
働く場所はわたしが選ぶ:世界最大の難問に取り組むインドの女性エンジニアたち
トマス・ケルナー
航空宇宙エンジニアのプージャー・チョードリー(Pooja Choudhary)は、初めて飛行機に乗った時のことを今でも鮮明に覚えていると言います。ムンバイ出身の彼女は、11歳のときに修学旅行でインド最大の観光都市であるジャイプールを訪れます。しかし、赤い砂岩でできているピンク色をした「風の宮殿(ハワー・マハル)」に彼女は興味を持ちませんでした。彼女の目的は飛行機に乗ることでした。「学校にいる時、頭上を飛ぶ飛行機を見るのが好きでした。大人になって空を飛びたいと思っていました」と彼女は語ります。「この時乗った飛行機の客室がとても大きく感じられ、外の景色がとても開放的に見えたのを今でも覚えています。」
空を飛ぶことへの憧れは彼女の中で消えることはありませんでした。地元でエンジニアリングを学んだ彼女はニューデリーにあるエア・インディアのエンジン整備工場でインターンを経験した後、2017年にバンガロールにあるGEの研究技術センターに就職しました。「GEの担当者が学校訪問に来たことをきっかけにいろいろと調べてみたのですが、とても魅力的な会社だと思いました」と彼女は言います。「絶対この会社で働きたいと思ったのです。」現在20代になった彼女は最新式のジェットエンジンに取り組み、3Dプリンティングなどの新しい製造技術を研究するかたわら、エア・インディアなどのお客様の飛行機の耐久性を伸ばすためのデータ分析を行っています。
プージャーはバンガロールにあるジョン・F・ウェルチ テクノロジー・センター(John F. Welch Technology Center:GEが米国外に初めて設置したグローバルな研究開発機関)に就職したインドの優秀な学生の一人です。昨年20周年を迎えた同センターは、127年の歴史を持つGEの中ではまだ比較的新しい施設ですが、GEのイノベーション、製品やサービスの設計、世界中のお客様との連携において非常に大きな役割を果たすようになりました。大規模な施設には3,500人以上の博士号取得者とエンジニア、スペシャリストが勤務しており、GEリサーチおよびアビエーション、ヘルスケア、ガスパワー、リニューアブルエナジーなどの各ビジネスにおける一大拠点となっています。
「私たちはGEを、その製品を、そしてお客様を深く理解しています。そしてそれが一か所に集約されているのは素晴らしいことです」と同センターのCEO、アロック・ナンダ(Alok Nanda)は言います。「また、スタッフの年齢層が若く、希望と熱意に満ちあふれた活気ある環境です。エキスパートたちの専門知識とエネルギーが一つになれば、奇跡が起きるのです。」
ナンダは自らの経験からそう語ります。2000年、まだ若いエンジニアだった彼は、自分が持つ技能を募集するGEの新聞広告に応募しました。「GEという企業について調べて、取り組んでいるテクノロジーや世界的な評価に非常に魅力を感じました」と彼は語ります。「面接だけでも受けたいと思ったのです。」願いが叶った彼は、今でもその日のことを覚えています。9月17日、この日はちょうど、当時のGEのCEOであったジャック・ウェルチ(Jack Welch)がこの緑豊かな同センターのオープニングのためにバンガロールに来ていました。プレッシャーはまったく感じなかった、と彼は笑います。
20年後、ナンダはより持続可能な発電や配電方法の研究、よりスマートで利用しやすいヘルスケアの実現、より効率的なジェットエンジンの開発など、未来を形成する数々のテクノロジーの開発を総括する立場になりました。最高責任者であるだけでなく、彼はインド全土から毎年集まってくる若いエンジニアたちの父親代わりでもあります。

GEの高性能ガスタービンであるHAシリーズを担当するスネハ・パップ(Sneha Pappu)にも話を聞きました。HAシリーズは脱炭素化を目指す各国を支援し、再生可能エネルギーの導入を推進する設備です。最近では、スネハはタービンの燃料効率向上を図るため、タービンの燃焼器の構成部品であるマイクロミキサーの再設計に3Dプリンティング技術(アディティブ・マニュファクチャリング)を用いるか検討するチームに参加しています。「3Dプリンティングは最先端の素晴らしいテクノロジーです」と彼女は語ります。「現在はテストを行っている段階ですが、進捗状況や課題がひと目でわかるのが素晴らしいですね。」
数年前まで、スネハはバンガロールの南東220マイル(約350キロ)にあるティルチ(略称:正式にはTiruchirappalli:ティルチラーパッリ)の国立工科大学(NIT)で機械工学を学んでいました。GEが人材発掘のため同大学を訪問した際、彼女はエジソン・エンジニアリング開発プログラム(Edison Engineering Development Program)のことを知りました。これは、優れたエンジニアをGEの中核事業に導くパイプラインとして機能しているプログラムです。説明会に参加した彼女は感銘を受けたと言います。「会社の代表として来ていたスタッフに心を動かされました。以前から、自分が学んだことを活かせる会社で働きたいと思っていました。」
