのような制御された環境下ではなく、実機の翼下に実際に搭載された状態での飛行試験を行うことが必要なのです。このため、FTOの55人のフルタイムメンバーはGE Aerospace全社内のエンジニアリングチームや設計チームと協力して、さまざまなエンジンプログラムに取り組んでいます。そして、2機の747で、じつに12種のエンジンモデルおよびその派生仕様が認証されました。具体的にはGE90、CFM56-7B、CF34(-8Cおよび-10E)、GP7200*、GEnx(-1Bおよび-2B)、LEAP**(-1A、-1Bおよび-1C)、PassportおよびGE9Xになります。

747-400にて、エンジニアのネイト・カンプス、マティ・パトナム、ケビン・ムルサ。トップ画像:山頂にレンズ雲を冠するアラスカ山脈のデナリ山を横に見ながら飛行中のフライングテストベッドからの一コマ。画像提供:ジェイソン・チャップマン

ほとんどのテストはエンジンが認証される時よりはるか以前から開始されます。ですが、エンジンが量産移行しても、現場で課題が発生した際など納入後の数年間は追加のテストが必要になることがあります。上空でのテスト項目は多岐にわたり、燃料燃焼などの基本的な性能チェックに始まり、失速やエアスタート(飛行中のエンジン再始動)、無重力飛行、激しいサイドスリップ、着氷気象状態での飛行など、さまざまな極限条件下での飛行テストが実施されます。2010年にGEが認証を取得してからだけでも、747-400フライングテストベッドは1,500時間以上の飛行時間を積み重ねました。

カンプスは次のように説明します。「フライトテストで実施する項目の多くは上空に行って初めて検証できるものです。必要なデータをすべて地上で得ることには限界があります。私たちが取り組むのは、エンジンが性能目標や認証要件を満たしているか、特定のシナリオでどのような挙動を示すべきかという社内要件を満たしているかを確認するためのスケジュールの策定と検証です。」

テストには忍耐力に加えて、文字通り「on the fly」、すなわちその場ですばやく調整ができる技量が必要です。こうした技量は特に、飛行中にエンジンを再始動させることを指す「エアスタート」でしばしば必要とされ、速度や高度が異なるさまざまな状況で対応する必要があります。カンプスはさらに続けます。「何度も試行錯誤を繰り返します。時には、ある挙動をエンジンがとるであろうと想定してテストに入るものの、想定とは全く異なる挙動を示すことが確認できただけだった、ということもあるのです。」そのような場合はFTOの基地に戻って、コンピューターも駆使してデータを詳しく調べます。そのうえでスケジュールを再調整し、1日か2日後に再び上空でテストを実施することになります。

カンプスは次のように説明します。「このような場合、2つの受け止め方があります。一つ目は、私たちが予想したようにはエンジンが動かなかった、と確認できたことです。二つ目は、だからこそ私たちはテストを行う必要があるのです。このような想定外の結果は貴重なものです。私たちの旅客機向け製品が認証されるためには不可欠な作業なのです。」

シートベルトをお確かめください。データ収集を開始します

エンジンがテストにかけられることが決定すると、チームは飛び立つ前の準備に数か月をかけます。「実際、テストフライトを行っている期間よりも、準備の方が長くかかるのが普通です」とフライトテストエンジニアとしてカンプスと緊密に協力しているケビン・ムルサは言います。FTOといえども民間航空会社と同様に、耐空要件を満たすために747に定期的なメンテナンスが必要であり、それ以外にもフライトテストチームには膨大な「To Doリスト」があります。たとえば、ソフトウェアのアップグレード、電力システムの定期的なメンテナンスに加え、テストエンジンごとに専用のパイロン(エンジンを翼に取り付ける装置)を取り付けること、モニタリングとデータ収集のためにエンジンに計測器を取り付け機体に積み込んだコンピューターに接続すること、テストの計画立案、そしてテストフライトの目的を明確にすることなどが含まれます。

手前のCF6エンジンの進行方向に見えるヨセミテバレー。エル・キャピタン、ハーフドームも見えます。画像提供:ジェイソン・チャップマン

各エンジンの取り付けに必要なハードウェアやマンパワーを含め多くのスケジュールを管理している統合エンジニアのマティ・パトナムは次のように述べています。「やることはたくさんあります。エンジン自体は1日で吊るせるものの、計器類や配線を整え、全ての点検を終えるまで1カ月はかかりますよ。」

フライトテストのあいだ、フライングテストベッドの機内は多少混雑します。テストディレクターは747の特徴となっている2階のコフライトデッキに、2人のパイロットとともに座ります。FTOのエンジニアやイブンデールのエンジニアなどテストチームの他のメンバーは1階のメインデッキに陣取ります。メインデッキではエコノミークラスの座席がほとんど取り払われ、コンピューターのラックや一人ずつの作業スペースが確保されています。合計すると通常のFTOフライトでは8人から20人が乗り込みます。ギャレーは前方の1カ所だけが(他のギャレーはコンピューター機器の設置スペースを確保し、その電源を確保するために取り外されました)残されましたが、化粧室は複数残されました。「私たちのフライトは6時間から7時間ほどかかるものがほとんどです。機内の化粧室が自由に使えなければ、長い一日、じっくり仕事に取り組むことはできませんよ」とムルサは言います。

