
GE Vernova、ノルウェーのグリーンバード社を買収、新時代の電力網管理を支援
クリスティン・ギブソン
日常的に電気を使う人なら、次のようなシナリオはお馴染みではないでしょうか。大きな雷の音、土砂降りの雨と稲妻が走り、部屋が突然真っ暗になる――通常、数秒以内に電気は戻りますが、暴風雨で電柱が倒壊した場合は復旧に数時間はかかります。さらに変電所が機能不全に陥った場合に備えて、ロウソクや常温保存可能な食糧を買いだめしておくほうが良いといった具合です。
気候変動によって豪雨や暴風がもたらされ、停電がより頻繁に起こり、停電時間もより長くなることが予想されますが、もし電力会社が事前の備えをより盤石にできるとしたらどうでしょうか?
例えば次のような状況を思い浮かべてみてください。いつどこで暴風雨に見舞われるかを予測するために、電力会社が気象データを分析します。同時に、送電用鉄塔の位置とその標高をピンポイントで把握する地理情報システム(GIS)データを確認して、電力会社はそれぞれの鉄塔が耐えられる設計風速を参照し、故障する可能性がある鉄塔には作業員を配置し、交換部品も準備します。そして実際に停電が発生すると、ソフトウェアが障害ごとに一時的に送電経路を迂回させ、場合によっては電力利用者の電気自動車の車載バッテリーが蓄電している電力を引き出し、翌月の請求書で相殺することもある、という仕組みがあるとしたらどうでしょう。
このような仕組みは、世界初の包括的なグリッド(送配電網)オーケストレーション ソフトウェア スイートであるGridOSがもつ機能のひとつです(「OS」はオーケストレーション ソフトウェアの略です)。GE Vernovaのデジタルビジネス部門がことし2月に明らかにしたGridOSは、GE VernovaのAI搭載型グリッド オーケストレーション ツールのポートフォリオに含まれている複数の機能、たとえば安全で信頼性の高いグリッドを運用するためのソフトウェア、すでにグリッドに繋がっている再生可能エネルギーリソース、そして電力需要を満たすためのエネルギー取引を担うソフトウェアなどを、ひとつの共通プラットフォームに統合しました。このようなテクノロジーは、絶えず更新され、かつ共有されるデータセットを必要とします。しかし、このデータセットは膨大な情報で構成されているため、各電力会社が集約・解析するのは困難でした。そこで、GE Vernovaは電力会社向けのデータ プラットフォームを専門とするノルウェーのソフトウェア企業であるGreenbird Integration Technology AS(以下、グリーンバード)を買収しました。グリーンバードを買収したことで、今後GE Vernovaは実証済みのテクノロジーを活用しつつ複数のシステムからより多くの情報を集約できるようになります。また、グリッドを運用管理する各電力会社としても、GridOSを利用することでグリッド全体の状況をリアルタイムでさらに把握しやすくなるようになります。
さらに、GridOSは、より多くの再生可能エネルギーへ移行を促進するという、グリッド運用をより複雑にする課題にも対応するように設計されています。トーマス・エジソンが1882年に最初の公共発電所を建設して以来、電力はグリッドを通じて発電所から消費者へと一方向でのみ送電されてきました。しかし近年では、電力を利用するお客様は、たとえば自宅の屋根上のソーラーパネルや、ガレージ内の電気自動車のバッテリーからグリッドシステムに電力を送り返すこともできます。問題をさらに複雑にしている背景には、風力タービン、ソーラーパネル、その他の再生可能エネルギー源の大規模設備からますます多くの電力エネルギーが生成されるため、電力会社は日が射さない、あるいは風が吹かないといった時に他の電源に切り替える準備をしておく必要があることが挙げられます。と同時に、電力需要は過去30年間で3倍に増加しており、2050年までにさらに3倍になると予想されており、容量の拡充も急務です。
これらの課題はすべて、老朽化したシステムに、場合によっては1960年代に遡るコンポーネントがまだ現役であるシステムに流れ込み、集中しています。GE Vernovaデジタルビジネス担当シニアバイスプレジデント兼チーフプロダクトオフィサーを務めるショーン・モーザーは次のように説明します。「旧式なハードウェアといつ起こるとも知れない不具合がごちゃ混ぜになっています。一方、私たちはグリッドがまるで魔法のようなものであると思い込んでいます。つまり、スイッチを入れるとライトが点灯することは当たり前で、私たちはもはやそれ以下の生活は耐えられないのです。」
電力需要が急増し、新たな電力源が出現するにつれ、グリッド管理の手法も合わせて進化する必要があります。GE Vernovaデジタルビジネスのグリッド ソフトウェア エンジニアリング担当バイスプレジデント、アンディ・レクターは次のように説明します。「高度なソフトウェアがなければ、より持続可能なエネルギーに移行することはできないのです。」