現在、バンガロールの同センターには約200人の「エジソン」がいます。こうした熱意があるからこそ、ここはGEの最も重要なプロジェクトを担う場所になったのです。同センターの設立当時からの取り組みの一つがGE90です。長きに渡って「世界で最も強力」という評価を受けたジェットエンジンであり、現在でも多くの長距離旅客機に搭載されています。「最初は航空機エンジンのことはあまりわかっていなかったものの、物理、数学、工学、分析のことはよく理解していました」とナンダは言います。「最高の品質を実現するため、お互いの仕事から学び、評価し合うことで、信頼性を確立してきました。」
GE90が成功したことで、同センターはエンジンを開発するグローバルチームの一員となり、GE90をよりパワフルにした後継機であるGE9Xのほか、3Dプリンティング部品やセラミック基複合材料(CMC)部品(軽量で耐久性・耐熱性に優れる)を採用した画期的なマシンであるLEAPエンジンの開発に貢献しています。LEAPエンジンはGEアビエーションとサフランエアクラフトエンジンズの50:50の合弁会社であるCFMインターナショナルが開発したものです。同センターのスタッフは最新のGEソフトウェア開発に参加するほか、再生可能エネルギーの予測可能性を高めるプロジェクトにも従事し、風力発電に太陽電池パネルと蓄電池を組み合わせたハイブリッド設備の部品の開発を行っています。「私が入社した当時は、米国と西ヨーロッパ以外でのGEの収益は20%程度でした。それが今では65%にも伸びています」とナンダは説明します。「市場も大きく動き、私たちは幸運にもその成長の中心的役割を担うことができました。」

背の高いヤシの木が並び、エメラルドグリーンの芝生が敷きつめられた同センターは、GEのお客様の視察先の一つになっています。お客様はGEについて理解し、連携する新しい方法を探るためこのセンターを訪れると言います。「このセンターは彼らにとってラボ、実験室のようなものです」とナンダは言います。「GEの各ビジネスについて、一部だけでなくすべてを見ることができる点が他の施設にはないユニークな特徴です。」
ある時、エア・インディアがより早くエンジンのオーバーホール作業を行う方法を求めてバンガロールに担当者を派遣しました。「私たちは多くの課題について話し合いました。問題を把握するためにGEのエンジニアがショップ(工場)に出向き、データの調査を行いました」とナンダは言います。「今では、同社に納入したエンジンは世界最高クラスの一つになっています。」
同センターで交流するのはお客様だけではありません。ナンダは地域社会にも門戸を開いています。たとえば、センターでは周辺の学校と連携するプログラムを開始しました。学生の教育や指導を支援するほか、センターに招待し、時には食事を提供しています。学生は食事の支給を受けるために教室に来て、そのまま残って授業を受けます。シュルティ(Shruti)はそんな女子学生の中の一人で、工学の学位を取得し、センターでのインターンシップを終了しました。「私たちにとっても誇らしい瞬間でした。彼女のことは7年生か8年生の時から知っていますが、今や立派なエンジニアです。家族の中で学校に行ったのは彼女一人です。『シュルティ、GEで働きたいかい?』と尋ねると、彼女は『そうしようかな』と答えました。とても誇らしく、充実感を覚えた瞬間でした」とナンダは語ります。
センターの今後20年間を描く計画を聞いたところ、基盤を強化するとともに、さらに拡大していくことだとナンダは語りました。「センターには20年前にはなかった専門知識が蓄積されています。社内にも私たちのことが周知されていますし、今後も素晴らしいプログラムに取り組み、主体性をもって結果を追求する予定です。しかし、今こそ社外のエコシステム―政府やお客様、さらに教育機関など―ともこれまで以上に幅広く連携していく必要があります。課題はスタートアップとどのように連携するかです。」
GE Reportsがインタビューした若いエンジニアたちは、すでに未来に向けた取り組みを進めています。1年前にティルチの国立工科大学(NIT)からGEに入社したサンジャーナ・G(Sanjana G)は現在、GEヘルスケアのソフトウェアプラットフォーム「エジソン」向け人工知能アルゴリズムやその他のコンピュータコードの開発を担当しています。この仕事はヘルスケアの新しい1ページにつながるものですが、大学でソフトウェアクラブに所属し、糖尿病性網膜症の解析に役立つアプリを開発したサンジャーナにとっても最高のキャリアステップでした。約6,500万人の糖尿病患者を抱えるインドでは、網膜疾患は緊急を要する問題です。「私は生産工学を専攻していましたが、自分のやりたいことを諦めずに追求しました」と彼女は話します。
また、彼女は同僚たちとともに、さまざまな分野のエンジニアが集まる勉強会に頻繁に参加しています。参加者たちは、さまざまな見識を組み合わせたり、新しいことを学んだり、問題解決に協力し合うことで新しいビジネスチャンスを見つける場にもなっています。 ナンダはこう語ります。「私たちにとって重要だったのは『ここがわからないので学びたい、教えてほしい』と言える環境を作ることでした。それがなければここまでたどり着くことはできなかったでしょう。自分がまだ知らないことを受け入れる姿勢が重要なのです。謙虚さこそ、私たちが懸命に取り組んできたことです。」