
エネルギーの新次元:オーストラリア、アジアへの水素供給拠点を目指す
ブレット・ネルソン
オーストラリアは長い間、電力の燃料源を石炭に依存してきましたが、今は風力や太陽光などの再生可能エネルギー源へ注目が集まっています。しかし、再生可能エネルギーに安定した発電力という高い信頼性を望む場合、そよ風すら吹かず、日差しもないときにどうやって送配電を支えるかという手立てが必要です。そして、これらの再生可能エネルギー源の弱点を補うことで効率よく電力を届けることができる一方、結果的には石炭火力発電と比べてCO2排出量をも即座に削減できるのが天然ガスによる発電です。
オーストラリアがクリーンエネルギーへ劇的に転換している好例として、エナジー・オーストラリア社(EnergyAustralia)がシドニーのすぐ南に新設するタラワラ(Tallawarra)B発電所のようなガス発電プロジェクトが挙げられます。電力需要のピーク時に依存されることから「ピーカー(peaker)」と称されるこの発電プラントはGEの9F.05ガスタービンを動力源とし、約316MWを迅速に発電することで需給ギャップを埋めることができ15万世帯の消費電力を賄うこともできます。また、この新プラントは2023年に稼働停止予定である近隣の石炭火力発電所が発電していた1.7GWの発電容量を部分的に肩代わりする役割も果たします。
タラワラに設置されるガスタービンは、これまでにGEが40か国で2400万時間の稼働時間を記録しているFクラスのガスタービン群とは異なり、天然ガスと水素の混合物で稼働する初めての9Fユニットになります。宇宙で一番豊富な元素である水素を空気と混合させて燃焼することで、ガスタービンからのCO2排出量をゼロにまで削減できるという潜在能力を発揮できるようになります。これまで75基以上のGE製ガスタービンが製鉄所や製油所の廃棄物を含む水素または低BTU(英国熱量単位)燃料の燃焼に積み上げてきた時間は合計600万時間にも及びます。
このタラワラBガス火力発電所はオーストラリア政府とニューサウスウェールズ州政府から合わせて8,300万豪ドル(約6,400万米ドル)の出資を受け建設されますが、今後10年間に取り組むガス関連プロジェクトの最初の案件でもあります。さらに、今後構築される水素供給ハブにおける最初の顧客となることが見込まれているのです。
「水素は、私たちの州にとって大きな経済的機会をもたらすものとして急速に存在感を高めており、今回の出資によってニューサウスウェールズ州は水素生産の世界的リーダーとしての立場を獲得し、私たちは時代の先端を走ることになります」とドミニク・ペロテット(Dominic Perrottet)ニューサウスウェールズ州財務大臣は言います。
豊富な日光と風の強い大地に満ちたオーストラリアは、再生可能エネルギー源から賄う電力を現在の27%から2030年までに41%に高める計画を進めています。オーストラリア全土で新たに20件の水素製造プロジェクトが進行中であることも、この流れをさらに加速させる一因です。
トップ画像:エナジー・オーストラリア社がニューサウスウェールズ州に新設するタラワラB発電所は、オーストラリアのクリーンエネルギー転換に不可欠な存在です。画像提供:GEガスパワー。
くわえて、最も意欲的な取り組みとしては、再生可能エネルギー4社で構成される企業連合から220億豪ドルの拠出を受けた「アジア再生可能エネルギーハブ(The Asian Renewable Energy Hub、AREH)」があります。AREHは、鉄鉱石の産出で知られる西オーストラリア州ピルバラ地域西部に1,600基の風力タービンと78平方キロメートルのソーラーパネルを設置する計画を表明しています。計画では2025年に完成し発電容量は26GWという大規模な発電所の建設となりますが、これは同国の石炭火力発電所すべてを合わせた発電容量を上回る規模になる見込みです。また、発電した26GWのうちの14GWは、淡水化された海水から電気分解によって「グリーン」水素を製造するために用いられます。したがって、このプロセスでは最初から再生可能エネルギー源によって得られた電力で水を分解し、酸素と水素を生成することになるのです。
水の分子を分解して水素を発生させることはコストがかかりますが、風が強く晴れた日に発電した余剰電力を活用して水素を製造することで、水素を高効率の蓄電池替わりに活用することが可能であり、そして結果的に水素製造のコストを削減することができます。また、必要な時間をかけて規模を拡大することで、水素供給企業は化石燃料と競争力のあるコストとされる1キログラムあたり1ドル近くを実現することを目指します。
さらに、オーストラリアがこれまで液化天然ガス(LNG)で行ってきたように、水素の輸出大国を目指すことが次のステップになると見られています。「オーストラリアはアジアへ水素を供給する一大拠点になりたいと考えています。しかし、そのためにはオーストラリアは自国内の需要にきちんと対応しなければなりません」とGEガスパワーのエマージェント・テクノロジー・ディレクターを務めるジェフ・ゴールドミア(Jeff Goldmeer)は述べています。
こうした点を踏まえると、タラワラに注目が集まっているのも不思議ではありません。資金調達時の取り決めとして、この発電プラントは年間20万トンのグリーン水素を購入することになっています。これは、設置するガスタービンの当初の燃料構成の5%に相当します。この水素濃度を高めていくことは、カーボンオフセットを求める動きに対処するためにも、エナジー・オーストラリア社が新発電プラントのライフサイクルを通じてネットゼロのCO2排出を達成するというコミットメントを果たすことにも役立ちます。
「本プロジェクトは、グリーン水素を活用して残留排出量をオフセットすることにより、ガス発電事業者が2050年までにCO2排出をネットゼロにするというニューサウスウェールズ州の計画とどう整合させるかについての新しいベンチマークになります」とマット・キーン(Matt Kean)ニューサウスウェールズ州エネルギー・環境大臣は述べています。
その一方で、水素は発電においてさまざまな課題ももたらします。燃焼速度がすさまじく早い水素は、燃焼するとその火炎がタービンの燃料ノズルに向かって加速しながら逆流し、機器に損傷を与えることもある「保炎」と呼ばれる厄介な現象をもたらす可能性があるのです。
タラワラに設置される9Fガスタービンは、GEのDLN 2.6+燃焼システムを装備すると最大18%の水素を含む燃料混合物を燃焼させることができます。さらに、今日でもGEのMNQC燃焼器を使用すればさらに高濃度で最高100%の水素濃度の燃焼をも可能にする仕様が設定できる上、将来は開発中の次世代のDLN型燃焼システムも対応可能です。
ゴールドミアは次のように述べています。「水素供給インフラを構築するにはおそらく何年もかかるでしょう。ですが、そのときまでにはさらに進んだ新しい燃焼技術を利用できるようになります。その一方で、大規模なCO2削減目標を達成する上でガス火力発電はすでに大きな役割を果たしています。ガスはすでに廉価で、誰もが利用できる電力を創出しており、風力や太陽光など、稼働が断続的に停止しがちなエネルギー源の利用促進を世界中でバックアップすることにも役立っています。電力業界の選択肢は、再生可能エネルギーと天然ガスのいずれか一方だけということはありません。脱炭素化のために、再生可能エネルギーと天然ガス発電を中核とした多面的なアプローチが必要になります。新たなアクションが求められる10年がまさに始まったのです。」