
エッジコンピューティングで一歩先へ:GEの『Lifespan』ソフトウェアが再エネのデジタル化を加速
ダイアナ・デリング
北米では、再生可能エネルギーによる発電が爆発的に増加しています。米国エネルギー省によると、いまや米国の3分の1の州で州内の発電量の少なくとも10%を再生可能エネルギーで賄っており、アイオワ州の場合、州内の発電量の57%が風力発電によるものになっています。米国が2035年までに100%カーボンフリー発電という目標に向かっていることを見ても、同国内の再エネ発電の比率はさらに増加すると予測されています。
しかし、どのような転換にも言えることですが、エネルギー転換も一筋縄ではいきません。発電事業者はより多くの風力や太陽光エネルギーを取り込もうとする一方でコストは抑えたいと考えます。GEリニューアブルエナジーのチーフ デジタル オフィサーを務めるブライアン・ケース(Brian Case)は「風力発電や太陽光発電の事業者が増加するにつれ、より高い効率性と収益性に資するさらに優れたツールが必要になっているのです」と語ります。
そうしたツールのひとつになるのが、GEの再生可能エネルギー事業者向けのソフトウェアである『Lifespan』です。これは、再生可能エネルギー事業者が所有する事業資産全体のパフォーマンスとオペレーションを最適化するよう設計されたソフトウェアパッケージです。GEは5月半ばにテキサス州サンアントニオで開催されたThe American Clean Power Association主催の年次総会であるCleanpower 2022においてLifespanソフトウェアを発表しました。
再生可能エネルギー事業者が各地に所有する施設をモニタリングするのは、設置場所が多種多様であることからも複雑なタスクと言えます。また、テキサス州にある風力発電所のメンテナンス作業の場合、まず地元のチームが現場の作業に取り掛かる一方、シカゴにいるエンジニアがトラブルシューティングのための提案を行い、なおかつニューヨークを拠点とする財務アナリストが大規模な事業資産をどう最適化するか思案する、という込み入った状況になります。そのうえ、各チームは物理的にもデジタル的にもそれぞれ別のデータやワークフローを抱え込み、横のつながりを失いがちです。そこでLifespanの出番となるわけです。Lifespanはこうした課題を乗り越えるため、異なる業務を展開する複数のチーム間においても統一された業務フローを通して特定の資産群とそれぞれのオペレーションデータを連携させ、グループ一体として機能させます。つまり、LifespanはGEとお客様が事業資産の分析をリアルタイムに行えるほか、コンプライアンスを遵守しつつリモート・コントロールできるよう、かつ現場レベルで効率的なメンテナンスが行えるように設計されています。通称「ウエストポイント」と呼ばれるアメリカ合衆国陸軍士官学校の卒業生で、16年前にGEに入社する以前にブロンズスターメダルを授与された米陸軍の退役軍人でもある。ブライアン・ケースは、次のように説明します。「Lifespanは、お互い遠く離れていても一体的なデータの利用とコマンドおよびコントロールの安全性とを両立しながら、必要な機能すべてを一括的に提供できるのです。」
ケースが率いるチームはこの新しいソフトウェアパッケージを開発する過程で、2年半にわたりGE製風力タービンのお客様や発電事業者と直接関わり、開発を進めました。その中には、それぞれ遠く離れた5カ所のオペレーションセンターや世界40カ国以上のフィールドチームに所属する技術者との協力も含まれています。ケースは次のように語ります。「エンドユーザーの声を聞き、彼らが感じている問題点を把握しようと神経を研ぎ澄ませました。そのためにはソフトウェアのエンジニア自ら、現場の技術者と一緒に風力発電用タワーに登ることもありました。」

GEの開発陣は発電事業者と密接に協力し、彼らの最大の課題を解決するためにLifespanを開発しました。例えば、あるアプリケーションでは、人工知能を活用して、各施設の現在の性能と検査データから将来発生する可能性のあるタービンのメンテナンスにおける諸課題を正確に予測することができます。「全てのコンポーネントの状況把握を支援することで、大掛かりな交換が必要になる事態を避けることができるのです。そうすると多くの場合、従来ならば大規模な交換処理が必要だった場面でも、コストを抑えた修理のみで対応することができるのです」とケースは説明します。
Lifespanは、エッジ・トゥ・クラウド(edge-to-cloud)コンピューティング・ネットワークを活用する製品群です。エッジ・トゥ・クラウドとは、比較的小規模でローカルかつ高速なデータサーバー(インターネットの「エッジ(末端)」にあるサーバー)で情報を収集・分析した後、より大規模なデータクラウドに転送して大局的な分析を実行し、データの保存期間もより長期的なものを想定した仕組みです。一般のユーザーにとってはほとんど意味のないことかもしれませんが、エッジ・トゥ・クラウド・コンピューティングを活用することは、クラウドに直接保存するよりも安全かつ効率的にデータを処理できる上、エッジに保存した情報は、クラウドに保存したデータよりも速く1秒未満のスピードで取り出すことができます。毎日何百回ものデータ読み取りにかかる時間を短縮することで、発電事業者は電力需要の変化に応じたリソース再配分を素早く実行し、あるいは緊急を要する設備の不具合に即座に対処できるようになります。送配電網は人類が作り上げた最大の装置と言われています。そして送配電システムが正常に機能し、停電を引き起こさないためには、電力の供給と需要が常にバランスを取っていることが必要なのです。
GEの開発チームは、Lifespanの設計に手を貸してくださった方々、つまりお客様に協力していただき、Lifespanのテストを重ねました。3年間で約5,000万ドルの効率化を実現し、このプラットフォームはGE自身にとっても日常業務の中核を占める存在となりました。
ケースはまた次のように説明します。「デジタル化の究極の目標は、意外かもしれませんが、実際にはテクノロジーそのものの進化ではないのです。むしろ、高効率なデジタルワークフロー、人工知能、そして高度なデータ管理などのメリットを活用して業務プロセスを変革することであり、そのメリットをあらゆる組織の全ての人々に行き渡らせること、それがより重要なのです。」