GridOSは幅広い視点に基づいたソリューションを提供しますが、グリッド全体、さらにはグリッド外部のデータソースも不可欠です。幸いなことに、データは入手可能です。ですが、残念ながらモーザーが指摘するように「大変な混沌」の中からデータを拾い出さなければソリューションの提供には至りません。そうしたデータはほとんどが電力会社の個々の部門内に抱え込まれており、モーザーは次のように説明します。「この業務を適切に遂行するには、グリッドにかかわっている全ての参加者からの情報が必要なのです。つまり、各電力会社の太陽光発電と風力発電の発電量、そして各地域のお客様の消費電力量を知る必要があります。そうすれば、ある特定の日にどれだけのガスが燃料として必要なのか把握することができます。」
こうしたニーズに応える一貫したデータベースを構築するには、異なるソースから最新の情報を絶え間なく継続的に抽出し続け、体系化し、下流工程を担うアプリケーションで利用できるようにする必要があります。それには多くの場合数時間かかり、グリッド内の一瞬というペースの中でデータは陳腐化します。求められるスピードで問題に対処するために、モーザーは「ミリ秒からマイクロ秒単位で事象を見ることが必要です。そうでないと、あちこちで停電が発生してしまいます」と述べています。そのため、多くの電力会社がAIツールにすでに関心を寄せています。しかし、従来のツールのほとんどは、特定の問題に対処することを目的とした設計にとどまっており、連携して動作したり、狭い範囲を外れた状況に対応したりすることができない、つぎはぎのパッチワークのようなものになっています。
そこでグリーンバードの出番となります。グリーンバードのエネルギー対応統合および分析プラットフォームは情報を単に1か所に集約するのではなく、単一で統一されたインターフェースを通じて機器センサー、市場調査、顧客サービスレポート、自動車交通量、気象衛星などのさまざまなデータソースを一元化します。「ユーザーにとっては、異なるシステムがまるで1つのデータベースのように利用できるわけです」とレクターは説明します。
モーザーもこの点に関し次のように説明します。「これは、考え得るすべての宝箱に導いてくれる宝の地図だと考えてください。情報がどこに保存されているか、いつ収集されたか、システムごとに異なるラベルが付いているかどうかをもう心配する必要はありません。問題を解決するために必要なものは、ただ呼び出すだけで済むのです。」
カスタムコードに依存するほとんどのデータ統合技術とは異なり、グリーンバードのプラットフォームは、一般的なアプリケーション用にすでに構築された接続ライブラリを提供し、新たなソースからの情報を簡単に引き出せるようになっています。モーザーは次のように説明します。「例えば、『ここに質問が1つあるが、それに答えるために常にこれら2つのデータを結合する』という従来のアプローチの代わりに、グリーンバードはすべてのデータを仮想空間にマッピングし、そこにスレッドを描画していく仕組みです。したがって、例えば私がいったん『これら20個のデータポイントが必要です』という指示を送ったとします。ですが、今度はさらに2つ追加したい、あるいは逆に、このうちの15個だけが必要だ、というケースにも対応できます。いずれにしても、状況に応じて好きなように組み合わせることができるのがこのシステムの利点なのです。」
GE VernovaのデジタルビジネスCEOのスコット・リースは次のように述べています。「グリーンバードはデータの力を活用して、電化と脱炭素化の課題の解決に取り組むお客様により良いサービスを提供できます。関連性の高い重要なエネルギーデータを結び付けることで、GridOSは電力会社が再生可能エネルギーをより効果的に活用し、電力供給不安に備え、対応できるように支援します。」
また、今回の買収により、GE Vernovaグリッドソフトウェアチームに新たな人材が加わることになります。グリーンバードのCEO兼共同創設者、トーステン・ヘラーは両社の文化がソフトウェアと同様に親和性が高いことは喜ばしいとして、次のように語ります。「GE Vernovaとグリーンバードには、再生可能エネルギーへの移行を推進するという同じミッションがあります。グリーンバードは2010年に公益事業向けのデータ統合を簡素化するというミッションを掲げてスタートしましたが、それはGridOSが掲げるデータファブリック機能および単一ネットワークモデルにおけるGE Vernovaデジタルビジネス部門のビジョンと非常に親和性が高いシステムです。電力会社が業務を変革するために必要なデータ基盤を提供することで、私たちは力を合わせてエネルギー転換をより加速させることができます。」