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3Dプリンティングが最適:コンクリートの3Dプリンティングで風力タービンのタワー建設を効率化

トーマス・ケルナー

ニューヨーク州の東端を車で走ると起伏に富んだ丘陵地帯や人里離れた稜線に立ち並ぶ風力タービンの数がこの10年でずいぶんと増えたことに気づくはずです。世界の他の地域と同様、これほどたくさんの風力発電ファームが存在することは、アメリカが再生可能エネルギーをますます受け入れるようになっていることの現れと言えるでしょう。

しかし、広大なアメリカのほんの一角でオンタリオ湖を渡る風を受ける大きなローター群を見ているだけでは、アメリカの風力発電業界の今後を十分に理解したことにはなりません。そこで、オンタリオ湖の南に位置するロチェスター市(Rochester)からさらに南にあるベルゲン(Bergen)にある巨大な倉庫を見てみましょう。ここではGEリニューアブルエナジーのエンジニア陣と何社ものパートナー企業が共同で、再生可能エネルギー産業が今後より多くの風を捉えるためのイノベーションに取り組んでいるのです。

倉庫の中では20人ほどの技術者が世界最大級の3Dプリンターを活用し、風力タービンタワーの基礎をハイテクコンクリートで成形するべく取り組んでいます。ここでの彼らの活躍次第で、風力発電産業における陸上風力タービンのサイズと出力のボトルネックを解消し、より高効率な風力発電所の設計につながる可能性もあるのです。

GEリニューアブルエナジーのエマージングテクノロジー担当シニアエンジニアリングマネージャーでありこの施設のリーダーであるクリストファー・ケニー(Christopher Kenny)は、ここ数十年で風力発電産業は驚異的な進歩を遂げたと語ります。しかし、陸上風力発電の発電機には物理的な限界が迫っているのも事実であるとした上で「より大きな発電機を設置するには、より高く、より強く、より大きなタワーが必要になるのです。このまま何もしなければ、やがて壁にぶち当たります」とケニーは説明します。

トップ画像:「このまま何もしなければ、やがて壁にぶち当たります」と話すGEリニューアブルエナジーのクリス・ケニー 上画像:ケニーとチームが風力タービンタワーの基礎をコンクリートで3Dプリンティングするために活用する世界最大級の3Dプリンター 画像提供:GE Reports

現在、風力発電用タワーを設置するには、タワーの設置業者が事前に組み上げた鋼管を重量物運搬用のフラットベッドトラックに積載して現場まで運び、さらに現地で溶接することが必要です。しかし、ニューヨークのエレベーターのないアパートに家具を運び込もうとした人ならご存じでしょうが、なにかを運ぶ際には限界というものがあります。風力タービン用タワーの場合、直径約14フィート(約4.3m)というサイズが限界です。これ以上大きくするとフラットベッドトラックに積載しても幅があり過ぎて多くの道路で通行できません。(風力発電用ブレードも同じ理由で長さの問題を抱えていました。ですが、GEはブレードを2つに分割し、風力発電所の現場で組み立てるという工夫をしてこの課題を乗り越えました)。「幅の問題は本当に大きな難題だったのですが、それを回避する方法を見出すことができたのです」とケニーは語ります。

その方法とは、アディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)としても知られる3Dプリンティング技術を活用することでした。現場でコンクリートを3Dプリンティングしてタワーの基礎を成型することにより、風力発電所の建設業者はより直径の大きな基礎を建設できるため、強力なタービンを支えるのに十分な強度がありながらより高さのあるタワーを作ることができるのです。この方法はさらに、これまで風力発電に不向きとみなされてきた場所にも新たにタワーを設置することを可能にする見込みです。

ケニーと彼のチームがベルゲンでテストしている3Dプリンターは、長いトラスとビーム(梁)を直角につなげたもので、音楽祭のコンサートステージのような形をしています。梁に取り付けられた電気モーターがプリンティングノズルを3方向に動かし、高さ20m(約66フィート)までのコンクリート構造物を3Dプリンティングすることができるのです。

ケニーは、高さ20mのコンクリート製基礎が確保できれば、事前に組み上げた鋼材をその上に溶接して重ねていくことで140m(450フィート)に達するタワーを持つタービンを設計できると説明します。強力なタービンをより高い位置に設置することで、年間総発電量(Annual Energy Production:以下AEP)がより向上する可能性が高くなります。AEPは風力タービンの効率を表す重要な数値で、タービンが1年間に生み出す実際のエネルギー量を表し、タービンの設計、立地による風速の条件、および強風の吹く日数によって異なります。「AEPを向上させるためにはハブが設置される高さが重要ですが、現在でも完全な最適化には至っていないのが一般的です。というのも、地表から高く離れた方が安定した強い風を確保できることが一般的であるものの、現実には建設が難しいからです」とケニーは語ります。

3Dプリンティングで成型することによりコンクリートの基礎の高さを変更できるので、タービンの高さを現地の地形に合わせて最適化しやすくなるのも利点です。とは言え「きわめて広範囲に及び地形や風の状況が様々である風力発電所になると、敷地のレイアウトを最大限に生かすためにタービンの高さのバリエーションを増やすにも限度があるのも事実です」とケニーは説明します。

米国エネルギー省はこの研究に500万ドルの助成金を供与しており、このプロジェクトの重要性を裏付けています。GEリニューアブルエナジーのCTO(最高技術責任者)を務めるダニエル・マーフェルド(Danielle Merfeld)は次のように語ります。「ここで実施している研究に対するエネルギー省の支援に感謝します。この研究は効率性、経済性、そして環境への影響の観点からも、今後の風力発電所の開発をさらに推進すると確信しています。こうしたイノベーションは、今後もエネルギー転換を加速させる重要な原動力であり続けるでしょう。」