メインデッキでの様子をパトナムは次のように説明します。「皆がそれぞれ専任でデータを担当し、モニタリングしています。何人かはパフォーマンスのデータポイントを見ています。また、別のメンバーは定められた試験基準を、さらに別のメンバーは計測器を注視しているという具合になります。」

ムルサは次のように続けます。「これらすべてが進行する間も、テストディレクターはパイロットやエンジニアと連絡を取りつつ、実施するさまざまなテストの手順を確認しながら、高度や対気速度に応じて、テストチームが必要な制御変更、スロットル操作、データ収集ができるようにそれぞれ設定していくのです。」

カンプスも次のように説明します。「事前の想定通りの結果が得られているか、常に確認しています。もし状況が思ったように推移しない場合、飛行中に修正を加える必要があるのか、あるいはそのテストをいったん中断して、また次回のフライトで再検証すべきなのかを調整するのが私の役目です。ですから、チーフテストパイロットやエンジニアリングチームと連携しながら、テストベッドをどのように運用すれば最も効率よく必要なデータを得られるかを常に考えているのです。」

クールな仕事

ここで、エンジンテストを実施する際の強靭なプラットフォームとして747がいかに適しているかについてお話ししましょう。まず、747は4基のエンジンを搭載しているため、非常に高い安全性が確保されています。カンプスは次のように説明します。「1基をテスト用エンジンに換装しても、他の3基のCF6エンジンはそのまま搭載されています。つまり、テスト用エンジン以外にも3つの電力源、3つの推力源があり、油圧システムを駆動する系統も別に3つあるのです。したがって冗長性が高いのです。」また、747の尾翼は非常に大きく、その分ラダーも非常に強力に効くこともメリットです。例えば、GE9Xのようなテスト用エンジンがもともと搭載されている反対側の翼のCF6よりも大きな推力を出し、機首が片側にヨーイングするような「非対称推力」を修正する必要がある場合も、強力なラダーが役立つのです。最後に、747には速度と高度の許容値が非常に大きい「エンベロープ」が備わっていることも利点です。「つまり、民間航空機にしては非常に高速で、かなりの高高度でも飛行することができます。このため、FTOチームはGE製ジェットエンジンをあらゆる種類の厳しいテストにかけることができるのです」とカンプスは説明します。

カリフォルニア州上空にて(低層雲で覆われている)オーエンズ・バレーを眼下に。左側にシエラネバダ山脈が連なっています。画像提供:ジェイソン・チャップマン

2020年の冬、アラスカ州フェアバンクス国際空港の駐機場である厳しいテストが行われました。きわめて低い外気温、このテストではマイナス34.4℃という条件を満たすため、FTOチームはテストベッドをカリフォルニアからアラスカへ移動させました。このテストは何日もかけて地上で行われましたが、電源システムの不具合を避けるために機体を温かく保ち、ブレーキとタイヤが凍結しないようランディングギアに温風を吹き込む必要がありました。また、テストに携わるクルーのために北極圏の気温にも耐える厚手のコートやブーツもレンタルする必要がありました。「モハベ砂漠から飛び立つのに慣れている私たちからすると、いつもとはかなり異なる状況が次々に起こりました。今までに経験した中でも一番の寒さでしたよ」とムルサは振り返ります。

当日のテストフライトにも参加したカンプスは次のように振り返ります。「マイナス34.4℃という気温は魅力的ではないかもしれません。しかし、海岸沿いを北上し、アラスカを上空から見ることもできました。デナリ山のすぐそばを飛んだのですが、山頂には美しいレンズ雲がかかっていました。」

まるで滑空するようにデナリ山の横を通過する。マウント・ホイットニーの山頂のさらに上を飛ぶ。シエラネバダ山脈の陰に沈む夕日を眺める。これら全てが「オフィス」にいるまま一日で眺められるとしたら、決して悪くはありません。

カンプスはさらに次のように語ります。「この仕事がいかにクールかをつい忘れてしまいます。冗談交じりに私はコクピットという1つのオフィスを2人のパイロットとシェアしなければならない、と言っています。ですが、眺めの良さという点では、社内で最も素晴らしいオフィスでしょうね。」

 

*GP7200エンジンは、プラット&ホイットニーとGEの合弁会社であるエンジン・アライアンス社によって製造されています。

**LEAPエンジンはGEとサフラン・エアクラフト・エンジンが50:50で共同出資している合弁会社、CFMインターナショナルの製品です。

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