
ブレードランナー:世界最大のジェットエンジンのタービン部品を3Dプリントで製作する工場
イタリア北部の都市カメリは、静かな農村地区によく間違われがちですが、カメリを取り囲む肥沃なポー平原の起伏に富んだ畑の中を少しドライブしてみれば、違いに驚くことでしょう。
カメリは、米防衛大手ロッキード・マーティンの垂直離着陸が可能なステルスジェット機、F-35B統合攻撃戦闘機の国外で唯一の最終組立工場の本拠地です。工場の滑走路のちょうど真向かいにあるのが、もう一つ未来の製造の粋を集めたGEアビエーションの傘下にあるアビオ・アエロの3Dプリンティング工場です。ここでは、世界最大のジェットエンジンであるGE9X用の流線型のタービンブレードを製造しており、今年の3月13日に、初飛行を行いました。
GEアビエーションは、2013年にアビオ・アエロ買収し、ボーイングの次世代777Xジェット機用のGE9Xエンジンを開発しました。3Dプリントされたブレードは、エンジン内部で毎分2,500回転し、焼けつくような熱さと巨大な力にさらされます。「これは巨大なブレードです。作業を成功させるまで何回も実験を繰り返しました」と語るのは、アビオ・アエロでエンジニアリング部門のジェネラル・マネージャーを務めるジョルジョ・アベレートです。
3Dプリンティング工場は、外からはスチールとガラスでできた青とグレーの宝石箱のように見え、20台の黒い衣装ダンスサイズのアーカム製3Dプリンターを収容しています。1台のマシンで同時に6つのタービンブレードを、強力な3キロワットの電子ビームでコンピューターファイルから直接プリントできます。このビームによって、チタンアルミ粉末の薄い層を次々に溶融することで、ブレードが「成長」し、40センチの長さになります。
TiAlの別名でも知られる、この丈夫で熱に強い、素晴らしい素材は、ジェットエンジンの設計者から高い評価を得ています。重さは、航空機で一般的に使用される金属合金より50パーセント軽量です。ただし、TiAlは非常に壊れやすい性質もあります。3Dプリンティングが登場するまで、TiAlを成形する唯一の方法は、鋳造という、高価な工具を必要とする少々汚れる作業でした。「この工場は、アディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)を利用してどのような技術が実現可能かを理解するのに有効です」。GEアビエーションの社長兼最高経営責任者のデビッド・ジョイス氏はこう述べています。
2016年、GEはアーカムの株式の過半数を取得し、GEアディティブを立ち上げ、3Dプリンティングのような積層造形技術に特化した新事業を開始しました。アディティブ・マニュファクチャリングは、成長著しい産業とはいえ、まだ若い産業です。GEアディティブを立ち上げたモハメッド・エテシャミは、この産業が現在の70億ドルから10年で800億ドルに成長すると予想しています。
アビオ・アエロが3Dプリンティングの調査を開始したのは10年以上前のことです。当時、GEアビエーションがボーイングのドリームライナーのために開発中だったGEnxジェットエンジンにTiAl製ブレードを採用したと噂になりました。当時、GEアビエーションの素材とプロセスエンジニアリング部門のジェネラル・マネージャーを務めていたロバート・シャフリク氏が航空専門ニュースサイトFlightGlobalに次のように語りました。「わたしたちにとって、創業してエンジンをこの技術に賭けることは一大事でした。重さがニッケル合金の50パーセントしかないとしたら、TiAlが普及すると考えざるを得ません」。
GEは鋳造工場でブレードを鋳造したが、アビオ・アエロは新興のTiAl市場を狙い、3Dプリンティングに賭けようとしました。「ブレードの製作は困難が予想されましたが、軍事プロジェクトで3Dプリンティングの有益な経験を積みました」(アベレート)。
一番上の画像:GE9Xは、3月に初飛行を行いました。画像著作権:GEアビエーション。カスタマイズされたアーカムの3Dプリンターで、通常の3Dプリンターで使用されるレーザーの数倍強力な電子ビームを照射し、TiAl粉末を溶融して重ねます。画像著作権:Yari Bovalino(GEレポート)。
アビオ・アエロは、近くにあった統合攻撃戦闘機の組み立て工場を活用し、そばにアディティブ・マニュファクチャリング部門を立ち上げることを決定しました。「この場所の選定も当社の戦略の一環です。ロッキードの工場のおかげでこの町は、航空宇宙企業の間で非常に知名度が上がりました。見込み客に対し、3Dプリンティングの採用促進を図りたいと考えました。みなここに集まってきました」(アブレート)。
この賭けには、複数の3Dプリンターの入手が必要でした。アビオ・アエロは、プリンターを取得するためプロトキャストと提携しました。プロトキャストは、イタリアの3Dプリンティングのパイオニアでカメリから車で少しの作業場を拠点としています。「本当にガレージでした」とアブレートは思い出しながらこう続けました。「私たちは、『潜水艦』と呼んでいました。あまりに狭くて機械を操作している人の横を通ることもできなかったからです」。
しかし、プロトキャストのレーザー搭載プリンターによる初期生産は失敗でした。アブレート氏らのチームがブレードをプリントされた土台から分離しようとすると、ブレードに亀裂が入ったのです。もっとも、この潜水艦には、秘密兵器がありました。TiAlの粉末から部品をプリントするアーカム製の高性能プリンターです。アブレート氏はアーカムに連絡を取り、プリンター設計を改良して、粉末の層を厚くし、プリント工程を高速化するよう依頼しました。実験を重ねることで、プリントする前に粉末を温めておけば、完成部品の残留応力をほとんど除去できることも分かりました。「その時点で、やるべきことが分りました」(アブレート)。
3Dプリントされたブレードは、エンジン内部で毎分2,500回転し、熱と巨大な力にさらされます。画像著作権:アビオ・アエロ
アビオ・アエロがGEにこの素晴らしい素材で実現しつつあることを示すと、GEは即座に、この革新的技術の重要性を理解しました。その頃には、アビオ・アエロはプロとキャストを買収し、アーカムと独占契約を締結して、一定数の改造機を入手していました。GEアビエーションは、シンシナティの本社の近くで、独自の3Dプリンティングプログラムの開発を進めていました。同社は、グレッグ・モリスと協力して、LEAPという新しいジェットエンジン用の3Dプリントで製作された燃料ノズルの開発に取り組んでいました。同氏は、モーリス・テクノロジーの創設者で、積層造形への転換における新たな指導的存在でもあります。「彼らは、すでに確信していました」(アブレート)。アブレートによると、GEが2013年にアビオ・アエロを買収したのは、「非常に幸運なことで、それ以後すべてが加速した」とのことです。
カメリで生産されたブレードは、すでに最初のGE9Xエンジンに使用されており、GEが2017年にテストを開始しています。これらの新素材や新技術のおかげで、エンジンの燃費が旧モデルのGE90より10パーセント向上します。燃料費が航空会社の運用コストの約19パーセントを占めていることを考えれば、これは重要なことです。
カメリの工場では、専門の時間給労働者を8人雇い、粉末の機械への投入、プリントした部品の取り外しとクリーニング、保守を行っています。ほかにも製造技術者が9人いて、製造工程を絶えず改善しています。技術者の1人、ダリオ・マンテガッツァは、3Dプリンティングをこう評しています。「製造の究極の自由を手に入れました」。