コンクリートは移動可能なモバイルプラントから供給されます。画像提供:GE Reports

この施設は4月下旬に「オープンハウス」を開催する予定です。出席者には、GEリニューアブルエナジーの先進製造技術リーダーを務めるマテオ・ベルッチ(Matteo Bellucci)、3Dプリンターを設計したデンマーク企業コボド社(COBOD)創設者兼ゼネラルマネージャーのエンリケ・ルンドニールセン(Henrik Lund-Nielsen)、GEの3Dプリンティング用ハイテクコンクリートの開発を支援するパートナー企業、ホルシム社(Holcim)のグローバルR&D、イノベーション、IPを率いるエデリオ・ベルメジョ氏(Edelio Bermejo)、そしてプリンティングプロセスの開発および標準化をサポートするニューヨークのエンジニアリング企業オプティメーション社(Optimation)の担当者などが予定されています。

GEは、数年前から3Dプリンティングで成型する風力タービンタワーの研究も実施しています。また、コボド社とホルシム社と協力し、2020年にデンマークでコンクリートタワーを3Dプリンティングしました

デンマークでの最初の3Dプリンティングテストにも立ち会ったケニーは「GEはこの2年間、コボドとプリンターの設計を進化させ、ホルシムとはコンクリートの新しい組成を研究してきました」と語ります。一例をあげると、GEはベルゲンで現地で入手可能な岩や砂を使うことで、その場所に最適な配合レシピを開発するためのプロセスも考案しました。「わざわざ遠くから石をトラックで運ぶよりも、地元の材料を活用する方が経済的にも環境的にも合理的です」とケニーは説明します。

また、このコラボレーションは、モバイルプリンティングオペレーションが現場で必要とするツールや機器を洗い出すことにもつながっています。大型3Dプリンター、トレーラーに搭載可能な移動式コンクリートバッチプラント、同じく移動可能なセメント貯蔵タンク、芯材としてコンクリートに埋め込みタワーを支える円形の鉄筋リングを形成するためのアセンブリ設備なども含まれます。「プロセスをサポートするために開発しているツールや機器はすべて、現場から現場へと移動できるようカスタマイズされたポッドに収まるようになっています。そうしたツールや機器のプロトタイプも今、ここでテストを重ねているのです」とケニーは説明します。

数十ものセンサーとソフトウェアがコンクリート3Dプリンティングの製造工程をモニターします。「材料を混ぜ合わせコンクリートを成形するプロセスに入ったら、3Dプリンティングするまでの時間は限られています」とケニーは語ります。画像提供:GE Reports

クリートバッチプラントには、砂、石、セメントの重量、材料中の水分量、混合する際の回転トルク、レオロジー(流動学:ここでは液状のコンクリートの流れ)などをモニターするセンサーがそれぞれのバッチ毎に備わっています。そして、トレーラーの真ん中にあるガラス張りの操作室のコンピューターから、オペレーターはすべての工程を監視し調整します。ケニーは次のように説明します。「材料を混ぜ合わせコンクリートを成形するプロセスに入ったら、3Dプリンティングできる時間は限られています。テスト、コンピューターモデリング、シミュレーションを組み合わせた結果、コンクリートが上の層や鉄筋の荷重に対応できるように強度を発揮しつつ、一定の速度でプリンターから押し出されるよう調整を重ねています。こうして目標とする時間枠内に構造物を建設することができるのです。」

システム全体は次のように設計されています。まずバッチプラントが貯蔵タンクから送出されたセメントと石、砂、水を混ぜ合わせてコンクリートを作りプリンターに送ります。そして、プリンターが特殊なノズルからコンクリートを希望の形状に押し出して層を形成します。1層の厚さは数インチ(10cmほど)です。バッチプラントと同様、この工程もセンサーやカメラで監視されます。

現場のチームがセンサーとカメラで全工程を監視します。画像提供:GE Reports

とは言え、検討しなければならないエンジニアリング上の課題はまだ数多くあります。例えば、コンクリート混合物はその上の層が変形しないように、迅速に硬化させる必要があります。しかし、コンクリートの硬化が速すぎると、プリンターが詰まり故障してしまう恐れが出てきます。「絶妙なバランスを取ることが必要なのです」とケニーは語ります。

さらに、モニタリングも製品の品質管理やその保証のために重要です。そして当然ながら、GEがこの3Dプリンティングプロセスを展開するためには政府の承認も必要であり、「それもこの施設を設置した大きな目的の一つなのです」とケニーは説明します。

GEは、2022年に屋内での3Dプリンティングプロセスのテストを実施し、さらに来年には屋外でのプリンティングを開始し、本格的な屋外タワーセグメントの実証を目指す予定です。最終的な目標は、費用対効果に優れた高いタワーが開発可能であることを実証することです。そのためにGEのチームは発電量2-3MWのプロトタイプタービンを設置するのにふさわしい場所の選定作業を進めています。

3Dプリンティング技術を活用する住宅の建設はすでに導入事例が見られますが、風力タービンのタワーの場合、それとは桁違いな水準の難題をいくつも乗り越える必要があります。ケニーは次のように説明します。「私たちが取り組んでいる荷重や構造上の要件は、現在の住宅向け3Dプリンティング技術よりもはるかに高い水準が求められます。GEは経験を重ね、アディティブ・マニュファクチャリングが持つ可能性をさらに広げていきます。」

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